☆ 噛める入れ歯でこんなに若返る!

 

20年前、私は生まれ故郷の長野県の過疎地で、開業しました。
それまで、「無歯科医村」だったその村は、治療のためにバスに乗って隣町まで通う事が大変だったため、「ムシ歯で痛くなったら、抜いてもらう・・・」という治療が選択されていました。 だから、若いうちに総入れ歯になった方が大勢いました。

あるとき、杖をついたおじいちゃんが、奥さんと、ヘルパーさんに付き添われて、ヨチヨチ入ってきました。 おじいちゃんは、お金がかかっても、良い歯が欲しいと希望していました。 でも、奥さんと ヘルパーさんは、私を離れたところに引っ張っていき、 「もう 先がないから、保険の歯でいいです。」と言うのです。
そこで、おじいちゃんに、 「○○さん、今より食べられる入れ歯出来るから・・ちょっと回数かかるけど、頑張って通ってくださいね〜〜」 とはなし、保険の歯を入れる事となりました。

保険の総入れ歯といっても、私は型取りを2回から3回行います。 その方のためにオリジナルの型取り用のトレーを私自身が作ります。 これは、20年間 ずっと行ってきました。
お口の中は柔らかいので、いかようにも変形し、頬や、舌、唇、といった周りの影響をうけやすいので、 実際に見た様子を思い浮かべながら、技工をします。 また、その方の若返った顔を想像しながらの技工は楽しいものです。
入れ歯の高さを調べる時が一番ワクワクする時です! (あっ この方こんなにきれいだったんだ・・) とか、 (この方は、昔モテただろうな〜〜) とか・・・・ 一瞬にして、若い顔になるのは、「デンタルマジック」です。


かくして、おじいちゃんの入れ歯は仕上がり、数回の調整も終わりました。 1か月ほどたった時、突然おじいちゃんが一人で入ってきました。 それも、杖無しで! 私は、調整にみえたのかと思いましたが、待合室から、 「やぁ〜 先生〜〜 歯具合いいぞ〜〜。今日はそれだけ言いにきたで。」 そして、ゆっくりでしたが、杖無しでそのまま帰っていきました。
これこそ、「総入れ歯マジック」!
もっとかっこ良い言い方をすれば、「フルデンチャーマジック」。 顔だけじゃない! 体もシャンとするのですよ。

豊橋に2軒目の医院を構えて 足かけ5年が経ちました。
開業当初から 訪問診療を行っております。 訪問診療は、昼休みの1時間と、午後の診療時間1時間の計2時間を当てています。 ですから、1日1軒しか伺うことが出来ません。
今まで、いろんなところに出向きました。 豊橋市の地名が全く分からない状態でしたから、往診車にナビを付けて、隣にアシスタント兼ナビゲーターを座らせて・・ その甲斐あって、かなり市内の道を覚えました。 石巻山、多米、下地・・・ かなり遠くまで行きました。 数年のお付き合いになる方もいます。

脳梗塞の後遺症で寝たきりの男性・・・ 入院中 ほとんど口の中を触ってもらっていなかったらしく、退院してきたら、歯がボロボロになっていた・・・と奥さんが悲しげでした。 先ず 奥さんにお口の中を掃除してもらう事から覚えてもらいました。
家族同士の常ですが、この時 喧嘩になる事が多いのです。 赤く腫れた歯ぐきに歯ブラシを当てると痛いですよね。 それを、他人がやるわけですから、 「痛い!!」 (口を閉じようとする・・) 「ほら!、もっと開きん!!」 (日頃の疲れもあって イラつく) ご夫婦ならなおのこと・・・ このご夫婦は、喧嘩しながらも、奥さんの明るい性格も手伝って、段々、良いお口になってきました。
数週間後、いよいよ治療開始です。 最初は、歯を抜く事から始まりました。 抜くべき歯を抜いて、上下の部分入れ歯を作りました。 かみ合わせもバッチリ!  これで何でも食べられる・・・

ところが1年後・・・ 片マヒがあると感覚が左右違うので、健康な方より入れ歯に慣れにくいため 結局、入れ歯は入れてもらえず また 抜く歯が出てきました。
今度は、上だけ入れて欲しい・・・と依頼されました。 下には、10本以上自分の歯があります。 上は、1本しか残っていません。 この1年、下の自分の歯と、上の歯ぐきで結構食べていたという事でした。
ここで、発想の転換です。 健康な方と同じ入れ歯でなく、上の歯ぐきを保護する目的で、ちょっと低めの入れ歯を入れました。 歯ぐきよりは、かたい物が噛めるはず!!
入れ歯を入れてから、2週間後・・・ 様子を見に伺うと、 「いつもしゃべらんこの人が、往診に来る内科の先生に 自分から挨拶をしたんよ。先生はびっくりして・・・・」と 奥さんが嬉しそうに話してくれました。
噛む事が出来ると、体は元気になります。 脳も元気になります。心も元気になるのです。
ちょっと前の 元気を取り戻していただけると、歯医者冥利に尽きます。