一九四〇年八月二十日?
“タバコを吹かす男”、誕生。
 本名は、カール・ゲルハルト・ブッシュである。一説によれば、ルイジアナ州バトン・ルージュにて、生を受ける。しかしながら、間もなくして、孤児と化したらしい。共産主義者の父親が、ソヴィエト連邦の内通者として、処刑されたのである。ルイジアナ刑務所の電気椅子において、父親への死刑が、執行された直後、愛煙家の母親もまた、病死を遂げる。肺ガンが、その死因であった。以降は、中西部の孤児院を、遍歴したらしい。
 とはいえ、以上の情報は、あくまでも、“タバコを吹かす男”の半自伝小説・『チャンスを掴め:ジャック・コルキットの冒険』によるものである。必ずしも、鵜呑みにはできない。少なくとも、生年月日については、大いに、疑問の余地がある。
一九四六年

二月
X‐ファイル、作成さる。
 発端は、モンタナ州ブラウニングに発生した、七件もの連続殺人事件である。その様態は、マニトウによる犯行を、示唆するものであった。マニトウは、先住民族・トレゴ族の伝説に登場する、半人半獣にあたる。
 事件捜査にあたったのは、ジョン・エドガー・フーヴァー初代長官の率いる、FBIである。しかしながら、その捜査活動にもかかわらず、合理的解決は、ついに、断念される。フーヴァーは、自ら、報告書を作成した上で、一連の超常事件を、封印する。
 以降、FBIの体面に、差し障る事件は、未解決の烙印を押されて、棚上げとなる。その際に、活用されたのが、Xのファイル・キャビネットである。FBIは、事件資料の整理に、アルファベット順での分類を、採用する。それゆえに、Xのファイル・キャビネットは、どうしても、余剰を生じてしまう。しかしながら、日頃、使用されない、そのキャビネットは、人目をはばかる、超常事件の封印に、最適であった。
 結果として、未解決事件のうちでも、Xのファイル・キャビネットへと、分類されるそれは、いつしか、X‐ファイルの通称を、冠する事となる。
九月
ペーパークリップ作戦
 第二次世界大戦の終戦直後、日・独・伊の戦犯科学者が、極秘のうちに、米国へと亡命する。これが、ペーパークリップ作戦である。その作戦名は、戦犯科学者の入国審査書類が、クリップによって、束ねられた事に、由来する。
 米国政府は、第二次世界大戦の戦勝国として、敗戦国の戦争犯罪者を、断罪する立場にあった。にもかかわらず、上記の戦犯科学者に対しては、軍事裁判を経る事なく、恩赦を与える。その目的は、ソヴィエト連邦との軍事開発競争を、征する事にあった。たとえ、戦争犯罪者であろうとも、有為の人材が、敵国に流出する事態は、何としても、阻止せねばならなかったのである。
 ペーパークリップ作戦は、以降、一九五〇年代にかけて、継続される。亡命後の戦犯科学者は、その頭脳をもって、米国の科学技術発展に、多大なる貢献を、果たす事となる。
一九四七年
ロズウェル事件
 ニュー・メキシコ州北西部のハイ・デザートにおいて、“先住民”の宇宙船が、墜落事故を生じる。その事故原因は、当地の埋蔵するマグネタイトであった。これが、後年に言う、ロズウェル事件である。
 宇宙船の乗員総数および生存者の有無は、判然としない。少なくとも、一名については、事故直後の生存が、確認されている。しかしながら、安全対策の一環として、射殺される。現場処理を担当した、米軍による措置であった。
 米国政府は、“先住民”の死体および宇宙船の残骸を、極秘回収の上、分析する。それによって、“先住民”の来歴、ひいては、その“先住民”が進行する、地球再入植計画の存在を、突き止めるに至る。宇宙船搭載のデータベースによれば、“先住民”の地球再入植計画とは、すなわち、ピュリティーによる、現生人類の根絶計画であった。
 以降、米国政府は、ロズウェル事件関連の対応を、国務省に一任する。国務省の管轄は、外交問題である。あくまでも、推測に過ぎないものの、おそらく、米国政府は、外宇宙からの侵略行為を、広義の外交問題として、解釈したのであろう。
日付不明
国際連合安全保障理事会決議・1013、採択さる。
 ロズウェル事件の発生を受けて、米国は、冷戦時代(一九四五年〜一九八九年)の最中にもかかわらず、ソヴィエト連邦、中国、イギリス、東西ドイツ、フランスの各国首脳と、極秘のうちに、国際会議を開催する。ロズウェル事件によって、外宇宙よりもたらされた、超科学技術の有効利用について、意見交換をするためである。
 さらに、第二・第三のロズウェル事件に備えて、宇宙船墜落事故への対応についても、取り決められる。それは、墜落事故後もなお、乗員が生存していた場合は、その抹殺を、義務付けるものであった。その取り決めは、国際連合安全保障理事会決議・1013として、各国に共有される事となる。
一九四〇年代
国務省、交配種研究を開始。
 ロズウェル事件のもたらした、“先住民”の死体を元に、国務省は、極秘の研究事業を、発足する。それは、ヴィクター・クレンパーら、ペーパークリップ作戦の各国亡命者による、国際規模とも言える、人体実験であった。その目的は、“先住民”および現生人類の遺伝学的交配にあった。被験者は、機密保持の一環として、“商品”なる暗号名を、付与される事となる。
 あくまでも、推測に過ぎないものの、国務省の目的は、おそらく、ピュリティーへの免疫抗体を、獲得する事であったのだろう。ピュリティーへの耐性を有するのは、唯一、“先住民”のみである。だからこそ、“先住民”との交配をもって、ピュリティーによる現生人類絶滅を、回避せんと図ったのではないだろうか。
 いずれにしても、クレンパーらの人体実験は、失敗に終わったらしい。“商品”は、毒殺の上、ニュー・メキシコ州のナヴァホ族居留地へと、人知れず、埋葬される。しかしながら、交配種研究そのものは、以降もなお、継続される事となる。
一九四〇年代後半
“先住民”の先発隊、工作活動を開始。
 “先住民”は、二名からなる先発隊を、地球に派遣する。その目的は、地球再入植計画の準備であった。
 二名の先発隊員は、その労働力として、ヒト型のクローンを、生産した上で、地球上での工作活動にあたる。
一九五〇年代
国務省、一般国民の遺伝情報収集を、開始する。
 米国政府は、冷戦時代の最中にあって、一般国民の遺伝情報収集を、国務省に指示する。その目的は、個人情報の一括管理にあった。米国政府は、ソヴィエト連邦との全面核戦争に備えて、一般国民の身元確認を、確実にせねばならなかったのである。とはいえ、そうした危機的状況を、一般国民に対して、あからさまにできぬのは、想像に難くない。
 遺伝情報の収集にあたって、利用されたのは、種痘(天然痘の予防接種)であった。当時の米国において、種痘は、老若男女を問わぬ、当然の医療行為であった。遺伝情報の採取および個人識別用遺伝子の移植を、それと悟られぬまま、実施するには、まさしく、好都合であった。
 遺伝情報の収集は、以降もなお、継続される。米国政府の目的は、あくまでも、戦時下での身元確認にあった。しかしながら、一九八九年の冷戦終結によって、全面核戦争の危機は、回避される。
 実際のところ、一般国民の遺伝情報は、国務省によって、ロズウェル事件以来の交配種研究に、利用される事となる。
日付不明
“タバコを吹かす男”、国務省へと異動する。
 成人後の“タバコを吹かす男”は、陸軍大尉として、ノース・カロライナ州の特殊戦闘本部へと、配属されたらしい。しかしながら、国務省の抜擢によって、ロズウェル事件以来の交配種研究に、従事する事となる。『チャンスを掴め:ジャック・コルキットの冒険』によれば、その異動は、一九六二年十月三十日付とされるものの、疑わしい。
ウィリアム・“ビル”・モルダー、国務省へと異動する。
 『チャンスを掴め:ジャック・コルキットの冒険』によれば、ビルの前身は、軍人である。しかしながら、友人のアルヴィン・カーツウェル共々、国務省の抜擢によって、一般国民の遺伝情報収集に、従事する事となる。異動の日付は、判然としない。しかしながら、『旅人(File No.515)』によれば、少なくとも、一九五二年の時点においては、すでに、国務省職員だったはずである。
 当初のビルとカーツウェルは、その任務を、ソヴィエト連邦との全面核戦争に、備えるものと信じて、疑わなかった。しかしながら、その実、遺伝情報の使途は、ロズウェル事件以来の交配種研究であった。そうした実態に、失望したカーツウェルは、早々に、国務省を退職する。それに対して、ビルは、その正義感ゆえに、同僚の“タバコを吹かす男”らに対して、翻意を促す。『チャンスを掴め:ジャック・コルキットの冒険』によれば、ビルと“タバコを吹かす男”は、陸軍時代以来の親友であった。
一九五三年
ゼウス・フェーバー、被曝。
 米国政府は、海軍潜水艦のゼウス・フェーバーを、北太平洋に派遣する。その目的は、フー・ファイターの回収にあった。フー・ファイターは、未確認飛行物体を意味する、隠語にあたる。米軍戦闘機・P51ムスタングが、北緯・四二度、東経・一七一度の海域において、“先住民”の宇宙船を、撃墜したのである。
 しかしながら、ゼウス・フェーバーによる回収作業は、失敗に終わる。乗員の大量被曝が、発生したのである。結果として、乗員・百四十四名のうち、百三十七名までが死亡する、大惨事となる。放射線の発生源は、ピュリティーであった。おそらくは、海底という極限状態を、生き延びるべく、宇宙船に乗り組む“先住民”が、緊急避難として、変態したのであろう。
 ピュリティーの魔手を逃れて、ゼウス・フェーバーが入港したのは、ハワイの真珠湾である。米軍および国務省は、八月十九日、同地の海軍病院において、生存者への事情聴取を、実施する。その際、国務省の担当者として、派遣されたのが、ビルおよび“タバコを吹かす男”であった。
一九六〇年四月四日
ジョン・ジェイ・ドゲット、誕生。
 ジョージア州アトランタのデモクラット・ホット・スプリングスにて、生を受ける。
一九六一年十月十三日
フォックス・ウィリアム・モルダー、誕生。
 マサチューセッツ州チルマークにて、生を受ける。戸籍上は、ビルと、その妻・ティナの第一子にあたる。しかしながら、その実態は、ビルではなく、“タバコを吹かす男”との間に、ティナがもうけた、不義の子であった。
一九六三年

日付不明
メリッサ・“ミッシー”・スカリー、誕生。
 海軍大佐のウィリアム(愛称・ビル)と、その妻・マーガレットの第二子として、生を受ける。第一子は、ウィリアム・“ビル”・ジュニアである。
十一月二十二日
ジョン・フィッツジェラルド・ケネディ暗殺事件
 ケネディは、第三十五代米国大統領である。しかしながら、テキサス州ダラスにて、射殺される。米国政府設置の調査機関・ウォーレン委員会は、リー・ハーヴェイ・オズワルドの単独犯行として、調査を結論付ける。
 しかしながら、『チャンスを掴め:ジャック・コルキットの冒険』は、“タバコを吹かす男”を、真犯人とする。どうやら、暗殺事件の背景には、ケネディの外交政策に対する、米軍高官の不満が、存在したらしい。
一九六四年二月二十三日
ダナ・キャサリン・スカリー、誕生。
 メリーランド州アナポリスにて、生を受ける。ウィリアムとマーガレットの第三子にあたる。その後、末子として、チャーリーが誕生する。
一九六五年十一月二十一日
サマンサ・T・モルダー、誕生。
 マサチューセッツ州チルマークにて、生を受ける。ビルとティナの第二子にあたる。
一九六八年

三月十三日
モニカ・ジュリエッタ・レイエス、誕生。
 テキサス州オースティンにて、生を受ける。
四月四日
マーティン・ルーサー・キング・ジュニア暗殺事件
 キングは、キリスト教・プロテスタントの牧師にして、人種差別撲滅を訴える、公民権運動の指導者である。しかしながら、テネシー州メンフィスにおいて、射殺される。被疑者として、逮捕されたのは、白人至上主義者のジェームズ・アール・レイであった。
 しかしながら、『チャンスを掴め:ジャック・コルキットの冒険』は、やはり、“タバコを吹かす男”を、真犯人とする。晩年のキングは、ヴェトナム戦争への反対運動によって、米国政府の反共産主義政策を、非難する立場にあった。
TO BE CONTINUED(続く)
※参照
 E.B.E.(File No.16)
 変形(File No.18)
 入植(File No.216, 217)
 アナサジ祈り/ペーパークリップ(File No.225, 301, 302)
 海底/アポクリファ(File No.315, 316)
 紫煙(File No.407)
 旅人(File No.515)
 ザ・ムービー
 ファイト・ザ・フューチャー(File No.611, 612)
 誕生 Part2(File No.821)
 真実(File No.919, 920)
 闘争 Part1(File No.1001)
 闘争 Part3(File No.1101)