大地に埋もれていた真実が、姿を現そうとしている。
アルバート・ホスティーン
あらすじ:
国防総省の最高機密文書・MJファイルが、流出した。ローン・ガンマンの協力者でもある、ケネス・スーナというハッカーが、国防総省のネットワーク・システムに、侵入したのだ。スーナは、入手したMJファイルを、ローン・ガンマンの仲介で、モルダーに託す。
スーナによれば、MJファイルには、公権力の展開してきた、地球外知的生命体にまつわる、隠蔽工作の全容が、記録されている、という。つまり、MJファイルは、地球外知的生命体の存在を立証する、確固たる物証であった。
しかしながら、MJファイルの内容は、米先住民族・ナヴァホ族の言語によって、暗号化されていた。ナヴァホ語は、独特の子音を有しており、翻訳には、困難が予想された。
さらに、モルダーが、MJファイルを入手した事実は、すでに、“タバコを吹かす男”の知るところとなっていた。
File No.225(#2X25)
原題:Anasazi
邦題:アナサジ
邦題(テレビ朝日版):
エイリアンは実在した!! 衝撃の最高機密がついにベールをぬぐ!(『祈り(File No.301)』および『ペーパークリップ(File No.302)』と共に、二時間枠の特別版として、放送)
原作:David Duchovny & Chris Carter
(デイヴィッド・ドゥカヴニー&クリス・カーター)
脚本:Chris Carter(クリス・カーター)
監督:R.W.Goodwin(R.W.グッドウィン)
タグライン:
(真実はそこにある)
備考:
・モルダーが、MJファイルを入手した事で、スカリーは、スキナーら、FBI幹部の喚問を受ける。実は、この場面には、カーターが出演している。“君の任務は、モルダー捜査官の監視では?”と、スカリーに尋ねる幹部が、それだ。
さらに、撮影段階では、共同製作総指揮兼監督のR.W.グッドウィンも、出演していた。しかしながら、その出演場面は、放送時間の制約から、削除されてしまったそうだ。
・モルダーの父・ビルこと、ウィリアムは、かつて、国務省の職員であった。
国務省なる字面は、一見、国防総省との関連性を、連想させる。しかしながら、実際のところ、米国の国務省とは、日本でいうところの、外務省にあたる官庁である。国防・軍事を統括する、国防総省との間に、直接の関係はない。
・スーナは、MJファイルの内容について、“ロズウェル事件から、MJ‐12まで、全てが記録されている”と、モルダーに説明する。
MJ‐12とは、米国大統領直属の、秘密組織とされるものである。おそらくは、MJファイルの名称も、このMJ‐12から、引用されたものであろう。
MJ‐12の正式名称は、Majestic Twelve(マジェスティック・トウェルヴ)と、されている。翻訳するならば、“偉大なる十二名”と、いったところであろう。その創立者は、ハリー・S・トルーマン大統領とされる。
在任中の一九四七年、トルーマンは、著名な科学者や、軍人の中から、十二名を選抜した、という。その目的は、同年に発生した、ロズウェル事件への対応にあった、とされる。以来、MJ‐12と名付けられた、この秘密組織は、ロズウェル事件で回収された、UFOおよび地球外知的生命体の調査・研究を、極秘裏に行ってきた、と、いうのだ。
以上は、UFO研究家のウィリアム・ムーアらが、一九八四年〜八五年に入手した、機密文書に基づくものである。しかしながら、その信憑性については、懐疑的意見が、大勢を占めている。と、いうのも、その後の調査で、問題の機密文書に、偽造の痕跡が、多数、発見されたのである。
問題の機密文書が、偽造されるに至った経緯については、二〇一九年現在も、判明していない。ムーアによる売名行為や、米軍による情報撹乱など、未だになお、様々な可能性が取沙汰されている。
私見:
初見時は、正直なところ、その結末に、呆然とせざるを得なかった。何しろ、第二シーズン最終回のはずが、続く、との字幕表示で、唐突に、終了してしまうのである。第一シーズンの『三角フラスコ(File No.23)』が、あまりにも、完璧な最終回であっただけに、なおさら、落差を覚えたものだった。
その後、学習したところによると、それは、クリフハンガーと呼ばれる、視聴率対策の一環であった。クリフハンガーとは、“宙吊り”の意である。つまり、最終回の結末を、あえて、新シーズンへと先送りにする事で、視聴者の関心を、来年度まで、惹きつけておくわけだ。
とはいえ、これは、一か八かの賭けとも言える。確かに、クリフハンガーは、視聴率の獲得に、効果的である。しかしながら、失敗してしまえば、シリーズそのものが、打ち切られる結果となる。実際、中途打ち切りによって、クリフハンガーの結末が、描かれないままに、終了したテレビ・シリーズは、決して、少なくない。
にもかかわらず、『X‐ファイル』は、第二シーズンにして、賭けに打って出た。その決断は、やはり、“神話”としての長期展開を、見据えての事だったのであろう。
モルダーの悲劇と、スカリーの献身が、中心に据えられている点で、今回は、『入植(File No.216, 217)』の延長線上にある、と、言える。とはいえ、その展開は、それまでの『X‐ファイル』にない、複雑なものである。本来ならば、何の関係もない、個々の出来事が、運命に導かれるように、交錯していくのだ。
その発端となるのが、モルダーへの投薬である。モルダーは、自宅アパートの水道水に、中枢神経刺激剤が混入されていようとは、露知らぬまま、正常な判断力を、失っていく。それは、モルダーを孤立させる事で、社会的に抹殺せんとする、“タバコを吹かす男”の深謀遠慮であった。しかしながら、流出したMJファイルが、モルダーの手元へと、渡ってしまった事で、“タバコを吹かす男”の計画は、変更を余儀なくされる。
MJファイル流出の一報は、瞬くうちに、世界各国を駆け巡る。その事実は、“影の政府”の権勢が、米国一国にとどまらない、世界規模のそれである事を、物語っている。さらに言えば、MJファイルの流出は、そんな“影の政府”さえも、動揺させるほどの一大事だったのである。責任者の“タバコを吹かす男”としては、その内容を公表される前に、何としてでも、MJファイルを奪還せねばならない。もはや、モルダーの失脚を、悠然と待っているわけには、いかなくなってしまうのである。
アパートの浄水設備に、細工が施された時点で、モルダーの部屋は、“影の政府”の監視下にあった、と、思しい。だとすれば、スーナおよびローン・ガンマンが、モルダーとの接触にあたって、いくら、注意を払ったところで、結局は、無駄骨であったろう。何しろ、肝心のモルダーが、その行動を、逐一、監視されているのだ。それを踏まえれば、“X”が、モルダーの呼び出しに、応じなかったのも、無理からぬところであろう。
おそらく、“X”は、モルダーの住まいが、監視下に置かれている事を、承知していたのであろう。にもかかわらず、モルダーは、“X”への合図として、X型の紙テープを、窓に張り出してしまった。これは、大失態と言っても、過言ではあるまい。モルダーは、ディープ・スロートに代わる、新たな情報提供者の存在を、“影の政府”に対して、自ら、暴露してしまったのである。それだけに、“X”としては、なおさら、モルダーとの面会に、応じるわけには、いかなくなってしまったのであろう。
果たして、モルダーの留守宅を、訪問したスカリーは、狙撃を受ける。部屋の窓ガラスには、X型の紙テープが、張り出されたままであった。おそらく、狙撃犯は、スカリーの影を、呼び出しに応じて、モルダーを訪ねてきた、情報提供者のそれと、誤認してしまったのであろう。その直後には、ビルが、クライチェックに暗殺されている。おそらく、黒幕の“タバコを吹かす男”としては、肉親と情報提供者を、一挙に葬る事で、モルダーを、いよいよ、追い詰める計算であったのだろう。
いずれにしても、“タバコを吹かす男”は、スカリーの存在を、軽視していた、と、思しい。スカリーの献身が、あったればこそ、モルダーは、“タバコを吹かす男”の罠を脱して、ニュー・メキシコ州のナヴァホ族居留地へと、たどりついたのである。その土地には、図らずも、MJファイルの謎を、解明する手がかりが、眠っていたのだから、不思議な巡り合わせである。
やはり、それは、運命の導きだったのかもしれない。おそらく、モルダーとスカリーは、訪れるべくして、現地を訪れたのであろう。
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