精神疾患の労災認定の近年の動向  うつ病・休職・労災

1 業務上疾病に係る規定(別表)の意義

 労働者が業務を遂行するにあたっては、事故のような突発的な出来事ばかりではなく、労働条件、作業態様、作業環境の中に含まれる有害な原因を徐徐に受けることがあり気がつかないうちに病気にかかることがあります。
実際に起こった負傷や疾病は、それが業務によるものであるかぎり、災害補償の対象とされます。
しかし、業務との因果関係の証明が困難である場合もあります。

 そこで、労災保険法においては、あらかじめ、別表第一の2において業務上疾病の範囲を明確にしています。「うつ病」等精神疾患に係る箇所は第9号に規定され、「人の命に係わる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病」とされます。
すなわち、業務と疾病との間に相当因果関係がある場合に業務上の疾病として認められることになります。
 
 しかし、精神疾患における因果関係の立証(仕事が原因でうつ病になった)は、原因がストレス等にあるため、業務内ストレスのみならず、業務外ストレスも原因のひとつとして考えられるため、判別も困難を極めます。
また、「うつ病」自体の発症原因についても医学的には完全に解明されていないのが実情です。そこで、立証に関しては、「法的概念としての因果関係の立証は、自然科学的な証明ではなく、ある特定の事情が特定の結果を招来した関係を是認しえる高度の蓋然性を証明することであり、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちえるものであることで足りる。」
とする説が通説であり、
 最高裁も判例等でこの説を採用しています。
 
 さらに、判例等でも強調されている理論として、「労災保険法による保険給付は労働基準法に規定された危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることを鑑みると、業務起因性の認定においては、単に当該業務が業務遂行中に発症したというだけでは足りず、業務に内在ないし通常随伴する危険の現実化と認められる関係があるかどうかの判断が要請されるものと解するのが相当である。
また、業務と業務に関連のない基礎的疾患が共同して当該疾病が発症した場合において、業務起因性が肯定されるためには。業務に内在ないし随伴する危険が当該疾病の発症に相対的に有力な原因となったと認められることが必要であって、単に業務が当該疾病発症の誘因ないしきっかけにすぎないと認められる場合は、業務起因性は認められないと解するのが相当である。」(平成5.3.29広島高裁 山口労基署長 (岡山県貨物運送)事件)    
があります。

 以上のとおり、労災認定には、業務に内在ないし通常随伴する危険の現実化と認められる関係があるかどうかと、当該疾病の発症に相対的に有力な原因となったと認められることが必要とされています。
  最高裁もこの判決を支持しています。 

2 精神疾患による労災認定の近年の動向


 平成11年新基準の適用後、職場におけるストレスから、「うつ病」となって自殺した場合など、労災認定がなされるケースが増加しています。

・川崎製鉄事件 (平成12.3.29)  
労働基準監督署は労災認定をしなかったが、労働省労働保険審査会では、「昇任後の業務の拡大や納期管理といった困難な課題に直面して長時間労働に従事し、そのストレスから「うつ病」となって自殺にいたった」として労災認定されました。

・ファンケル「うつ病」労災認定事件 (平成15.8.29日) 
 子会社への転籍を拒否したところ、会社内で人事部あずかりとなり、隔離状態にされて仕事を与えられず、読書のみする日々をすごした2名の社員がでました。
 この会社は、ゼネラリストの養成に向いた人事政策をとっており、同じ部門に2年以上在籍させないというほど人事異動が多い会社でありました。隔離と転籍強要が3ヶ月と続く中で2名は、吐き気、頭痛、倦怠感などの症状がでてきたので、精神科にかかったところうつ病と診断されました。
 2名の会社員は、横浜労働基準監督署に「うつ病は会社での勤務状況や職場でのいじめなど仕事に起因している」として、うつ病の労災認定を申請しましたが、労災認定されました。
 
・ニコンほか事件(東京地裁平成17.3.31)
 業務請負会社の従業員がニコン社熊谷製作所に勤務していたところ、過重な労働等による肉体的、精神的負担のためにうつ病に罹患したことが原因で自殺したとして、請負会社とニコン社、両社に対し安全配慮義務違反を争いました。
 結果、派遣元、派遣先両社の安全配慮義務違反が認容されて損害賠償請求が認められました。
 これは、現在多様化している雇用形態における派遣社員の場合にも、派遣元、派遣先双方に連帯して安全配慮義務違反の責任が認められた事例とおもわれます。

3 平成21年4月6日改正
 
「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」の一部改正について〜職場における心理的負荷評価表に新たな出来事の追加等の見直しを行う〜として、平成21年4月6日に改正 がありました。

判断指針別表 「職場における心理的負荷評価表」の具体的出来事の追加および修正

新たな出来事として12項目を追加し、計43項目にするとともに、現行の出来事についても、心理的負荷をより適切に評価するために必要な修正(7項目)がされました。

具体的には、 厚生労働省のホームページを参照してください。
  
4 平成23年12月26日、基発1226号第1号 労災認定新基準

23年12月26日   心理的負荷による精神障害の労災認定新基準  が定められました。

・背景
請求事案の増加と審査期間の長期化(精神疾患の労災認定は平均8.6か月かかっていた)を受けて、審査の迅速化と効率化を図るためとされます。
 (これにより平成11.9.14基発544号は廃止となりました。)

 従来は、平成11年の判断指針により審査していたところ、8か月程度と長期間の審査期間を必要としていましたが、平成23年12月の
労災認定新基準により、6か月程度に審査期間を短縮できるとしたものです。内容的にはかなりのボリュームとなりますので、以下に概要を記載しています。


・内容
@心理的負荷評価表(ストレスの強度の評価表)を定めた
Aいじめ、セクハラ等の出来事が繰り返されるものについて、開始時からのすべての行為を対象とする
B精神科医の合議による判定を、判断が難しい事案のみに限定

・認定要件
@対象疾病を発症していること
A対象疾病の発症前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
B業務以外の心理的負荷および個体側要因により対象疾病を発症したとは認められないこと

「業務による強い心理的負荷が認められる」とは、仕事における具体的出来事があり、その出来事とその後の状況が労働者に強い心理的負荷を与えたことを指します。
「心理的負荷の強度」は、精神障害を発症した労働者が主観的にどう受け止めたかではなく、同種の労働者が一般的にどう受け止めたかという観点から評価します。

●精神疾患の労災申請は認定されにくい事案です。申請にあたりましては、上記の「認定新基準」に沿って申し立て書等にて立証していく必要があります。残業時間、ストレスの原因となった具体的出来事などを証明していくことになります。



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