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2.ガンマ関数と計算機 ― ヘルダーの論文をめぐって ―


 きっかけは八杉満利子京都産業大学教授の示唆による Marian B. Pour-El の論文の講読であった.



 Pour-El は汎用アナログ計算機(GPAC)による計算可能性と Turing 機による計算可能性の違いを論じた.前者と代数微分方程式の解として得られるということの同値性の主張は,Claude Shannon の最初の業績である.Pour-El はさらに議論を深め,ガンマ関数は GPAC 計算可能ではないが Turing 機では計算可能であることに注意している.かくて,アナログ機は,デジタル機よりも限定的であるということになるが,一方,固有の構造があるという興味もある.なお,アナログ機に関しては,「理系への数学」(話題4参照)の巻頭言でも言及した.



 そこで,ガンマ関数が代数微分方程式を決して満たさないことを最初に示したHoelderの論文を丹念に読んでみようと思い,翻訳を試みたが,話は広がって際限がない.添付したpdf稿には,Hoelderの他,Kelvin卿や Hausdorf の論文の翻訳,加えて,pdfファイルへのノートやコメントも付してある(ちなみに,この稿,第6節に紹介した通信工学者 Slepian の数学観は,19世紀後半以来の近代数学の支配的な数学観とは相容れないものである.しかし,技術者の実感が背景にあり,真面目に考察・展開すべきものだと思い,また,それが可能だと思われるのだが,筆者にはまだ準備ができていない).


 京都大学数理解析研究所の研究集会(「数学史の研究」平成19年8月)用に準備したフーリエの「熱の解析的理論」所収のフーリエ係数の計算についての拙論のpdf稿を貼り付けた(平成19年8月).

 フーリエの議論は,それ自体,十分に印象的だが,Kelvin 卿の積分器の提案も無関係ではないと思われるからである.実は,はなはだ不穏な物言いをすると,当ホームページの開設者は20世紀初頭以来(あるいは,19世紀末以来)の公理主義に基づく(あるいは,その周辺の,例えば,ブルバキ流の自律性の高い)数学観は,いわば,そのアイデアが exhausted という状態になって,すでに大分時日が経ったと思っている.しかし,単に,応用数学に重心を移せばよいということではあるまい.数学者としても一流であったが,人間としてもスケールの大きい活躍をしたという人たちの事跡を追ってみることも重要ではないだろうか.


以上のような事情もあって,現代数学社の企画中の「フーリエの数学」について,執筆の手を挙げたが,周辺の環境が激変したこともあって,遅々として進まない.最近,漸く時間配分のリズムに余裕が出来てきたので,取り組みを再開(?)したところである.ただし,これまでの不勉強が痛感される事態に立ち至っている.話の順序として,「熱の解析的理論」の序章くらいは,フーリエの思想を知る上でも,載せるべきだろうと考え,コメントを付しながらの翻訳を試みた.とりあえず,その部分だけを貼っておく(平成23年9月2日).


 フーリエの議論のうち,熱伝導の方程式の導出を一般的な状況で得ておきながら,特別な図形の場合には,得られた方程式をその図形特有の座標系で書き直すよりも,図形に即して導出しなおした方がよいと述べているのがある.細い金属の円環体の場合はこのように扱われている.本来,熱伝導の方程式を円環体固有の座標系で表すべきだと思うのだが,試みてみたところ,解を具体的に構成することが簡単ではないようで,フーリエが回避したのも理解できるように思う.ただ,フーリエの議論そのものも今日的にはそのままとは行くまい.ともかく該当箇所のノートを掲げておこう(平成24年10月13日).