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1.数学解析・計算可能解析,そして(多分)数値解析をめぐる省察


  九州大学教授(大学院数理学研究院)を退任するにあたっての最終講義(平成18年3月)の標題である.


  内容的には,後進(!)への問題提起のつもりであった.

  当ホームページ開設者の当面のものの見方・考え方は十分に反映させることができたと,今でも当人は考えている.

  付記(平成19年5月): ただし,必要があって,後日,読み返してみると,特に,第4章に,敢えて間違っているとは
  言わないものの,不正確不十分な記述が多い.
  第1節の内容は,数学的論文に仕上げる過程で,特に,レフェリーとのやりとりで,議論は大分補った.
  その一部は, pdfファイルへは注釈として書き込んである.
  第2節が難問で,ここは,考察の出発点に過ぎないとは言え,定式化段階にやや見え透いた不正確さがある.
  これらの一部については,話題6に掲げた「Sobolev 空間から多項式空間への射影」で言及しておく.この部分を,
  形式性を整えて数学的論文に仕上げられるかどうかは,今のところ課題であるとしか言えない.


ところで,

  この場所で,今更,数学観を述べ立てても仕方がないし,実際,ある程度のことは,最終講義で触れてはいる.
  その上,改めて述べる機会もあるかも知れない.

  しかし,振り返るほどの人生ではないが,なぜ,数学をやろうと思い,実際に,数学の研究と教育で飯を食うように
  なったのか,若いときの進路選択はそれこそ無数であったはずで,数学を選んだ理由を想い起こしてみると,
  知的な格好よさに幻惑されてともいうべきであって,どうも余り真面目であったとは思われない.

  数学科進学後,クラスの学生が弥永昌吉先生を囲んで初めて集まり,それぞれ,自己紹介と進学理由を述べたことが
  ある.正直に数学が好きで,大発見に挑戦したいからと述べた者もいたとは思うが,記憶に残っているのは,
  実験が苦手だとか,消去法で選んだなどという,照れが先行するというか,一種の不正直な発言であって,
  筆者もそうであったと思う.もちろん,これでは覚悟が足りなかったことは明らかである.
  
  今から思うと,皆,高校時代,数学や数学によって示唆される世界に惹かれていたけれど,
  入試の数学問題がすいすいと解けるというような意味での数学的学力に自信を備えていた者ばかりではなく,
  そのことが屈折した表現となったのだろう.試験問題大得意というのも間違いなくいたとは思うけれど.
  池田勇人首相提唱の所得倍増政策(科学技術振興による高度成長政策)の影響もあり,数学科進学の
  振り分け点数が急に高騰した頃の例外的現象であったのかも知れない.

  
  実際,学問として数学と呼ばれるべきものの一端に接したのは,ほとんどの者が大学入学後であったはずである.
  同様に,実験にせよ,フィールドワークにせよ,大学に入って初めて経験したり垣間見たりすることがほとんどだったので,
  そういうものに興味が振れた者も多いはずである.数学科の場合に限らず,入学時点で漠然と決めていた進学先に,
  そのまま人生を賭けるという選択をした学生が大半だったのではあろうが,それでも,なおこうして生じた関心を
  一生持ち続けている人も数多いであろう.

  数学をやってよかったかと問われると,やや不正直に聞こえるかも知れないが,
  まあ,比較的安全安定な生活をおくることができたから,よかったと答えよう.

  不満や自責はどうかと聞かれたら,もちろん,それは多々あるが,それこそ今更言っても仕方がないことだから,
  口ごもるしかないであろう.


  新しくページを開くのも面倒なので,平成21年11月4日の九州大学大学院数理学研究院・数理学府三分室統合記念祝賀会の
  講演(pdf)「ぜひ,新しい数学の発信を」ここに貼り付けておく.内容的には,もちろん大したことはない.