死者が、私達に語りかけているわ――真実を求めて。彼らは、私達の中に、生き続けている。
ダナ・スカリー
あらすじ:
フランス船籍のサルヴェージ船・パイパー丸が、サン・ディエゴ港に緊急入港した。原因不明の被曝によって、乗組員の大半が、全身火傷の重傷を、負ったのである。その放射線量は、広島型原爆のそれに、相当するほどであった。
パイパー丸の航路は、北太平洋の北緯・四二度、東経・一七一度であった。つい先日、米国船籍のタラパス号が、航行したばかりの海域である。モルダーは、その海域にて、タラパス号が、UFOを回収したものと、確信していた。だとすれば、北緯・四二度、東経・一七一度の海底には、その後もなお、何かが沈んでいた事になる。
パイパー丸において、被爆を免れた乗組員は、ただ一人、ゴルティエという、潜水士のみであった。モルダーとスカリーは、すでに、退院を許可されて、サン・フランシスコへと帰宅したゴルティエに、事情聴取を試みる。
File No.315(#3X15)
原題:Piper Maru
邦題:海底
邦題(テレビ朝日版):
戦闘機か?UFOか? 死の潜水“海底”
脚本:Frank Spotnitz & Chris Carter
(フランク・スポトニッツ&クリス・カーター)
監督:Rob Bowman(ロブ・ボウマン)
File No.316(#3X16)
原題:Apocrypha
邦題:アポクリファ
邦題(テレビ朝日版):転移する地球外生命体
脚本:Frank Spotnitz & Chris Carter
(フランク・スポトニッツ&クリス・カーター)
監督:Kim Manners(キム・マナーズ)
備考:
前編の原題は、“パイパー丸”の意。アンダーソンの愛娘・パイパーから、採られたものである。
後編の原題は、“外典”、“偽典”の意。『旧約聖書』編纂の際、内容の信憑性に、疑義が生じた結果、採用を見送られた、十四の文書を指す。ひいては、“出典不明の文書”との意味で、用いられる場合もある。
私見:
MJファイルの入手で、モルダーとスカリーは、『祈り/ペーパークリップ(File No.301, 302)』、『二世/731(File No.309, 310)』と、かつてないほど、“影の政府”の陰謀に、肉薄してきた。しかしながら、その代償として、肉親を失わねばならなかったのも、事実である。今回の前後編は、そうした葛藤に、一区切をつけるものと言える。
パイパー丸をして、海底を捜索させたのは、流出したMJファイルであった。『ペーパークリップ』において、“タバコを吹かす男”は、MJファイルの回収に、成功したかに思われた。配下のクライチェックに、スキナーを襲撃させて、秘匿していたMJファイルを、奪還させたのである。しかしながら、誤算が生じて、奪還したはずのMJファイルは、クライチェックに持ち去られてしまった。そのクライチェックが、MJファイルの情報を、ブローカーのジェラルディン・カレンチャックを介して、フランス政府に切り売りしていたのである。
つまり、クライチェックは、MJファイルの解読に、成功したわけだ。おそらくは、カレンチャックが、裏社会の伝手を頼って、解読の一助となったのであろう。とはいえ、ナヴァホ族出身者でさえ、困難を伴う、MJファイルの解読である。フランス政府が購入したのは、不完全な解読情報であったに違いない。さもなければ、ブラック・オイルに対して、何の対策も講じぬまま、パイパー丸を派遣するはずはない。
タラパス号による、UFOの回収後、海底に取り残された乗組員が、ブラック・オイルである。どうやら、ブラック・オイルは、寄生した人間を、意のままにすると同時に、その記憶にも、アクセスできるらしい。さもなければ、“タバコを吹かす男”に対して、MJファイルの譲渡という、交換条件の元に、取引を持ちかけはすまい。クライチェックに憑依したブラック・オイルは、MJファイルの存在ばかりでなく、“タバコを吹かす男”が、それを欲している事も、把握していたのである。その上、ブラック・オイルは、外見に反して、かなりの知能を、有しているようだ。“タバコを吹かす男”との取引を、見事に成立させて、まんまと、UFOへの帰還を、果たすのである。
ブラック・オイルの足跡を、追跡する過程で、モルダーは、亡父の仇・クライチェックと再会する。そして、スカリーもまた、姉のメリッサを射殺した、ルイス・カーディナルという暗殺者を、逮捕する。その際、モルダーとスカリーの念頭に、復讐の二文字がなかった、と、言えば、嘘になるだろう。実際、モルダーは、“身だしなみの良い男”によって、クライチェックへの殺意を、看破されている。一方のスカリーもまた、カーディナルに対する、複雑な胸中を、モルダーに吐露しているのだ。
それでもなお、私怨に走らなかったのは、モルダーとスカリーに、復讐よりも、優先すべき事柄が、存在したからである。それが、真実である事は、言うまでもない。スカリーに証言した、クリストファー・ジョハンセン中佐によれば、死者は、絶えず、我々生者に語りかけている、という。その声こそが、良心である、と。その言葉は、いみじくも、モルダーとスカリーの在りようを、表現するものでもある。
少なくとも、モルダーとスカリーは、その捜査活動が、取り返しのつかない犠牲の上に、成り立っている事を、自覚している。だからこそ、死者の声に、耳を傾ける事で、真に欲しているであろう事柄を、選択できるに違いない。犠牲そのものを、なかった事にしている、“影の政府”の姿勢とは、いかにも、対照的である。
『アナサジ(File No.225)』に端を発する、第三シーズンの“神話”に、第二次世界大戦の影が、濃厚である事も、おそらくは、偶然ではあるまい。第二次世界大戦の犠牲があってこそ、超大国としての繁栄を、極めているのが、現代米国なのだ。
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