だが、我々は、自問すべきだ。全部、与太話に過ぎないのか? 我々は、唯一の知的生命体なのか? それとも、欺かれているのか?
フォックス・モルダー

あらすじ:
 一九四七年、ニュー・メキシコ州北西部のハイ・デザートにて、未確認飛行物体の墜落事故が、発生した。しかしながら、乗組員のうち、少なくとも、一名は、事故死を免れる。その墜落現場は、米軍によって、封鎖された。のちに言う、ロズウェル事件である。
 二〇一六年、インターネット配信の報道番組において、タッド・オマリーなる司会者が、気炎をあげていた。その報道番組・『タッド・オマリーの真実を追え』は、米国政府の陰謀を、糾弾するものであった。とはいえ、世間一般にしてみれば、あくまでも、荒唐無稽の与太話に過ぎない。
 あらゆる陰謀は、一九四七年のロズウェル事件に、端を発する――それが、オマリーの主張であった。そのオマリーが、X‐ファイルの存在に、注目したらしい。モルダーは、スキナーを介して、オマリーからの接触を受ける。

File No.1001(#1AYW01)

原題:My Struggle
邦題:闘争 Part1

脚本/監督:Chris Carter(クリス・カーター)

備考:
・原題は、“わが闘争”の意。カール・オーヴェ・クナウスゴールの同名小説に、由来する。ナチス・ドイツ総統のアドルフ・ヒトラーにも、同名の著作が、存在するものの、こちらとは、無関係である。
 クナウスゴールは、一九六八年、ノルウェーにて、生を受けた。作家としての活動開始は、一九九八年である。二〇〇九年、実体験に基づいて、執筆した『わが闘争』が、世界各国において、反響を巻き起こす。その後、『わが闘争』は、二〇一一年にかけて、全六巻が発表された。

・今回、モルダーの交通手段として、利用されるのが、Uberである。
 Uberは、米国を発祥とする、タクシーの一種にあたる。しかしながら、専属の運転手および固有の車両は、存在しない。提携する一般人が、その自家用車をもって、業務にあたるのである。
 乗客の利点としては、待機時間の短縮が、挙げられる。携帯端末さえあれば、たとえ、路上であろうとも、直近の提携車両が、すぐさま、駆けつけてくれる。その一方で、提携運転手による、乗客への性的暴行事件などが、後を絶たない。

・モルダーは、ビル・オライリーを引き合いにして、初対面のオマリーを、挑発する。
 オライリーは、ニュース・キャスター兼記者である。報道各社を経て、一九九五年、FOXにおいて、自身司会の報道番組・『オライリー・ファクター』を立ち上げた。すると、直截な物言いが、耳目を集めるに伴って、『オライリー・ファクター』は、『X‐ファイル』と同様、FOXの看板番組へと、発展するに至る。
 しかしながら、二〇一七年をもって、『オライリー・ファクター』は、突然の放送終了を迎える。オライリーによる、複数女性へのセクシャル・ハラスメントが、取り沙汰されたのである。結果として、オライリーは、その疑惑を、払拭できなかった。それが、『オライリー・ファクター』からの提供各社撤退を、招いたのであった。

・今回のモルダーは、主治医のスカリーによって、内因性うつ病の診断を、受けている。
 うつ病は、極度の憂鬱が、精神ばかりでなく、肉体への悪影響をも、生じる病気である。その病態は、主として、三種類に大別される。精神的疲労による心因性うつ病、脳病などによる身体因性うつ病、そして、内因性うつ病である。
 内因性うつ病は、心因性うつ病と同様、心理的負担によって、生じる場合もある。しかしながら、明確な発病原因は、二〇二〇年現在もなお、特定されていない。一定期間を経れば、自然治癒する例もあるものの、その一方で、再発の危険性も、少なくない。

・モルダーは、ファラデー・ケージに格納されたARVと、対面を遂げる。そのARVは、モスコヴィウムによって、実現されたものであった。
 ファラデー・ケージは、金属などの電気伝導体によって、密閉された空間を指す。その内部空間は、正確な電力測定を、可能とする。周囲の電気伝導体が、外界の電気を、一切、遮断するのである。
 ARVは、その正式名称を、Alien Replica Vehicleという。翻訳すれば、“地球外複製船”といったところであろうか。つまりは、地球外起源の宇宙船を、地球の科学技術によって、模造したものを指す。
 モスコヴィウムは、原子の一種である。元素周期表においては、百十五番目に位置する。二〇〇四年、新たな放射性元素として、発見されたものの、二〇一六年十一月の公認までは、ウンウンペンチウムの仮称を、使用した。その特徴は、一秒を待たずして、放射線量が半減、崩壊へと至る点にある。とはいえ、二〇二〇年現在、実用化の目処は、ついていない。

・モルダーは、タスキギー実験およびヘンリエッタ・ラックスをもって、医科学による人命軽視を、例示する。
 タスキギー実験は、アラバマ州タスキギーにおいて、米国政府が実施した、人体実験である。黒人男性のみを対象として、一九三二年から、四十年間にも渡って、実施された。六百名もの被験者は、その大半を、梅毒感染者が占めた。
 梅毒は、性病の一種である。病状の経過に伴って、多種多様の合併症を、併発する。その病態を、非感染者との比較によって、観察する事こそが、タスキギー実験の目的であった。
 被験者の募集は、医療無償化などを、交換条件とするものであった。しかしながら、その実、被験者に行われたのは、身体検査のみであった。タスキギー実験の目的は、あくまでも、梅毒の経過観察である。治療法の研究は、二の次、三の次に過ぎなかった。つまり、実験台の梅毒感染者は、一切の治療を、施されぬまま、いたずらに、病死していったのである。そもそも、梅毒感染の事実さえ、告知されてはいなかった。
 被験者は、皆、無学の貧困層であった。そうした社会的弱者を、米国政府は、無知に付け入って、利用したのである。それは、事実上の人種差別であった。にもかかわらず、米国政府による公式謝罪は、一九九七年を待たねばならなかった。
 性別こそ、女性であるものの、一方のラックスもまた、黒人であった。ヒト細胞の培養成功に、貢献した人物として、周知される。ラックスの体細胞は、突然変異によって、無限の分裂を繰り返す、いわば、不死細胞だったのである。その培養細胞は、ラックスの姓名にちなんで、HeLa(ヒーラ)細胞と命名された。そして、今日に至るまで、様々な研究に、役立てられている。
 しかしながら、HeLa細胞の培養は、ラックスの承諾を、得たものではなかった。ラックスは、一九五一年、子宮頸がんによって、病死した。その直前、検体として、無断採取されたのが、のちのHeLa細胞だったのである。そればかりではない。HeLa細胞の出自については、その後、二十数年間に渡って、ラックスの遺族にさえ、伏せられていたのである。

・米国特有の法律として、挙げられるのが、愛国者法および国防権限法である。これらをもって、オマリーは、米国政府の政策方針に、警鐘を鳴らす。
 愛国者法は、いわゆる、対テロ法案である。二〇〇一年の米国同時多発テロ事件を受けて、同年のうちに、制定された。被疑者の拘束や、盗聴などの情報収集において、捜査機関の権限を、強化するものである。その一方で、恣意的運用に伴う、人権侵害の危険性も、指摘される。
 一方の国防権限法は、米国政府の予算権限を、国防総省に付与するものである。これに基づいて、国防総省は、毎年度、国家防衛上の必要予算を、計上する。この予算編成によって、国防政策の方針が、事実上、決定されるのである。

・上記の法律に加えて、オマリーは、電磁パルスの危険性についても、指摘する。
 電磁パルスは、核兵器に由来する、強力な電磁波である。上空における核爆発は、その圧倒的爆風によって、大気中の電子と、衝突を生じる。この衝突によって、もたらされるのが、電磁パルスである。爆風に代わって、地上へと到達した電磁パルスは、あらゆる電気回線を、破壊するとされる。

私見