「安全レベルの向上」と「安全管理の効率化」を両立させるために

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はじめに

  世はまさにリスクアセスメントばやりで、「リスクアセスメントのシステムを構築すれば安全レベルが向上する」とばかりにリスクアセスメント熱が広がっています。
でもちょっと待ってください。皆さんの職場で構築している、あるいはこれから構築しようとしているリスクアセスメントの内容は、本当に潜在危険のリスクが評価できて確実にリスク低減できるものなのですか?
  リスクアセスメントにおいては一般に、「怪我のひどさ」、「発生の可能性」、「危険源へ接近頻度」の3つの指標(ファクター)の組み合わせでリスクを見積もり、そのリスクの大きさが許容できるものかどうかを評価(判定)しますが、皆さんの評価基準(特にOHSMSのリスクアセスメント基準)には、例えば次のような状況が存在していませんか。(≪ ≫内は筆者の独り言です。)
 @「発生の可能性」は「可能性が高い」「可能性がある」「可能性が
  低い」「可能性がほとんどない」の4段階で評価しているが、
  具体的な判断基準を定めてないので評価者の経験の差により
  評価結果がばらつく。そこで評価がばらついた場合は、多数決で
  あるいは現場管理者が決めることにしている。

   
≪リスクの大小は、危険源の種類・状態に応じて客観的に決まる
    ものなのに、主観的な多数決や管理者の判断で決めてよいの?
    災害を経験した職場とそうでない職場では判断に差が出る
    だろうなぁ、どう調整するのだろう、誰かの「天の声」で決める
    のかな?≫


 
A評価のばらつきを少なくするため具体的な判断基準を定めている。
  例えば、作業標準書を作成して訓練をしっかりやっている場合は
  「可能性が低い」と評価するようにしている。

   
≪現場をパトロールした時に、保護具の着用など決めたルールを
    守ってない作業者を見つけることはないのかなぁ。見つけた場合
    に管理者が黙認するようなことはないのかなぁ。そんな状態で
    「可能性が低い」と評価していいのかなぁ。≫


 
B安全装置(ハード対策)を設置している場合は「可能性がほとんど
  ない」と評価する判断基準を定めている。

   
≪安全装置が働かないようにリミットスイッチをガムテープで
    殺して運転している、あるいは、安全装置が故障したら設備が
    止まらない、といったことはないのかなぁ。そんな状態で
    「可能性がほとんどない」なんて言えるのかなぁ。≫


 
C安全装置として非常停止ボタンを設置している場合は「可能性が
  低い」と評価する判断基準を定めている。

   
≪非常停止ボタンは補助装置なのに安全装置と勘違いしている
    なぁ。仕事に従事している人は、イザという時沈着冷静に非常
    停止ボタンを押せる人ばかりなのだろうか?それとも誰か他の
    人が常に立ち会いしていて直ちに非常停止ボタンを押すように
    しているのかな(そんなに人的余裕のある企業なのかなぁ)?≫


 
Dリスクは「怪我のひどさ」、「発生の可能性」、「危険源へ接近頻度」
  に点数を与え、これを加算してその合計点でリスクを評価する
  定量法を採用している。ただし、「怪我のひどさ:致命傷」、「接近
  頻度:頻繁」の条件下では、「発生の可能性がほとんどない」の
  ように、どのようなしっかりした安全対策を実施してしても「リスクが
  大(運転することは不許可)」となってしまうので、しっかりした安全
  対策を実施した場合には「リスクは小(運転してよい)」となるよう
  に加算結果に修正を加えている。

   
≪「加算結果に修正を加えなければ使えないような基準は、
    基準自体のどこかがおかしいはずだ」と考えたとはないのか
    なぁ。加算結果のリスク順位が常識的に考えられるリスク順位と
    違うかどうか調べたことはあるのだろうか?≫


 
 安全方策には種々なものがあり、種類によって安全確保のレベル(能力)が異なりますが、これらはある程度客観的・技術的に判定できます。上記の@〜Cは、各安全方策の安全確保のレベルを客観的に評価・区分していないことを意味していますし、Dは「『怪我のひどさ』、『発生の可能性』、『危険源へ接近頻度』に適当な(任意の)数値を与えても、加算結果の数値の序列は適切なリスク順位を示すはずだ」、と誤解していることを意味しています。

  多数決や管理者の判断で危険源のリスクの大小を評価するやり方は、これまでも現場パトロールやヒヤリハツト活動で危険源を摘出した時に行ってきたのでありませんか? 従来と同様の評価基準を採用したままで、「リスクアセスメントを導入したから安全レベルが向上した(危険源のリスクを評価するやり方が向上した)」といえるのでしょうか。
  「そんなことはない。リスクアセスメントをやるようになって、現場作業者の危険源に対する意識が確実に向上した。」と反論されるかも知れませんが、意識の向上を図ることがリスクアセスメントの目的ではありません。リスクアセスメントの目的は「リスク低減対策を講じるために危険源のリスクを評価する」ということであり、「危険源の怖さを知ることで安全意識の向上を図る」ということではありません。「人はミスをする」「機械は故障する」、すなわち「安全意識をどんなに向上させても人間はミスをするのだから、リスクアセスメントを行ってリスクの大きさに応じた適切な安全対策を採用しなさい」といっているのです。
  従来と同様の評価を行いながら「リスクアセスメントのシステムを構築したので安全レベルが格段に向上した」といった話しを読んだり聞いたりするたびに、≪貴社がやっているのはこれまでのやり方をシステム化しただけで、本当の意味で危険源の潜在リスクを評価するためのリスクアセスメントにはなっていないのでありませんか?こんな見せかけのリスクアセスメントを構築して「安全レベルが格段に向上した」と自己満足していたら痛い目にあいますよ≫と叫ばざるを得ません。
 
 リスクアセスメントが機能するためには、危険源・危険状態を抜けなくリストアップするだけでなく、さまざまな安全方策(設備的、管理的)が持っている安全確保の能力を理解してリスク大きさに応じた安全方策を採用できるようにすることが大切です。
  まず理解しなければならないことは、さまざまな安全方策が保有する安全確保の能力です。具体的には、安全方策には確実に安全を確保できる「確定的安全方策」と確率的にしか安全が確保できない「確率的安全方策」があるということ、また、確率的安全方策にも色々あり、安全を確保できる確率(安全確保のレベル)に差があるということです。このことを理解しなければ、「安全レベルの向上」と「安全管理の効率化」を両立させることはできません。

  このホームページでは、「安全レベルの向上」と「安全管理の効率化」を両立させるために必要な「さまざまな安全方策が保有する安全確保の能力」について説明したいと思います。
まずは「確定的安全と確率的安全」の項から読んでいただければと思います。
そして、「さまざまな安全方策が保有する安全確保の能力」を踏まえた上で、現在多くの企業で見られるリスクアセスメントの問題点と対策について説明したいと思います。