2.それでは何を見て樹木を見分けるか

 これまたあくまで私個人の考えなので、ほかの方々とは意見が異なるかも知れない。この春から樹木に関心を持ち、樹木の名前を知りたいと思ったとき、実際自分がどのように樹木の名前を覚えていったか。
「樹木を見分ける、名前を知る上で一番大切なのは「観察」である。よく観察することである。子供の頃夏休みの宿題で朝顔の観察日記をつけた方も多いと思う。自然はまず観察することである。そしてたくさん見ることである。これで経験的知識が身についてくる。」
私なりには、樹木を見分ける(名前が分かる)にはいくつかの経路があった。①すでに経験的知識として知っているもの、②樹木名札、あるいは知った人から聞いて分かったもの、③本やインターネットで知っていたが実際見て分かったもの、④樹木名札もなくその場では分からないもの、の4通りである。

(注)参考文献からの説明は『』で表記し引用を示す。

(1)すでに名前を知っている樹木

 見聞きして知っている、幼い頃から家にあった等で知っている樹木である。桜(ただしほとんどはソメイヨイノ)、柿(何柿か)、つつじ(つつじにもいろいろある)、竹(竹だって1種類じゃない)、梅、もみじ等々園芸種を含め種類の多いものもあるが、知っている木はもう一度見直してみるといいと思う。ひょっとしたら間違って覚えていないか、通称で覚えたが本名は何かとか。肝心なのは先入観は捨てることである。「シイ」「カシ」という樹木はないのである。

(2)そのとき名前を知った樹木

 樹木札が付けられている、あるいは、知っている人から聞いてその場で知ったものである。ただ見流す、聞き流すのではなく「観察力」の働かしどころである。つまり、「XXXXの木はこういう特徴がある」ことを探すのである。これが次に見たとき、すでに知った木として見分けられることになる。そして、これが一番近道なのである。樹木名札をできる限り付けて欲しい思うのはこれが理由で、まずひとつの木で先に名前が分かり、参考文献やインターネットなどでさらに調べ深く理解し、次に見たときすぐにあのときの木だと分かることになる。
 社会人になると仕事を円滑に進めるためまず名前を紹介しあう、これが名刺交換である。はじめての人にあったとき自己紹介をし、次に会うときは名前を呼び合うようなものである。そこでよく相手を観察し名前と人物が一致しておけば場所が変わっても、またあったときに「誰々さん」と名前が言えるのである。相手が自分の名前を知っていて気軽に話してくるのに、こちらは名前が出てこないまどろこしい経験はいくつもあるであろう。まずは名前を知ることから会話は始まるのである。優秀なドアボーイは一度見たら客の名前を忘れないとか、これは商売の鉄則ですね。



(3)知識では知っていたが実際見て分かるもの

 人の話では聞いていたとか、本やインターネットでその特徴から名前は知っているが見たことがない場合、実際にその木を見て「ああ、これがあの木か」を分かるものである。私の場合、「ハナイカダ」(葉に花が咲く?)は本で読んで知っていたが、今年九州の黒川温泉に言った折、妻が道端の木をみて「この木何の木?葉っぱに花みたいなのがついている」と言ったので、みると確か本で読んだことがあると「ハナイカダ」を見て思ったことがある。「ユリノキ」もそうである。あの独特の相撲の軍配のような葉について本で見ていたが実は結構街路樹にあった。
 これらは比較的特長的なものがある樹木である。しかし、普段から興味を持って本を読むとかインターネットを調べるとかしていると分かりやすくなると思う。

(4)そのときは名前が分からなかったもの

 実はこれが曲者である。そのとき名前が分からないときは、とにかく目の前の樹木の特徴を最大限観察することである。ここでは「どこそこで見た樹木はこんな特長を持っていた」を持ち帰り、家に戻ってその特徴から樹木図鑑やインターネットで調べ、樹木名を割り出すという思考過程となる。特徴的な性格をもつ樹木以外は、その場で見ていくつもの特徴を記憶するのは限界があるし、観察記録かデジタルカメラを使うのが望ましいだろう。ひとつだけの合致点では心配で、数点の合致は欲しい。ただし、必ず分かるものでもないので、そのときはまたの機会に期待するしかない。
 そうなると、樹木のどこを見るかがポイントで、漠然と見ても家に戻って図鑑やインターネットをみてもその樹木にぶち当たることは稀であるし、場合によっては、その樹木にしかないワンポイントで即座に分かる場合もある。私自身、樹木をみるポイントは次のようにしている。

a.落葉樹/常緑樹、樹形
 まず大雑把に樹形を観察、落葉樹か常緑樹かは季節や樹木の葉
(落葉樹は一般的に葉が厚く硬い)を見れば大体分かる。
(例)ケヤキの樹形は箒をさかさまにしたような形。
b.樹皮
 ざらざら/つるつる/ひび割れ、模様(縦縞/横縞)やでこぼこの突起がないか観察する。
(例)クスノキは樹皮が長方形にひび割れる。
c.枝振り、葉の付き方
 枝がどのように着き伸びているか。葉には互生(葉が枝から交互になって出る)、対生(葉が枝から対になって出る)、束生(互生/対生にかかわらず、枝先に葉が集まる)の出方がある。
d.単葉か複葉か
 葉は単葉か複葉かを見る。特に、複葉はある程度樹木が限られるので、複葉でかなり絞られる。
e.葉の形、大きさ
 葉の形が線形、楕円形、円形、針形、卵型等の形、葉の基部、先端の形、葉の大きさも樹木の特徴を表す。
f.葉の縁の形、葉表/葉裏の違い、葉の大きさ
 これも樹木を判別する重要な要素で、葉のふちにギザギザがあるか(鋸歯)ないか(全縁)、かえでのように切れ込みがあるか、葉表と葉裏に違い(色の違いは多くは短い毛による)はあるか、葉の大小等である。
g.葉脈
 葉脈ははっきり出ているか、出方に特徴はないか。
(例)クスノキの葉脈は、基部近くで3行脈(主脈、両側の側脈の3本が目立つ)となっている。
h.花、実
 花が咲いたり実がなると、花や実の色、形だけで判別できることがある。ただし、サザンカとツバキの花だけみるとよく似ているが、おしべの構造が違う(サザンカのおしべはばらばらだが、ツバキのおしべは環状につながっている)ところまでいくとさらに判別しやすくなる。

(5)とにかくいろいろ見ること

 いずれにしても樹木博士を目指すとか、樹木図鑑を作るとか、受験をするわけではない。いくつかの観察から「樹木のXXXXはこんな特徴がある」ということ知り、「この木は(場合によってはおそらく)XXXXである」と判別できるかである。ここまできて、ようやくその木の名前を覚えたことになるのだと思う。まあ、肩肘張らずにマイペースでやりましょう。