臨床余録
2018年 10月 14日  石が輝いてみえるとき

次からつぎへ患者が押し寄せる。あのドクトル・ビュルゲルでさえ一瞬患者を憎むことがあった。そしてさいごは自死を選ぶ。『ペスト』のドクター・リウーはどうだろう。患者が、そして仲間が次々に死んでゆく。自分の妻もやがて死ぬ。その中で彼は敢然と闘い続ける。彼は燃え尽きることはない。何故だろうか。ビュルゲルの日々は疲労の極限を生きながらどこか甘美だ。そして燃え尽き、死を選ぶ。そこにはわずかだが自己愛がつきまとう。リウーはそうではない。僕のビュルゲルへの親和には僕自身のナルシシズムがあるのだと思う。そしてそこを脱皮しない限り今の駄目な自分のまま終わりそうな気がする。
身近な医師に聞いてみる。君はバーンアウトしないの。私はバーンアウトすることはないわ。それは、一人ひとりの患者が持つ“石”が輝いて宝石のようにみえるとき、ああ素晴らしいと思うの。それだけ。それで報われたとか、バーンアウトしないですむとか、そんなことは全然考えることはないわね。ピアノをひいていてやっと思い通りの音色が出た時うっとりする、そんな感じかしら。あなただって、ボートを漕いでいて水の中をオールが強く美しく動くのを感じたときの感覚があったでしょう、それに近いものじゃないのかしら、臨床って。

2018年 10月 7日  みなと認知症セミナーをふりかえる

年1回開催してきた認知症の医療と介護に関する勉強会「みなと認知症セミナー」が今年で第11回目を迎える。10年間つとめた世話人代表を今年から横浜市立市民病院山口滋紀先生にバトンタッチした。これを機に10年間をふりかえってみよう。

【介護の領域】
認知症の在宅ケア グループホームスタッフからみた認知症ケア 認知症ケアにおける家族会の役割 認知症高齢者が地域で安心して暮らしていけるために地域包括支援センターの役割 僕が前を向いて歩く理由(前頭側頭型認知症を越えて今を生きる) 認知症グループホームの概要と課題 認知症疾患医療センターについて 認知症カフェについて 認知症ケアと傾聴・回想法 西区認知症初期集中支援チームの取り組み 若年性認知症の特徴とケアについて

以上が各年のタイトルである。様々な現場での実践が紹介された。西区あけぼの会の竹下淳子さんは2回出ていただいた。西区認知症ケアを支える中心のひとりだ。ひとつ際立つのは認知症当事者の中村成信氏と野上高伸氏の対話形式の講演。野上さんのサポートがあり、中村さんの自宅まで僕が伺いお願いした結果実現した。彼の『前を向いて歩く』という鮮烈なメッセージは深くこころに残った。

【医療の領域】
認知症の諸症状と薬物治療(山口登先生) 認知症の周辺症状の予防、治療、ケア(石束嘉和先生) 認知症の臨床:非アルツハイマー型を中心に(山口滋紀先生) 認知症の臨床:診断及び薬物治療について(小堺有史先生) 変革の時を迎えた高齢者終末期の医療と介護:特に認知症の方について(石飛幸三先生) 認知症診療のケアの作法:今とこれから(長谷川和夫先生) レビー小体型認知症をめぐって:臨床とケアを中心に(小坂憲司先生) 認知症鑑別診断の実際と若年性認知症の人と家族の集いについて(塩崎一昌先生) 認知症の新しい診断基準(勝瀬大海先生) 認知症医療・介護におけるこれからの課題(秋山治彦先生) 

僕にとって圧倒的だったのは、長谷川和夫先生と石飛幸三先生のお話。お二人ともご高齢であるが、中身は若々しく力強いメッセージがつまっていた。何よりお二人の人間性がにじみ出ていた。

《 前の月    次の月 》

当サイトに掲載されている文章等は著作権法により保護されています
権利者の許可なく転載することを禁じます