『泣いた赤鬼』(四)浜田 廣介
鬼と、鬼とは、つれだって、山をくだっていきました。ふもとに村がありました。村のはずれに、小さな家がありました。ひくい竹のかきねがあって、そのきわに、さるすべりの木が、枝えだに、赤い花を咲かせていました。日にてらされて、花はふくれて見えました。
「いいかい、それじゃ、あとから、まもなくくるんだよ。」
青鬼は、ささやくようにいうがはやいか、かけだして、小さな家の戸口のまえにやってきました。
そうして、きゅうに、戸をつよくけりつけながら、どなりました。
「鬼だ。鬼だ。」
家の中では、おじいさんと、おばあさんとが、おひるのごはんをたべていました。あけっぱなしの戸口のまえに、ひるまなか、鬼のすがたが、ひょっこりと立ったのを見て、きもをつぶしてとびたって、
「鬼だ。鬼だ。」とさけびつづけて、ふたりいっしょに、うらの口からにげだしました。
にげていくおじいさん、おばあさんには、ちっとも用がありません。青鬼は、中にはいると、さっそくに、さら、はち、ちゃわん、ちゃがまなど、手あたりしだいに手にとってなげつけました。ごはんいれも、なげつけました。ごはんつぶがそこらにとんで、しょうじのさんや、柱のかどにくっつきました。みそしるのなべは、ころげて、しるは、ろぶちを、たらたらとしたたりました。がらがら、がちゃん、がちゃりん、ちゃりん、ばたんと、青鬼は、とんだり、はねたり、さかだちしたりしていました。
「まだ、こないかな。」
そう、そっと思うところに、あいての若い赤鬼が、息をきらしてかけてきました。
「どこだ。どこだ。らんぼう者め。」
赤鬼は、こぶしをにぎって、大きな声でそういって、青鬼がいるのを見ると、かけよって、
「やっ、こにゃろう。」とどなるといっしょに、つかみかかって、首のところをぐいぐいとしめつけました。こつんと、ひとつ、かたい頭をうちすえました。
青鬼は、首をちぢめて、小さな声でいいました。
「ぽかぽか、つづけてなぐるのさ。」
赤鬼は、そこでぽかぽかうちました。どうなることかと、ものかげから、おっかなびっくりのぞき見をしては、はらはらしている村人たちには、たしかにつよく、赤鬼が、らんぼう鬼をなぐったように見えました。それでしたのに、青鬼は、小さな声でいいました。
「だめだい。しっかりぶつんだよ。」
「もういい、早くにげたまえ。」
そう、赤鬼が、小さな声でいいました。
「そんなら、そろそろにげようか。」
赤鬼のまたをくぐって、青鬼は、にげだしました。あわてたようなふりおして、戸口をでようとするときに、青鬼は、わざと、ひたいを柱のかげにうちあてるまねをしました。ところが、つよく打ちすぎて、思わず声をたてました。
「いたたっ、たっ。」
赤鬼は、びっくりしました。
「青くん、まてまて。みてあげる。いたくはないか。」
赤鬼は、心配しながらおいかけました。青鬼は、思いがけなく、青いひたいに、青い、大きなこぶをつくって、こぶをなでなでにげました。村人たちは、うしろから、あっけにとられて、鬼どもふたりが走っていくのをみていました。