“ブラジル 果てしなき大地、見果てぬ夢”ブラジル関連上映会

Aプログラム
『アギーレ/神の怒り
(Aguirre,Der Zorn Gottes)['72]
監督 ヴェルナー・ヘルツォーク
『フィツカラルド』
(Fitzcarraldo)['82]
監督 ヴェルナー・ヘルツォーク
Bプログラム
『オン・ザ・ロード』
(On The Road)['12]
監督 ウォルター・サレス
『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』(The Salt Of The Earth)['14] 監督 ヴィム・ヴェンダース & ジュリアーノ・リベイロ・サルガド

 県立美術館ホールでの展覧会“大原治雄写真展―ブラジルの光、家族の風景”関連企画の上映会に赴いた。土曜日にAプログラムのヘルツォーク作品を32年ぶりに観ようと思っていたのだが、木曜日に156分の『レヴェナント 蘇えりし者』を観て疲れてしまい、この体たらくでは、157分の『フィッツカラルド』の鑑賞力は最早なくしているかもしれないと見送った。

 『フィッツカラルド』は、観た当時のマイベストテン〔'84〕にも選出した作品なのだが、その頃いっしょに上映活動に携わっていた仲間や評論家筋からは“怪作”とされ、あまり高い評価が得られておらず、僕は生意気にも「わかっちゃねぇなぁ」などと嘯いていた覚えがある。だから、この歳になって再見すると、最後のオペラを流しながらクラウス・キンスキーが小舟で川を流れるシーンが、どう映ってくるのか興味があったのだが、このところ少々過密スケジュールで「蓄積疲労があるなかで無理して観てもなぁ」と休観日にした。


 Aプログラムを飛ばして、Bプログラムだけで臨んだブラジル関連上映会は、その甲斐あってか、なかなか観応えがあった。美術館がブラジルを前面に出した上映企画を行うのは、十五年前のブラジル映画祭 ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス特集”以来ではないかと思うが、作品的には、今回の4作品いずれとも見逃すには惜しい映画ばかりだったと思う。


 先に観た『オン・ザ・ロード』のウォルター・サレス監督の作品は、注目を集めたセントラル・ステーション['98]の後は、高知では、'05年にモーターサイクル・ダイアリーズ['03]が上映されただけで、もう十年以上も来ていないように思う。いわゆるビートニク作家のジャック・ケルアックの代表作を映画化したドラッグ&セックスの放浪を描いた作品だ。『トワイライト』シリーズのクリステン・スチュワートがアリスのままでの前にこのような役を演じていたのかと驚いた刹那的で奔放な快楽に身を任せるメリールウを観ながら、その名前には耳馴染んだ♪ハロー、メリールウ♪と関係があるのかとふと思った。ビート世代の不謹慎で出鱈目な反社会的享楽主義を、マッカーシズム吹き荒れる'40年代に、時代に先駆けて体現していたディーン・モリアーティ(ギャレット・ヘドランド)に魅せられた若者たちを観ながら、もはや今の時代の若者たちの支持は得られないのではないかという気がしてならなかった。

 ビートニク作家の映画化作品ということでは、本作にもオールド・ブル・リー(ヴィゴ・モーテンセン)として登場したウィリアム・バロウズの『裸のランチ』['91](デヴィッド・クローネンバーグ監督)のほうがインパクトがあったような気がする。また、ヴィゴやエイミー・アダムスをキャスティングしながらもあまり活かせていなかったようにも思ったが、時代を語ることにおいては優れたものがあるように感じた。そして、原作者ジャック・ケルアックを模したサル・パラダイス(サム・ライリー)の未熟に醒めた冷淡さを窺わせることに、エンディングにおいて怠りなかった演出にちょっと感心した。


 次に観た、ヴィム・ヴェンダース監督とセバスチャンの息子ジュリアーノの共同監督による『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』はとりわけ素晴らしい作品で、大いに感銘を受けた。映画のなかに登場した写真のいくつかは僕も見知っているものだったが、それがサルガドの撮った写真だとの認識はないままに見覚えていた。

 映画に出てきたエチオピア北部の難民キャンプは九年前に観た約束の旅路にも登場していたものだ。マリの難民キャンプというのは、五年前に観た未来を生きる君たちへがそうだったように思うし、フツ族によるツチ族の大量虐殺は、十年前に観たホテル・ルワンダで直接取り上げられていて知らないものではなかったが、生の報道写真で観ることによって受けるインパクトには只ならぬものがあり、写真どころか現場を遍歴したサルガドが人間存在に絶望を覚え、「魂を病んでしまった」と述懐するのも無理からぬことに思えた。

 そのうえで、氏が奥さんのレリアの提唱した植林に協力してインスティテュート・テラを創り出し木を植えた男さながらの禿山再生を果たしていることに心打たれた。本当に、CGで加工したのではないかと思えるほどに画角もサイズもぴたりと重なる時を隔てたテラ(大地)の姿に痺れた。




参照テクスト:“ブラジル 果てしなき大地、見果てぬ夢”ブラジル関連上映会
http://www.kochi-bunkazaidan.or.jp/~museum/contents/hall/hall_event/hall_events2016/brazileiga/hall_event16brazileiga.html
by ヤマ

'16. 5.29. 美術館ホール



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