跋
からびたるも、艶なるも、たくましきも、はかなげなるも、おくのほそ道見もてゆくに、おぼえず起ちて手たたき、伏して村肝を刻む。一般は蓑を着る着るかゝる旅せまほしと思ひ立ち、一度は坐してまのあたり奇景を甘んず。かくて百般の情に鮫人が玉を翰にしめしたり。旅なるかな、器なるかな。ただ嘆かしきは、かうやうの人のいとかよわげにて、眉の霜のおきそふぞ。
元禄七年初夏 素竜書
「からびたる」は、枯淡なおもむき。村肝は「深く心に感動をおぼえるさま」と補注にあり、「伏して村肝を刻む」を、「頭を垂れて心肝を切り刻むごとき深い感銘に誘われる」と評釈にありました。でね「村肝」は万葉集だと心にかかる枕詞です。
巻四 大伴宿禰家持贈娘子歌
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村肝の心砕けてかくばかり
わが恋ふらくを 知らずかあるらむ
村肝之 情揣而 如此許 余戀良苦乎 不知香安類良武
また一冊、ぼろぼろにしちゃいました。書き始める前に撮っとかないとね。が、幸い、ウェブ検索したらいくつかヒットしました。息の長い古典ならではかと… モチパクで表紙だけあげました。でね、カバーは義仲寺蔵の「那須野の図」芭蕉翁絵詞伝からのようです。義仲寺には芭蕉の墓もあるとか。で、那須野のあたりを引用して…
小さき者ふたり、馬の跡慕ひて走る。ひとりは小姫にて、名を「かさね」といふ。聞きなれぬ名のやさしかりければ、
かさねとは八重撫子の名なるべし 曾良