『ザ・思いやり』
監督 リラン・バクレー

 テキサス生まれで日本人女性と結婚し、神奈川の厚木基地の近くに在住するとのアメリカ人によるマイケル・ムーア・スタイルのドキュメンタリー映画を観ながら、いわゆる“思いやり予算(在日米軍駐留経費負担)”が英語では“シンパシー・バジェット”と訳されているのか、と妙な語感に戸惑った。

 '78年に時の防衛庁長官・金丸信が始めたことに端を発するとのことだが、'58年生れの僕は同時代で過ごしてきているから、むろん初耳ではないものの、ボウリング・フォー・コロンバインのムーアばりの明快さでさまざまな物差しによる数値化を施して示されると、改めてその異様さに意気消沈してくるものを感じないではいられなかった。

 総額の算定が予算としての純然たるものに、事実上として加えられたものを内訳明示しつつカウントした額は、年間8,800億円にものぼっていたが、1時間当たり1億円と換算されると、そのインパクトはいや増す気がした。常駐米軍兵士4万4千人に対して1人当たり1500万円とも言っていたから、その場合の総額は、6600億円になる。個人が想起しやすい時給とか年収との対照を狙っているのだろう。年金や生活保護費を意識していたのかもしれない。

 むろん軍事費と個人所得を同列に置くわけにはいかないことは承知のうえでも、本作で指摘されていた使途と見合わせると、やはり異様というほかなく、アメリカ人監督が米国に帰国して、敢えて日本の事情を知らない各国出身者に、そういう米軍と日本政府の関係についての感想を問うている場面が目を惹いた。

 また、米軍も米軍とて自国民の兵士のためにではなく、軍事経費の投入によって儲けを得る者のために軍事費を膨らませていることを、傷痍軍人の多さやPTSDに苦しみながら生活困窮者となっている元兵士たちの姿を折り込みつつ、しっかり指摘していた。そして、世界の人口の4%を占めるアメリカ人が世界の軍事費の50%を使っているという取り上げ方は、まさしくマイケル・ムーア流のものだと思った。

 日本に住むアメリカ人が、日本人の納めた税金が軍事費とも言えないような手厚く贅沢な在日米軍維持経費に充てられていることへの疑問を呈し、「目覚めよ、日本人!」と呼び掛けていることに心中穏やかならざるものを覚えた。そして、グアムに対しても沖縄に対するのと同様のスタンスで臨んでいるところに、リライアブルなスタンスが感じられた。ノーム・チョムスキーやマイケル・ムーアとはまた一味ちがった庶民感が醸し出されていたところに値打ちがあるような気がする。

 映画のなかでも、リラン・バクレー監督自身が驚きを持って臨んでいた「知ッテイマスカ?」がチラシにも掲載されていて、・在日米軍家族のための住宅、小・中学校、教会、銀行、ゴルフ場、マクドナルドなどの施設に使われていることを、 ・電気、水道、ガス料金は使い放題(料金の7割が免除)、 ・遊びでも有料道路料金がすべてタダ、 ・米兵による凶悪・暴行事件の賠償金にも使われていることを、 ・(この40年間に)6兆円を超える税金がすでに使われていることを と記されていたが、初見聞の人には俄かに信じがたいのではなかろうかと思った。


by ヤマ

'16. 5.31. 美術館ホール



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