僕達の求めている真実は、X‐ファイルの中にある。
フォックス・モルダー
あらすじ:
国防総省の最高機密文書・MJファイルを入手した、モルダーであったものの、解読のために訪れた、ニュー・メキシコ州のナヴァホ族居留地にて、忽然と、消息を絶つ。
モルダーを発見できぬまま、ワシントンD.C.への帰路に就いたスカリーを、待ち受けていたのは、FBIによる停職処分であった。その上、不当処分に甘んじてまで、秘匿せんとしたMJファイルを、スカリーは、何者かによって、盗み出されてしまう。
時を同じくして、MJファイルの解読に協力した、古老のアルバート・ホスティーンは、ナヴァホ族の同胞を引き連れて、居留地の採石場を、捜索していた。死臭に敏感なハゲタカが、いつになく群がる、その採石場こそ、モルダーの失踪現場であった。果たして、ホスティーンらは、半死半生のモルダーを、岩陰に発見する。
File No.301(#3X01)
原題:The Blessing Way
邦題:祈り
脚本:Chris Carter(クリス・カーター)
監督:R.W.Goodwin(R.W.グッドウィン)
File No.302(#3X02)
原題:Paperclip
邦題:ペーパークリップ
脚本:Chris Carter(クリス・カーター)
監督:Rob Bowman(ロブ・ボウマン)
邦題(テレビ朝日版):
エイリアンは実在した!! 衝撃の最高機密がついにベールをぬぐ!(『アナサジ(File No.225)』と共に、二時間枠の特別版として、放送)
備考:
・『アナサジ(File No.225)』に続いて、ホスティーンを演じるフロイド・レッド・クロウ・ウェスターマンは、『ミレニアム』の『秘儀(Y2026)』にも、出演している。二〇〇七年、死去。
・メリッサ役のメリンダ・マクグロウと、クライチェックを演じるニコラス・リーは、当時、恋愛関係にあった。それを踏まえると、『ペーパークリップ』の展開は、いささか、皮肉である。
・今回の前後編においては、それぞれの本編終了後に、“In Memoriam Larry Wells 1946-1995(哀悼 ラリー・ウェルズ)”、“In Memoriam Mario Mark Kennedy 1966-1995(哀悼 マリオ・マーク・ケネディ)”と、表示される。前者は、『X‐ファイル』の衣装デザイナー、後者は、『X‐ファイル』の熱心な視聴者である。両者は、第三シーズンの放送が開始された、一九九五年に早世した。
私見:
モルダーとスカリーの前に、何度となく、立ちはだかってきた“影の政府”が、今回の前後編において、ついに、その本拠地を明らかにする。ニュー・ヨークの四十六丁目に聳える、ビルディングの一室が、それである。そこに集うのは、物々しさとは程遠い、初老の紳士だ。一見すると、一大権力組織の面々とは、とても、思われない。会合には、社交クラブのような、気品さえ漂う。しかしながら、世界の趨勢は、紛れもなく、わずか十数名からなる、この“影の政府”によって、左右されているのである。
“影の政府”にあっては、“タバコを吹かす男”もまた、あくまでも、構成要員の一人に過ぎない。そればかりか、他の面々からは、一段、見下されている様子さえ、窺われる。もちろん、当の“タバコを吹かす男”もまた、それを自覚しているに違いない。今回の前後編において、いつになく、感情的なのは、そのためであろう。MJファイル流出という失地を、回復しなければ、“影の政府”での地位が、いよいよ、危うくなる事を、“タバコを吹かす男”は、重々、承知しているのだ。
名誉挽回のためならば、なりふり構わぬ“タバコを吹かす男”は、スカリーの暗殺を決心する。“タバコを吹かす男”にしてみれば、MJファイルを紛失したスカリーに、もはや、利用価値はなかったのである。とはいえ、“タバコを吹かす男”も、スカリーも、まさか、紛失したMJファイルが、スキナーの手元にあろうとは、夢想だにしなかった。
スキナーは、“タバコを吹かす男”の魔手から、スカリーを守るべく、秘密裡に、MJファイルを盗み出したのだ。しかしながら、その行為が、かえって、スカリーの生命を、脅かす結果になるとは、皮肉である。結局のところ、MJファイルを入手した以上、スカリーの身辺は、危険にさらされる運命だったのかもしれない。
いずれにしても、MJファイルを巡る、スカリーの孤軍奮闘は、『リトル・グリーン・マン(File No.201)』における、モルダーのそれを、髣髴とさせる。とはいうものの、少なくとも、『リトル・グリーン・マン』のモルダーには、精神的支柱としてのスカリーが、存在していた。それに対して、今回のスカリーは、モルダーの生死さえ、判然としない状況で、暗殺の危機に、対処せねばならなかった。疑心暗鬼に陥った結果、あろう事か、唯一の理解者であるスキナーを、暗殺者と誤解してしまったのも、無理はない。
一方のモルダーもまた、孤立無援の闘いを、余儀なくされる。ホスティーン率いる、ナヴァホ族の救助活動によって、一命こそ、取り留めるものの、モルダーの心身は、極度の消耗状態にあった。そこで、ホスティーンは、ナヴァホ族伝来の“救済の儀式”を、モルダーに執り行う。モルダーは、聖なる御霊との対話によって、自分自身の意思で、生死を選択するよう、迫られるのである。図らずも、生死の狭間で、岐路に立たされる、モルダーの姿は、『昇天 Part3(File No.208)』のスカリーを、連想させる。
昏睡状態のスカリーが、亡父・ウィリアムの訪問を受けたように、モルダーもまた、今は亡き、ビルとディープ・スロートに、対面する。“救済の儀式”を経て、意識を回復したモルダーは、“どこかを、旅していた気がする”と、語る。それに応えて、ホスティーンは、“その場所は、ここにある”と、モルダーの胸を指す。
ひょっとしたら、ホスティーンの言う、“聖なる御霊との対話”とは、結局のところ、それに仮託して、自分自身と向き合う事を、意味するのかもしれない。だとすれば、ビルとディープ・スロートの亡霊は、モルダーの深層心理が、無意識裡に生み出した、幻影に過ぎない事となる。いずれにしても、重要なのは、ビルや、ディープ・スロートとの対話によって、モルダーが、再び、生への活力を、得た事であろう。
切望していたにもかかわらず、モルダーは、ついに、安楽の死を選択できなかった。それは、おそらく、ビルとディープ・スロートの死に、多大なる責任を、負っているからであろう。ビルも、ディープ・スロートも、モルダーのために、“影の政府”の陰謀を暴かんとして、暗殺された。モルダーにしてみれば、両者との対話は、そうした責任を、再確認する機会であったに違いない。だからこそ、モルダーは、あえて、苦痛の生を選択したのであろう――もう一度、真実を追究するために。
モルダーが、スカリーの臨死体験を、追体験したように、スカリーもまた、モルダーと同様、孤立無援の窮地に、立たされる事となった。今回の前後編において、図らずも、互いの体験を共有した事で、モルダーとスカリーの結束は、より一層、強固となったに違いない。
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