人間以外の何かが、闇の中で、僕を見つめている。森も、動物も、ただ、息を殺して、恐怖が過ぎ去るのを、待っている――鳥肌が立ったよ。
ライル・パーカー
あらすじ:
モンタナ州ブラウニングにて、射殺事件が発生した。被害者は、ジョセフ・グッデンスネークという、先住民族・トレゴ族の男性であった。加害者のジム・パーカーとは、所有地の境界線を巡って、対立関係にあった。にもかかわらず、ジムは、ジョセフへの殺意を、否認する。それによると、ジムが射殺したのは、赤色の瞳と、牙を持つ、怪物だった、と、いうのだ。
それは、ジムが、経営するツー・メディシン牧場を、巡回中の事であった。日没後のツー・メディシン牧場では、何者かによる、家畜の惨殺事件が、続発していたのである。ジムが発見した時、問題の怪物は、家畜ばかりか、一人息子のライルをも、襲撃していた。そこで、やむなく、発砲したものの、その死体は、どういうわけか、ジョセフのそれであった――ジムは、そう申し立てるのだった。
File No.18(#1X18)
原題:Shapes
邦題:変形
邦題(テレビ朝日版):
人狼怪奇伝説が甦る 満月の夜に大変身!
脚本:Marilyn Osborn(マリリン・オズボーン)
監督:David Nutter(デイヴィッド・ナッター)
備考:
・原題は、“形状”、“幻影”の意。
・チャーリー・トスカニ役のマイケル・ホースは、『ツイン・ピークス』にて、すでに、ドゥカヴニーとの競演を、果たしている。その役どころは、先住民族の伝承に精通する、トミー・“ホーク”・ヒル保安官補であった。
私見:
トレゴ族は、古来、独自の信仰と共に、マニトウ伝説を語り継いできた。マニトウとは、野獣に化身する、悪霊の一種である。憑依された人間は、自らもまた、マニトウと化して、夜な夜な、凶暴な衝動に、突き動かされる事となる。長老・イシュの言を借りれば、“血に飢えたケダモノ”になるわけだ。しかしながら、野生生物が、他の生命を奪うのは、食料調達のためである。日々の糧さえ、得られれば、それ以上、無益な殺生はしない。手段ではなく、目的として、殺生を行う生物は、人間のみである。
マニトウと化した者が、他を脅かさずにいられないのは、野獣の本能ではなく、人間の持って生まれた、攻撃性ゆえなのではあるまいか。マニトウは、ただ単に、人間性という安全弁を、取り外す事で、人間本来の凶暴性を、解放しているに、過ぎないのかもしれない。あたかも、『氷(File No.07)』の寄生生物が、宿主の視床下部を、刺激する事によって、その攻撃性を、増幅させたように。だとすれば、マニトウについても、悪霊というよりは、むしろ、一種の病原体と、みなすべきなのかもしれない。実際、ジョセフから、ライルへと、受け継がれる事になった、マニトウの系譜は、病原体の経口感染を、髣髴とさせる。
気になるのは、ジョセフの妹・グウェンが、トレゴ居留地を、去った事である。イシュによれば、マニトウの呪縛は、血縁者間でも、受け継がれる、という。それが、事実であるのならば、グウェンの旅立ちは、伝染性の病原体が、外界に放たれたも、同然なのではあるまいか。もし、大都会に移住したグウェンが、そこで、マニトウとして、覚醒してしまったら――あるいは、グウェンを発生源として、マニトウが、大量発生する事態も、考えうるのではなかろうか。
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