トリオ HFトランシーバー TS−511DN 

 私がはじめて購入したトランシーバーはTS−510でした。確か昭和43年12月だったと思います。その後数か月して発売されたのがTS−511で「もう少し待てばよかった。」と悔やんだことが思い出されます。当時のTS−510はTS−500の後継機として人気がありました。
 ただ、今思い出すとその受信の音質はハイが強調されていかにもSSB信号を受信していると言った音質でトリオの名に相応しくない音質だったように思います。
 このTS−511もTS—510の後継機だけあってTS−510の音質そのままの状態のようです。音質が良くなるのはTS−520からです。TS−511の受信音が良くなれば今でも十分使用に絶えるものになりそうで今回は音質改善を中心にレストアに取り組みました。
@全体的に良い状態です。特にフロンのパネル、ケース(オリジナルのまま)にはほとんど傷みもなく良い状態のように思えます。
A送受信とも問題なく動作しておりましす。3.5〜21Mhzは定格80W以上出ており、28Mhzは50W出力です。
Bバンドスイッチなどのローターリースイッチおよびボリュームに若干ガリが見られます。
CVFOに発信が止まる箇所とガリが見られます。
D電源を入れ受信状態になると都度Sメーターの振れ状態が変わります。(Sが多く振れたり少なく振れたり)
E冷却ファンの100V電源コードがファン直付けとなっています。
Fツマミ1つのアルミ飾りが取れていました。(今回シルバー塗装で修復しましたが、見た目では分かりません。中々グーです。)
G有り難いことにCWフィルターが付いており、CW運用にも十分実用的です
 これらのを含めレストアの結果大変良い状態に修復できたと思います。下記にその経過を記載しました。

画像をクリックすると大きく表示します。

ロータリー、プッシュ、スナップスイッチ、VRなどの接触不良・ガリの修復

 

 このTS−511の接触不良、ガリは軽度だったので接点洗浄剤で修復しました。
一般的に受信ができないなどのは各スイッチ等の接触不良が原因だったケースが多く見られます。ロータリースイッチなどの接触不良を修復しただけで正常に動作するようになることもまれではありません。

 
無線機等は長期間動作させないと、ロータリースイッチ、スナップスイッチ、プッシュスイッチなどのスイッチ関係の接点やボリュームの接触面が酸化皮膜等で接触不良になり、正常に動作しないことが多く見られます。接触不良が原因で全く送受信ができないこともあります。
 接触不良を解消しただけで元のように正常に動作する例は多くあります。
このTS−511は長期保管ではなく日常的に使用していたと見られることから、接触不良の程度は比較的軽い状態でした。
・全く受信ができない、
・各ボリューム類にガリや接触不良が見られる、
・AGCの切り替えができない、AGCをオフにしてもSメーターが振る、
・METER切り替えが上手くいかない、
・RIT調整ができない、
・RF ATTが動作しない(TS−511にはこの機能は付いていません。)、
・スタンバイスイッチを動作させても送信状態にならない
・バンドによって受信出来ない、
などは接点の接触不良が原因の場合が多く見られます。
 接点の修復は多くの場合接点洗浄剤で修復することができます。接点復活剤はNGです。
接点復活剤はべとべとする溶剤がそのまま接点周りに残りショートしたり、容量や抵抗値を示したりする危険が大です。
 接点洗浄剤は溶液が蒸発するのでこのような心配はありません。ただし接点洗浄剤の溶液も蒸発するまで多少時間が必要です。電源を入れるのは30分以上経ってからが無難です。
 接点復活剤を使用する場合はスプレー式はさけて、ハケや綿棒で接点に直接塗布する方法であればトラブル防止につながると思います。
 実際にこれまで数十台の無線機をレストアしてきましたが9割以上復活させることができました。勿論、これだけで復活するわけではありませんが、修理の第一歩です。

 VFOに発振不良やガリが見られるところがありました。
VFOの特定の箇所で受信ができなくなる現象は長く動作させなかっりした場合しばしば見られます。
原因はローター部の接触不良と同じ原因です。接点洗浄剤で修復できないときは、2000番紙ヤスリを写真のように接触面に差し込んで接触面を磨き、接点洗浄剤を塗布し何度か回転させて接触不良を解消することができます。
多くの場合は接点洗浄剤を何度か繰り返し塗布しVFOツマミを根気よく回し続けると多くの場合ヤスリで研磨しなくとも解消できます。
このTS−511でも解消できました。

受信音質改善対策

 TS-520に比べTS-511の受信音は硬いというか、とがったような感じです。
AGC-FASTなんかにするととても聞けたものではなかったのですが、もちろん通常はSLOWでまったりと 今までAGC回路ばかりに目を向けていたのですが、以前から気になっていたのが検波回路です。
 TS-511(回路図上)とTS-520(回路図下)をを比べると、良く似ているものの若干異なるところがあります。
 検波出力のところにあるコンデンサの定数がTS-520ではTS-511に比べて1桁大きくなっています。また、コイルと抵抗の違いもあります。受信音の問題に関連しそうだということは容易に想像できます。
 音質改善の期待大と思いTS-520回路に近づけてみました。
 L2 1mH → 6.8KΩ
 C18 0.001uF → 0.01uF
 C17 0.001uF → 0.047uF
 R20 2.2kΩ → 4.7kΩ
効果は抜群です。受信音は極めてTS-520に近い音質になった感じがします。
 それにしても、定数を飼えただけで大きな効果が出るとは驚きです。
 当初はスピーカーの劣化で音質が悪くなっていたのかと思いましたが、回路の違いだったようです。
 これなら長時間聞いていても疲れない感じの音です。

冷却ファンACコネクターの取り付け

 ACファン用のコネクターが入手できなかったのかACコードがファンに直付けとなっていました。
この差し込みソケットは特殊な形状で現在は入手が難しいと思います。
 販売されているソケットと交換も≪考えたのですが丁度手元にあったTS−520のスピーカーソケットを加工して取り付けました。

S−メーター感度調整用ボリュームの交換

 電源のオンオフを繰り返す都度Sメータの振れ具合が変わります。
取り付けてあるVRの加締め部分が緩くなっていて振動で抵抗値が変化することが原因のようです。
ここには500KオームのVRが使用されています。取り付けてあるものと同じVRの入手は難しく、また入手できても劣化が進んでいる可能性が大です。
 やむを得ないので今市販されているVRをそのまま取り付けました。
ゼロ点調整VRは特に問題が無かったのでそのままにしております。
なお、SメーターはSSBモードでゼロ点調整するとCWモードで空Sを振るのでCWモードで調整しました。SSB中心の運用であればSメータゼロ点(VR1)と感度(VR2)を再調整すると良いと思います。

飾りが取れたツマミの修復

 飾りの取れたツマミが1個ありました。
同じツマミが無かったので、修復しました。
度のツマミを修復したかは写真で確認してください。
一寸した見た目では分からないのでないかと思います。

RF部、IF部、中和などの調整


IFユニット


NBユニット

RF、IF調整
@RFユニット&コイルパックの調整 
・ ドライブツマミを12時にセットします。なお調整には25Khzマーカー信号を使用します。
・ 3.5(3.75Mhz)、28.5(28.8Mhz)、21(21,225Mhz)、14(14.175Mhz)、7Mhz(7.15Mhz)、の順にMIXコイルを調整します。
ANBユニットの調整
・ Sメーターが最大になるようNBコイルを調整しました。
BIFユニット
 
Sメーターが最大になるよう各コイルを調整しました。そんなにずれはないので測定機など持っていないときは振れない方が無難です。
CSメータはIFユニットVR1、VR2を調整しました。
 14.175Mhzで40dbμVのSSG信号をいれ、S9になるように調整しました。
Dドライブ調整は背面のスクリーングリッド電圧スイッチをオフに、モードをCW、メーター表示をALCにセットして調整します。
・ 3.5(3.75Mhz)、28.5(28.8Mhz),21(21,225Mhz)、14(14.175Mhz)、7Mhz(7.15Mhz)の順にドライブコイルをメーターが最大に振れるように調整します。
Fジェネレーション基板のアウト信号はオシロで綺麗に確認できております。発振周波数も仕様どうりに調整しました。
Gキャリアバランスはずれていることが少ないのですが、念のため調整します。
 CWフィルターが付いている場合のCWキャリア発振は3,394.3Khzになります。(水晶発振子は3,395Khzです。)

中和再調整
@終段の中和調整のため50Ωのダーミロードを準備します。
Aダーミロードへの出力を最低に調整することにより中和をとります。
Bまず21.3MhzCWモードで出力調整をします。
Cダーミロードへの出力をIN60などで整流し出力電圧を測定します。
D電圧が最小になるように中和調整バリコン(終段ケースの中にある)を調整します。今回はほぼ0Xになるように調整できました。 

キャリア発信水晶交換

 キャリア発振部CW水晶の発振が若干弱めだったので予防的措置として水晶発振子を交換しました。
CW水晶発振子は3,395KhzでTS−520のキャリヤ発振周波数と同じです。
使用されている基板も同じでTS−520とTSー511では共通基盤が多いようです。
3,395Khz水晶はTS−520に使用されていた部品取り用基板から取り外し交換しました。

その他ユニットの調整


@


A


B


C


D


E


F


G

H

@VFO基板→発信周波数を調整しました。
Aファイナルユニット→ファイナル真空管はS2001×2です。中和を取り直しました。
Bマーカ発振ユニット→25Khz間隔で発振、SGを使用し発振周波数を校正しました。
C送受信切り替えスイッチ→今では珍しいシーメンスキースイッチが使用されています。
Dノイズブランカーユニット→Sメーター最大値に調整しました。
EAVRユニット→TS−520ではAFユニット上にありますが、TS−511では独立した基板となっています。電圧を調整しました。
F7ノイズブランカーユニット→RFボリュームツマミを手前に引くとノイズブランカーが動作するようになっています。
GAF部ユニット→半導体化されています。たしか、TS−510では真空管の6BM8が使用されていたように思います。
HBOX調整用ボリューム
 TS−511、TS−520はケース内に格納されていましたが、これ以降の無線機(TS−820など)ではフロントパネル面に取り付けられて操作性が格段に良くなりました。

ケースなど外観の状態

下のイラストをクリックするとそのページを表示します。


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