独断的JAZZ批評 410.

STEFANO BOLLANI
世の中、酸いも甘いも噛み分けてこそ、丁度、バランスが取れるというものでしょう
"I'M IN THE MOOD FOR LOVE"
STEFANO BOLLANI(p), ARES TAVOLAZZI(b), WALTER PAOLI(ds)
2006年8月 スタジオ録音 (VENUS RECORDS : TKCV-35396)

STEFANO BOLLANI、このジャズ・ピアニストを僕は天才だと思っている。天性のセンスていうものを感じる稀有なピアニストと思うのだ。その一端を示したのがSTUNT RECORDSから発売になっている2枚のCD。1枚目が2003年録音の"MI RITORNI IN MENTE"(JAZZ批評 210.)で、2枚目が2004年録音の"GLEDA"(JAZZ批評 264.)だ。この2枚のアルバムはサイドメンにデンマークのプレイヤーであるJESPER BODILSEN(b)とMORTEN LUND(ds)を迎えている。この2枚のアルバムはBOLLANIの天才振りが良く分かるので是非、一度聴いてもらいたいアルバムだ。僕は2枚とも、それぞれの2004年(JAZZ批評 237.)と2005年(JAZZ批評 311.)のベスト・アルバムに選定している。
で、今度のアルバムはSTUNTではなくてVENUS RECORDSだ。BOLLANIのアルバムとしては初めて買うレーベルだ。既にVENUSからは沢山のアルバムが発売になっているが、どれも食指が動かなかった。宣伝文句にも事欠かず、「イタリアの貴公子だ」とか、「イケメン」だとか、ついには歌まで歌っているので購入意欲が萎えてしまったものだ。今回、購入する気になったのは、最近、VENUSも真面目なCD制作をしているなと感じさせるアルバムを何枚かゲットしたからだ。例えば、2006年録音のBILL CHARLAPの"THOU SWELL"(JAZZ批評 395.)。企画モノと分かっていても、満足させるに十分な内容を持っていた。更には、2005年録音のBARBARA CARROLL、"SENTIMENTAL MOOD"(JAZZ批評 335.)はジャズの楽しさを満喫させてくれた。ということで、今回のBOLLANIは試聴もせずに購入したのだ。
このアルバムはVENUS RECORDSにおける第5弾目にあたるという。その間、メンバーは不動で今回と同じTAVOLAZZIとPAOLIの二人がサポートしている。

@"MAKIN' WHOOPEE" 
BOLLANIの面目躍如でしょう!このタッチ、このアイディア、そして、この楽しさ!圧倒するピアノ・プレイに感嘆!!!ここでもベース・ソロでのバッキングが素晴らしい。以前のレビューでも書いたが、躍動感満載でベース・ソロを引き立てるBOLLANIのバッキングは彼の真骨頂だ。
A"CHEEK TO CHEEK" 
B"I'M IN THE MOOD FOR LOVE" 
C"PUTTIN' ON THE RITZ" 
いやあ、上手いなあ。流麗に躍動し、楽しませてくれる。この曲はかつて、LYNN SEATONの同名タイトルのアルバム(JAZZ批評 313.)でも聴ける。そこではSEATONがバイオリンのような独楽鼠奏法を披露しているので参考まで。僕は命名しました、「熊男の独楽鼠奏法」と。
D"HOW LONG HAS THIS BEEN GOING ON ?" 

E"MARGIE" 
少し抑え目なドラムスのイントロから始まり、徐々に高揚感が高まっていくかなあと期待感を膨らませているとベース・ソロでトーン・ダウン。
F"MOONLIGHT SERENADE" 
ベースの定型パターンに乗ってしっとりとテーマを奏でる。
G"IT'S ONLY A PAPER MOON" 
H"A KISS TO BUILD A DREAM ON" 
I"HONEYSUCKLE ROSE" 
@やCやこの曲のようにミディアム・テンポ〜アップテンポの曲にBOLLANIの非凡さが表れているが、これ以外は月並みだ。最後はおちゃらけて終わる。
J"BUT NOT FOR ME" 
ピアノ・ソロ。

このアルバムは、VENUSお得意のスタンダード・ナンバー・コレクションになっている。単純明快に楽しさを追求したアルバムと言えるだろう。更に言えば、スタンダードを山ほど集めて、「愛だ、恋だ」という文言を入れれば、売れるのかもしれない。「これを売れ線狙いだ、コマーシャルだ」と目くじらを立てることもなかろう。何故なら、そこそこ良いアルバムに仕上がっていると思うからだ。シリアスなアルバムばかりでは肩も凝るし、耳も疲れるかもしれない。このアルバムはそういう合間にあって肩肘張らずに楽しむアルバムだと割り切ったほうが余程スッキリする。
STUNTにおけるCD作りの方向性と対照的であるが、こういう方向付けがたまにあっても良いと思う。何故なら、選択権はリスナーが握っているのだから、どちらを選ぶかはリスナーの自由でしょう。
僕ですか?僕はSTUNTの方向性をとりますね。STUNTの方がある種の緊迫感とか緊張感があってスリリングであると同時に、3者の一体感と緊密感にも溢れている。
当アルバムはBOLLANIのワンマン・トリオという印象が強いし、「企画モノ」といわれてもしようがない軽さがある。
そうは言いつつも、世の中、酸いも甘いも噛み分けてこそ、丁度、バランスが取れるというものでしょう。   (2007.04.26)



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