独断的JAZZ批評 395.

NEW YORK TRIO / BILL CHARLAP
売れ線狙いの企画モノと分かっていても、いいものはいいのだ
ここにあるのは、「美しさ」よりも「楽しさ」、「緊迫感」よりも「緊密感」であり、「グルーヴ感」よりは「小粋でお洒落な」ジャズである
"THOU SWELL"
BILL CHARLAP(p), JAY LEONHART(b), BILL STEWART(ds)
2006年9,10月 スタジオ録音 (VENUS RECORDS : TKCV-35384)

レコード会社にとって、このNEW YORK TRIOようなグループは計算のしやすいグループだろう。先ず、演奏に大きな外れがないし、知名度もある。確かに、このメンバーが集まれば何を演っても標準以上のアルバムになることは間違いない。加えて、今回はアルバム・ジャケットもなかなかお洒落だ。これなら中高年の顰蹙を買うこともないだろう。今後もこういう路線で行って貰いたいものだ。
僕がビーナス・レコードを見直したのは、BARBARA CARROLLの"SENTIMENTAL MOOD"(JAZZ批評 335.)からで、正直に言って、「やればできるじゃないか」と思ったものだ。この"SENTIMENTAL MOOD"はジャケットは素敵だし、CARROLLとJAY LEONHARTとのコンビネーションがすごく良かった。全編に溢れる楽しさには制作者の良心を感じたものだ。LEONHARTのベース・ワークに共鳴できる人は是非、一度、聴いてみてほしい。

このNEW YORK TRIOのアルバムは今までに2枚紹介している。"BLUES IN THE NIGHT"(JAZZ批評 30.)と"LOVE YOU MADLY"(JAZZ批評 151.)の2枚で最初のアルバム"BLUES IN ・・・)は刺激的だったけど、"LOVE YOU・・・"は角が取れて丸くなった感じであまり良い評価はしていない。
翻って、このアルバムはNEW YORK TRIOの6枚目にあたるらしい。
6枚目ともなると、いつものままではマンネリなってしまう。そこで、今回はRICHARD RODGERSの作品集。前作の5枚目はCOLE PORTERの作品集だったので、段々ネタはつきかけているような・・・。次はGEORGE GERSHWIN作品集か、JULE STYNE作品集でも出るのだろうか?

@"THOU SWELL" いきなり来たなあ。こいつはご機嫌だ!ビシビシとしたSTEWARTのドラミングは相変わらず切れがあるし、ベースはビート感溢れる4ビートを刻んでいくし、ピアノは楽しげに歌っているし、こりゃあ、参った。痺れるね!NEW YORK TRIO健在なり!
A"MY FUNNY VALENTINE" 最初から最後まで、スロー・バラード。ピアノに絡みつくLEONHARTのベース・ワークに注目いただきたい。
B"I DIDN'T KNOW WHAT TIME IT WAS" ここではSTEWARTの多彩なドラミングが聴ける。本当に良く歌うドラマーだなあ!
C"WHERE OR WHEN" ここでも聴けるLEONHARTの楽しげなベース・ソロ。このベーシスト、回を追う毎に楽しさが溢れ出るようになった。お洒落で小粋な演奏に拍手。

D"MY HEART STOOD STILL" 
E"THAT'S FOR ME" 
F"HAVE YOU MET MISS JONES?" 
G"THERE'S A SMALL HOTEL" 
H"WITH A SONG IN MY HEART" 
I"WAIT TILL YOU SEE HER" 良く歌うベースのサポートにため息が漏れる。LEONHARTの好調さがこのアルバムの出来に直結していると思う。

これはレコード会社の思惑通りに完成したアルバムだと言ってもいいかもしれない。売れ線狙いの企画モノと分かっていても、いいものはいいのだ。ここにあるのは、「美しさ」よりも「楽しさ」、「緊迫感」よりも「緊密感」であり、「グルーヴ感」よりは「小粋でお洒落な」ジャズである。NEW YORK TRIOの実力を示す仕上がりにリスナーも文句を言えまい。このアルバムではCHARLAP、STEWARTに先のLEONHARTが阿吽の呼吸のインタープレイを演っているし、全ての曲で楽しさが溢れているアルバムだ。
ただ難を言えば、第1弾以来、演奏曲目のほとんどがスタンダード・ナンバーばかりで、みんな「想定内」の演奏なのだ。これってジャズの世界では重欠点になり得る。
いつも安全牌ばかりだと、そのうち飽きられてしまう危険性を孕んでいると思う。僕は未だ3枚目だけど、シリーズ全部買っている人は少々飽きるかも。
そうは言いつつも、やはり、楽しくて、いいアルバムであることは間違いない。この楽しさに乾杯で、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2007.02.15)