第200回市民映画会記念上映会
「映画×音楽」「今見て欲しいこの映画」「映画×俳優」
 https://www.kfca.jp/kikaku/cinema200/
◎一日目
 「映画×音楽」
寺尾紗穂 ライブ&トーク
『転校生 さよなら あなた』['07] 監督 大林宣彦
『モリコーネ 映画が恋した音楽家』
 (Ennio)['21]
監督 ジュゼッペ・トルナトーレ
ニュー・シネマ・パラダイス['89] 見送り
◎二日目
 「今見て欲しいこの映画」
『オマージュ』(Hommage)['21] 監督 シン・スウォン
『ドリーム・ホース』
 (Dream Horse)['20]
監督 ユーロス・リン
 「映画×俳優」
海難1890['15] 監督 田中光敏
内野聖陽 プレミアムトーク

 「映画×音楽」と題した邦洋の旧作を配した一日目は、やはり地元ゆかりの寺尾紗穂 ライブが大きくものを言ってのプログラムだったのだろう。稀代のマエストロと並べるのは無理があるにしても、こちらはライブで、地元ゆかりだ。沁み入るような素晴らしい歌声をピアノの弾き語りによって聞かせてくれた。

 その寺尾紗穂が主題歌♪さよならの歌♪を歌った『転校生 さよなら あなた』は、大林監督の代表作転校生['82]から四半世紀後のセルフリメイク作品だが、この時間の経過によって大林宣彦がいかに饒舌でナルシスティックになったかが、歴然としているような出来栄えだったように思う。一美を演じた蓮佛美沙子も、大阪ハムレット['08]が印象深い森田直幸も、敢えて仕掛けてきている歪に傾けた画面や、音楽と音声のバランスの悪さのもたらす不快感が、画面上部が大幅に切れる映写による画面構成の更なる悪化によって、いささかうんざりしてくる按配になっていたように思う。一美のぶって、ぶってには失笑してしまった。言わせたかったのだろうか、大林監督。

 続けて観た『モリコーネ 映画が恋した音楽家』は、前から観たいと思っていた作品で堪能できた。数々の映画や映画人が登場していたが、みなモリコーネを偲ぶ追悼作品となれば、それに出られることを喜んでいたのではないかという気がした。ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカを再見したくなり、観逃したままの『ミッション』を観てみたくなった。

 二日目の「今見て欲しいこの映画」の二作品は、今回の記念上映会で敢えて「今見て欲しい」としているポイントが、妙に掴みにくいセレクトのように感じた。楽しめたのは断然『ドリーム・ホース』だ。

 エンドロールにヴォークス夫妻ともども登場するばかりか、原作にも名前があったように思う税理士ハワード・デイヴィス(ダミアン・ルイス)が“胸の高鳴り(ホウィル)”とともに富裕者層の税金逃れに勤しむ税理士事務所務めを辞めたくなるような感化を及ぼすウェールズ気質が、よく描き出されているように感じられた。その現実離れした痛快で神憑り的な顚末に唖然とするのだが、実話だそうだから恐れ入る。

 おまけにドリームアライアンスの生涯獲得賞金が13万7000ポンドで、それによる出資者配当がそれぞれ1430ポンドだったとの字幕に意表を突かれた。殺処分と引き換えに負ったときの保険金リスクが12万ポンドでは、およそ見合わないから、ジャンことジャネット・ヴォークス(トニ・コレット)の意見に共同馬主から異論が出るのも当然だし、数年に渡る出資額が週10ポンドであったことからすれば、一年で2000ポンドを超えるのだから、本当に“ホウィル”だけだったのだなと吃驚した。

 また、劇中に出てきたトム・ジョーンズによる♪デライラ♪にも意表を突かれたが、それがエンディングでも流れたことに更に驚いた。この歌の歌詞の意味を知ったのは、随分と前のことになるが、妻に浮気された男による殺人の歌だとは思い掛けなく驚いた。だが、終始驚かされっぱなしの“意外”が妙に心地好く、中の猛獣は眠っているだから俺は独身なんだの飲んだくれ爺さんカービー(カール・ジョンソン)に笑った。ウェールズの山['95]やパレードへようこそ['14]に通じる風変わりを大いに愉しんだ。


 先に観た『オマージュ』もまた、実話に材を得た作品らしく、女性映画監督のキム・ジワン(イ・ジョンウン)が欠落フィルムを追う映画『女判事』という作品は、'60年代に実在した作品らしい。ポスターの文字がハングルではなく漢字だったり、検閲でのカットの理由が女性が煙草を吸っている姿を格好良く撮っているのが風紀上好ましくないとされていたことから、これは戦前の話ではないのかと吃驚させられた。韓国初の女性監督パク・ナモクと『女判事』のホン・ジェウォン、編集者のイ・オッキ(イ・ジュシル)を三羽烏と呼んでいた音声に「カラス」などと聞いたものだから尚のことだった。煙草を吸う女のシルエットが影の影になっていたのは洒落ていると感じたけれど、興味深い題材を巧く活かせているようには思えず、少々残念だった。

 「映画×俳優」の海難1890['15]は、公開時以来の再見。思い掛けない大入りで、圧倒的なまでの中高年女性の大群に、改めて内野人気を思い知った。今回、エルドアン大統領の動画メッセージをどうしているか興味深かったが、さすがに長期政権のもと非情な独裁者と非難されることが目立ってきているからか、外していた。
by ヤマ

'23. 9.18~19. 高知市文化プラザかるぽーと



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