おくのほそ道

    ばつ

 からびたるも、えんなるも、たくましきも、はかなげなるも、おくのほそ道もてゆくに、おぼえずちて手たたき、伏して村肝むらきもを刻む。一般ひとたびみのる着るかゝる旅せまほしと思ひ立ち、一度たびは坐してまのあたり奇景をあまんず。かくて百般ももたびの情に鮫人かうじんが玉をふでにしめしたり。旅なるかな、うつはものなるかな。ただなげかしきは、かうやうの人のいとかよわげにて、まゆの霜のおきそふぞ。

  元禄七年初夏       素竜書



「からびたる」は、枯淡なおもむき。村肝は「深く心に感動をおぼえるさま」と補注にあり、「伏して村肝むらきもを刻む」を、「こうべを垂れて心肝しんかんを切り刻むごとき深い感銘に誘われる」と評釈にありました。でね「村肝むらきも」は万葉集だとこころにかかる枕詞です。

巻四 大伴宿禰家持贈娘子歌

720 村肝の心砕けてかくばかり
  わが恋ふらくを 知らずかあるらむ

村肝之むらきもの 情揣而こころくだけて 如此許かくばかり 余戀良苦乎あがこふらくを 不知香安類良武しらずかあるらむ


おくのほそ道 頴原退蔵・尾形仂 角川ソフィア文庫

 また一冊、ぼろぼろにしちゃいました。書き始める前に撮っとかないとね。が、幸い、ウェブ検索したらいくつかヒットしました。息の長い古典ならではかと… モチパクで表紙だけあげました。でね、カバーは義仲寺蔵の「那須野の図」芭蕉翁絵詞伝からのようです。義仲寺には芭蕉の墓もあるとか。で、那須野のあたりを引用して…

 ちひさき者ふたり、馬の跡したひて走る。ひとりは小姫こひめにて、名を「かさね」といふ。聞きなれぬ名のやさしかりければ、


 かさねとは八重撫子やえなでしこの名なるべし 曾良

成功