クレーマー・無差別殺人

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クレーマーと大量無差別殺人は、全く無関係のように見えますが、どちらも社会という対人関係の中の危険意識において、過敏反応を示しているという共通点があります。対人関係学の出番の類型だと思います。


クレーマー対策

クレーマー予防と対処法

クレーマー予防と対処法

問題意識
クレーマーは、厄介なものです。そういう意識が、あれもこれもクレーマーだと恐れを生むため、本来敵対する人ではない人に対して過剰な防衛反応を示し、結局は泥沼に陥る事例を見ています。クレーマー対処を誤って、一般客からも敬遠されるような接客態度は最悪です。また、こちら側の過剰意識がクレーマーを作り出している場合も多く見られます。本論では、クレーマーを作らない接客態度とクレーマーが起きてしまった場合の上手な対処方法を検討します。

1 クレーマーとゆすりたかりの区別

クレーマーとゆすりたかりを一緒にしてしまうと、解決の方向には向かいません。ここをはっきりと区別しましょう。
ゆすりたかりの特徴は、a)何らかのこちら側の不具合を主張して、b)意図的にこちら側の精神的動揺を作り出し、c)判断力が低下したことを利用して金品を請求するものです。a)の不具合は業務とは関係の無いこともあります。例えば社長の不倫とか、政治上の不祥事とかですね。ゆすりたかりをする人に不利益は生じていない、あるいは些末な不利益にすぎないということが特徴です。こういうゆすりたかりに対しては、警察に相談することが王道です。
クレーマーは、あくまでも業務に関連するこちらの落ち度を指摘します。また、不利益は自分の不利益です。要求するものは当初は漠然としていて、とにかく謝ってほしいような主張をすることが特徴です。必ずしも金品の主張をしていません。今回の研究対象はクレーマーです。
ところが、接客する側の防衛意識が過剰である場合、両者の区別はつきません。要は、こちらが無理難題を突き付けられているという、解決不能の意識だけが生まれています。

2 クレーマーの心理

<クレーマーは、なぜ頑張ることができるのか。>
クレーマーの表面的心理は、正義感です。「自分がこのような酷い目にあうことは、正義に反する。」、「自分でさえこれだけひどい目にあっているのだから、自分より弱い老人等はもっと心細くなるだろう。自分が頑張らなくてはならない。」ということを心で言い訳しています。人間は他人のために頑張るとき、実力の1.5倍の力を出します(私比較)。一人ぼっちで戦っているのではないという意識もあるでしょう。これともう一つ別の事情があります。自分のクレームは大人げないとか、そこまで言う必要はないのではないかという他者の目や自分の心がありますから、説得的に冷静に語れず、根拠が弱い分大声を出してカバーしようとするという事情です。

<クレーマーはなぜ怒るのか>
怒りの原因は、対人関係的危機感です。自分が相手と自分の関係の中で、尊重されていないという感覚は、極端に言えば、自分が敵視され、攻撃されるという予期不安を生じさせます。この不安に対して、いじけて、あきらめて対処する人もいれば、相手を攻撃して尊重を実現させようとする人もいます。クレーマーは明らかに後者です。相手を攻撃して不安を解消しようとするときの心理状態が怒りです。
但し、怒りのもう一つの性質は、必ずしも原因に向かわないということがあります。いわゆる八つ当たりです。本当は不安の根本原因は、貧困などの社会的不遇だったり、会社で上司や取引相手から低評価を受けたり、心理的圧迫を受けていることだったり、あるいは不治の病だったり、別の所にある場合がむしろ多いでしょう。怒りは、相手を攻撃して不安を解消できると思わないと怒らないようです。つまり自分よりも弱いと感じると発動する感情のようです。接客業の場合は、丁寧な対応をしますし、周りに別のお客さんがいますから、こちら側も乱暴な対応をしにくいという事情があります。クレーマーは、感覚的に勝てると思ってしまうのでしょう。
要するに社会的不遇が不安の80%を占めていて、家庭の問題が15%、のこり5%程度の不安を接客によって与えられたとします。この時接客業者に対する怒りは、自分の抱えている100%の不安を解消しようとする行動になります。このため、些細なことで考えられないくらい執拗に怒りだすわけです。
クレーマーのエネルギーは不安に根差しています。

3クレーマー予防

・言葉を使う
接客業で、お客さんが待っていることを知っていても、なかなか対応できない場合があります。勢い他の店員に任せたことにして目を会わせない等の無視を決め込むことがあります。対応はできないけれど、「大変申し訳ございません。5分ほどお待たせしてしまうかもしれません。」ということはできます。そのような適確な見通しを告げられなくても「お急ぎの所お待たせして申し訳ございません。」ということはできます。大事なことは、気にかけている、迷惑をかけていることに心苦しく感じているということを2秒の言葉で話すことができるわけです。そうすると、相手は尊重されていないわけではない、合理的理由があって待たされているという気持ちになるわけです。突発事態であれば、例えば病院で、「容態の悪い方がいらっしゃいました。緊急の手当てをして大きな病院に移動しなくてはなりません。お急ぎのところ申し訳ありませんが、なにとぞご協力お願いします。」というように言われれば、自分も救急医療チームの一員になった気持ちになり、待つことで応援するという役割感を発揮することさえできます。それを、急患なんだから当たり前だというような態度で、何も説明なく待たせることはクレーマーを作っているというべきでしょう。
・対等な関係を作るという心構え
クレーマーは、自分が尊重されていないという気持ちになることで起きます。神様扱いされようと思っているわけではありません。あくまで対等な関係、接客という一時的な関係にしても、一時的な仲間だという意識が最もふさわしいようです。
・相手の心を察する
相手の心を察する力があり、それに対して堂々と対応できる図々しさがあればクレーマーは起こりにくいようです。相手の心を読むということはそれほど大変なことではありません。要するに待たされていたら、特に用事がない人もイライラしてくるわけです。イライラしない人はあきらめている人か、何か待つことで別の楽しみを見つけられる人だけです。横入りされれば不愉快ですし、それを注意しないで対応すれば、後ろに並んでいた人は自分が尊重されないと思うでしょう。また、予約してわざわざ来店してもらったのに、別のお客さんの対応をしていたら、馬鹿にされたような気がするでしょう。感情を表情や言動にあらわさなくても、通常そのような感情になると決め込んで、きちんとした対応をするべきです。これは、類型的に起きることなので、先輩が後輩に自分の失敗談を交えて、対処方法も含めて教えることは簡単です。
・相手の話をよく聞く
相手の話をよく聞かないで思い込みで対応すると、相手は自分にきちんと対応していない、いい加減に扱われているという感覚になります。相手の言っていることが分からないならば、こういうことですかと確認してよいのです。わかろうとする気持ちが伝わればよいのです。
軽いクレームのようなことを言われることがあります。防衛意識が過剰になると、クレームが始まったと思い易いので注意です。よく聞いて、相手の話の合理的な部分を探し出して共感を示すということが上級編でしょう。すべてがクレーマーだ、負けてはダメだという対応では、すでに接客業ではないでしょう。
・相手の弱点を笑わない ここに神経を使う
これは当然のことなので大丈夫だと思いがちですが、それぞれの接客業で、相手は自分の弱点をさらしていることがあります。医療現場ならば疾患ですし、法律分野であればトラブルですし、被服であれば体型だったりします。弱点をさらしている顧客は、危険意識を感じやすい状態にあります。くれぐれも、虎の尾を踏まないということが鉄則です。

4 クレーマーへの対処法

・ 相手の話をよく聞く
クレーマーの方の話をじっくり聞くということが第一です。
じっくり聞いてもらえたというだけで、自分は尊重されているという気持ちになることがあります。
相手の言い分は、怒りが混じっていますから、大げさだったり針小棒大だったりすることがあります。しかし、よくよく聞くと、言い分ももっともだというところもあります。クレームも一度にいくつかのことをいっぺんに言っていることがありますので、その点にも注意が必要です。そうすると、受け答えが悪いというクレームでも、その前に待たされて何の配慮もないというところから始まっていて、通常ならば問題のない受け答えなのに、そのことを無かったことにしたかのような対応だったので自分が無視されたと感じていたというものだったりします。自分を守ろうとすると、そういうところは見えてきません。ブラスワンの技法で、相手の言い分、自分の言い分を公平に観察することができると、解決は見えてきます。
相手の言うところのもっともなところは、共感を示し、こうすればよかったねと確認すると相手は満足することが多いようです。
クレーマーと微妙に違うのは、おせっかいで、こうすると良いというアドバイスをする人です。クレーマーとして扱ってしまうと、本当のクレーマーになってしまいます。相手の言い分の合理性を探すことは今後の接客対応に大変参考になることが多いです。
・ 謝罪よりも、感謝と共感
 不思議なことで、謝罪をすると、自分が尊重されていなかったのだと再評価をする人がいます。謝罪をしてしまうと、それで終わりだから、「あとは黙っていろ」と言われた気持ちになることもあるようです。謝罪の前によく聞いて一緒に考えるという態度は、平等に扱っているということを示します。それよりも、相手方のクレームを、改善の提案だと受け止めることができれば感謝を口にすることがクレーマー心理をくすぐることになります。役割感を果たしたという実感は不安を軽減し、解消するからです。それから、相手の言い分、相手の感情について、条件付きであったとしても、限定的であったとしても、共感を示すことは、こちらがから理解を示されたと思うようになるようです。

5 クレーマーを作る業務環境

クレーマーを作る接客態度として、従業員が忙しすぎるというところがあります。忙しすぎると落ち着いて物事が考えられなくなるという思考のストレス反応が起きます。相手の立場を共感を以て考える能力は著しく低下します。
忙しすぎるということは、一人がいろいろなことをやらなくてはならなくて手があけられない、ノルマがきつすぎて効率を求めるあまりに顧客を無意識にランク分けする、寝不足等です。こういう対応をしていれば顧客は寄り付かなくなるでしょう。
営業を長く続けるのか、短期目標があげられれば将来的なことはどうでも良いのか、考えれば簡単にわかることなのですが、厳しい経済状況は経営者の方にも落ち着いて考えられる環境を奪い、思考のストレス反応が起きやすい事情なのかもしれません。

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