『エビータ』(Evita)['96]
監督 アラン・パーカー

 オープニングクレジットを観て僕の好きな『ミッドナイト・エクスプレス』と同じ監督・脚本コンビではないかと嬉しくなったが、著名な♪Don't Cry for Me Argentina♪のほかは、アンドルー・ロイド・ウェバーによる楽曲があまり響いてこなかった。だが、その♪アルゼンチンよ、泣かないで♪の名曲名唱ぶりには、すっかり心奪われた。「愛すべきエバ」とも訳されていたエビータことエバ・ペロンを演じていたマドンナの代表的歌唱になるような気がする。

 1952年に若くして亡くなったエビータの葬儀場面から始めて、一気に二十六年遡り、ひたすらその足跡を追っていた構成は、悪くはないはずなのに、劇性よりも説明的に映ってくるようなところがあったのは、楽曲の魅力の乏しさゆえのように思った。語り部(アントニオ・バンデラス)の存在のせいかもしれない。映画作品として、視覚的なところでは非常に充実していたような気がする。それに比して、と却って仇になるくらいに、画面にスケール感があり、美術も充実していたように思う。

 すると、共同脚本のオリバー・ストーンのほうに監督もしてほしかったとのコメントが寄せられた。確かに『ミッドナイト・エクスプレス』と逆パターンだと、どうなったかは興味深いところだ。エビータ評における政治性がもう少し強めに出てきたかもしれないと思った。

 近頃は、日本人の体格も趣味もすっかりアメリカナイズされてきているから嘗てと違って秀吉よりも信長の人気が高まっているような気がするが、むかしは成り上がり秀吉の人気のほうが高かったように、大統領夫人に成り上がったエバ・ドゥアルテというのは、羨望と憧れの対象だったのだろう。もっとも、女性であれば、日本でもいまだにデビ夫人なんぞが人気で、TV視聴率を稼いでいるようだから、成り上がり人気自体は失せていないのかもしれない。

 また、地元の映友からは、当地でも劇場公開がされていたと教えられた。だとすれば、なぜ観逃していたのだろう。マドンナに対して偏見を持っていたのだろうか。残念なことをしたものだ。こういう作品は、やはり劇場で観たいものだと改めて思った。
by ヤマ

'23. 9.20. BSプレミアム録画



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