サマンサは、どこにいる!?
フォックス・モルダー
あらすじ:
北極圏のビューフォート海にて、未確認飛行物体の墜落事故が、発生した。
偶然、事故現場に居合わせた、米国籍の調査船・アルタ号によって、乗組員が、一名、救助された。しかしながら、ロシア人と思われる、その乗組員は、米国への上陸後、忽然として、消息を絶つのだった。
間もなくして、産婦人科医ばかりを、標的とする殺人事件が、米国各地で、発生した。いずれの場合も、犯行現場が、放火された事もあって、被害者の死体は、発見されていなかった。その上、奇怪なのは、三名の被害者が、まるで、同一人物のように、瓜二つである事だった。にもかかわらず、血縁関係を裏付ける記録は、一切、存在しないのである。
匿名の電子メールで、事件を知ったモルダーは、半信半疑のスカリーと共に、捜査を開始する。
File No.216(#2X16)
原題:Colony
邦題:入植 Part1
邦題(テレビ朝日版):
異星人地球入植計画 恐怖のクローン人間
原作:David Duchovny & Chris Carter
(デイヴィッド・ドゥカヴニー&クリス・カーター)
脚本:Chris Carter(クリス・カーター)
監督:Nick Marck(ニック・マーク)
備考:
・原題は、“植民地”の意。
・中絶反対主義者・シストランク牧師役のリンデン・バンクスは、『電波(File No.323)』において、ジョセフ・パトニックを演じる。
File No.217(#2X17)
原題:End Game
邦題:入植 Part2
邦題(テレビ朝日版):
モルダー生命の危機 異星人との大攻防戦
脚本:Frank Spotnitz(フランク・スポトニッツ)
監督:Rob Bowman(ロブ・ボウマン)
備考:
・原題は、“終盤”の意。
・ビューフォート海で遭難する、米軍の潜水艦・アリジャンス号の撮影は、カナダ海軍の退役船を、借り受けた上で、行われた。
しかしながら、実際の撮影に、使用されたのは、退役船の内部のみであった。氷海を貫通して、海上に露出した、アリジャンス号の司令塔は、撮影スタジオに設けられた、完全なるセットである。極寒の北極海を、再現するために、撮影スタジオには、百五十トンもの氷が、持ち込まれた、という。
さらに、問題の退役船は、前編において、調査船・アルタ号の撮影にも、用いられている。
私見:
今回の前後編において、モルダーは、ついに、サマンサとの再会という、二十二年越しの悲願を、実現する。しかしながら、喜びも束の間、サマンサの正体は、地球外知的生命体の科学技術によって、生成されたクローンであった。
次々に現れる、サマンサのクローンを前に、心を弄ばれたモルダーは、落胆を隠さない。その際、モルダーの表情に、一種の嫌悪感さえ、見受けられるのは、本物のサマンサに、思いを馳せての事であろう。クローンの群は、誘拐後のサマンサが、地球外知的生命体の実験材料として、いいように、弄ばれたであろう事を、物語っている。
今回、モルダーとスカリーは、捜査方針を巡って、対立する。その際、激したモルダーは、思わず、スカリーに、“危険を恐れるのならば、FBI捜査官を辞めるしかない”と、言い放ってしまう。
モルダーの口を突いて、飛び出したそれは、本来、スキナーの発言であった。『昇天 Part3(File No.208)』での事である。同作にて、モルダーは、スカリーへの罪悪感から、我を失ってしまう。そんなモルダーを諌めた、スキナーの言葉こそ、“危険を恐れるのならば、FBI捜査官を辞めるしかない”であった。
モルダーとスカリーの信頼関係が、試練にさらされる点でも、今回の前後編は、『昇天』三部作と、符合している。ひょっとしたら、『昇天』三部作と、今回の前後編は、対をなすものなのかもしれない。
思えば、『昇天』三部作は、モルダーの視点から、スカリーとの関係を、描き出すものであった。サマンサとの再会、という個人的動機に、何の関係もないスカリーを、巻き添えにしてしまった――モルダーは、『昇天』三部作を通じて、その罪悪感に、苛まれる事となる。
いや、正確に言えば、スカリーの生還後も、問題は、何一つ、解決してはいなかった。今回の前後編においても、モルダーは、サマンサのクローンと引き換えに、スカリーの身柄を、危険にさらしてしまうのである。
またしても、繰り返された危機が、深刻な打撃を、モルダーに与えた事は、想像に難くない。サマンサの消息を求め、北極圏へと旅立った、モルダーの傍らに、スカリーの姿はなかった。モルダーは、行先も告げずに、スカリーを残して、単身、出発するのである。
スカリーは、スキナーの協力を得て、モルダーの行方を、突き止めんとする。しかしながら、スカリーの協力要請に対して、スキナーは、消極的であった。おそらくは、『昇天』三部作にて、モルダーの苦悩を、目の当たりにしていたからであろう。
それでもなお、スカリーは、“X”との接触を、図ってまでも、モルダーの元に、駆けつけんと欲する。その奔走ぶりは、スカリーが、決して、モルダーの巻き添えなどではない事を、物語っている。
スカリーにしてみれば、命の恩人であるモルダーに、報いる義務こそあれ、責める筋合など、毛頭、存在しないのであろう。モルダーの信念に、共鳴する以上、その捜査活動に、危険がつきまとう事は、最初から、覚悟の上なのだ。スキナーが、結果として、消極姿勢を翻したのも、おそらくは、スカリーの覚悟を、看取したゆえであったのだろう。
モルダーの言葉が、昏睡状態のスカリーを、目覚めさせたように、今回の前後編では、スカリーの献身が、モルダーを生還させる。その対照も踏まえると、今回の前後編は、スカリーの視点から、モルダーとの関係を、捉えなおすものであったのだろう。
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