札幌のカウンセリング

カウンセリングを札幌で|のっぽろカウンセリング研究室
トップページ

トップページ >> カウンセリング論 >> 非指示的カウンセリングと指示的カウンセリング


非指示的カウンセリングと指示的カウンセリング




 カウンセリングの世界では、指示的であることと非指示的であることには大きな違いがあります。カウンセラーのクライエントに対するアプローチが対極的な位置にあるのです。この記事では、クライエント中心療法のカール・ロジャーズ以降のロジャーズ派に注目して、特に非指示的であることの多様性について論じます。


 1.歴史に見る指示から非指示へ

 まず、フロイトの古典的精神分析にさかのぼります。精神分析の手続きには二面性がありました。ひとつは、クライエントの自由連想に対して受動的に、中立性を保持した態度で耳を傾ける姿勢です。もうひとつは、自由連想から入手されたマテリアルを無意識と関連付けて解釈する能動的な姿勢です。

 前者の受動的かつ中立的な姿勢に対して、たとえばヴィルヘルム・シュテーケルは異議を唱えました。その結果として、彼はクライエントを説得したり、指導したり、助言を与えたり、教育したりという、指示的で積極的なアプローチを発展させたのです。

 後者の分析家が解釈を投与する姿勢に対しては、たとえばオットー・ランクやフェレンツィ・シャーンドルが異議を唱えました。有名な、積極技法・能動的アプローチです。連想内容に対する解釈の投与、つまりテクスト分析に埋没するのではなく、いまここでのクライエントとカウンセラーの対人の場を重視したのです。

 少し整理してみましょう。能動的-受動的の視点から見ると、クライエントが能動的になれるのは、オットー・ランクのアプローチでしょう。古典的な精神分析やシュテーケルのアプローチでは、能動的なのはあくまでカウンセラーであるように思います。指示的-非指示的の視点から見ると、シュテーケル、フロイト、オットー・ランクの順に、カウンセラーの指示は希薄化していきます。別の言い方をすれば、オットー・ランクはクライエントをセンターに置きますが、古典的精神分析や指示的アプローチのセンターは、あくまでカウンセラーに置かれてしまうのです。


 2.ロジャーズ以後のロジャーズ派の分岐

 パーソン・センタード・セラピーのカール・ロジャーズがまだ駆け出しの頃は、精神分析などが特にそうですが、権威的なアプローチや指示的なアプローチが主流の時代でした。そこにオットー・ランクが彗星のごとく現れて、アメリカのソーシャルワークやカウンセリングの世界に、非指示的なクライエント中心という考え方の種子を植えたのです。

 ここではロジャーズ自身の「非指示的」の概念を解説するつもりはありません。ロジャーズ以降のロジャーズ派に認められる、非指示的に関する理解の相違を見てみたいのです。この点については、キャンベル・バートン著『パーソン・センタード・セラピー: フォーカシング指向の観点から』(金剛出版)に詳しいです。以下は、その要点になります。

 現代のロジャーズ派は多様化しています。まず、「標準的な見方」です。この立場に立つと、クライエントに何も押し付けないかぎり、カウンセラーは関係のなかで積極的であってもよいと考えられています。つまり、クライエントに対して教えたり指示したりする働きかけは抑制するものの、いまこの瞬間にどうするのがふさわしいのかカウンセラーの自発的な気持ちが大切であるとされているのです。

 次は「純正主義者」です。この立場は、指示的にアプローチすることを禁止しています。カウンセラーの意図は、例の態度条件を体験すること、それを実現することに限られます。受容と共感に徹するといってよいでしょう。カウンセリングの目的は自己実現とか、十分に機能する人間になることではありません。カウンセラーの目的は、唯一、態度条件を実現することだけです。

 最後は「プロセス体験主義者」です。グリーンバーグの感情焦点化療法などがそうです。ゲシュタルト療法のエンプティ・チェアの技法を使って、積極的にアプローチする人たちです。この立場では、プロセスの指示はするが内容の指示はしないということになっています。カウンセラーは、クライエントが自分の体験過程に直面するように方向づけます。ここに指示性が存在しています。しかし、それ以外の点では、クライエント・センタード・セラピーの非指示性が維持されているのです。

 まだ流派は細かく分類されているのですが、ここまでとしましょう。まとめると、特に後期ロジャーズの思想を徹底して順守しているかに見える純正派と、来談者中心という偉大な精神のなかで柔軟に「指示」を組み込んでいる臨床家がいるようです。


 3.非指示的アプローチと指示的アプローチの効果

 最近の、カウンセリングの効果研究の話です。指示的アプローチと非指示的アプローチは、どちらが治療効果があるのでしょうか。これに関しては、とても興味深いリサーチ結果が出ています。

 ラフな表現をすると、あまりに非指示的であったり、反対に過度に指示的であるようなカウンセリングには、効果が見込めないのだそうです。当り前のことですが、指示-非指示に関しては、クライエントに即した柔軟な姿勢がカウンセラーには求められるわけです。

 ただこの結果、自覚のないアドバイス屋のカウンセラーが、自己を正当化するために使ってほしくないものですね。また、センターをクライエントに置かないアプローチで実践しているカウンセラーたちは、肝に銘じてほしいものです。クライエント・センタードの意味を。


 4.まとめ

 カウンセリングにおいて、指示と非指示という概念は、どうも誤解を招きやすいようですね。ロジャーズが非指示的カウンセリングから来談者中心療法と名称を改めてからも、なんとなく混乱が続いているような気がします。

 来談者中心のアプローチで実践しているカウンセラーも、クライエントが体験過程に接触しない皮層的なレベルの語りをずっと続けるのであれば、おそらくいったんその語りをストップしてガイドするはずです。これ、広い意味での指示であると思います。まあ、厳密に指示を定義すれば、これとて指示にはならないのかもしれませんが、これについてはまたの機会に論じるつもりです。

 私自身は、こちらの記事で紹介したオットー・ランクの意見が、いまのところしっくりきています。それは、「カウンセラーが能動的であっても、受動的であっても、そんなことはさして重要ではないように思えるのです−クライエントが建設的な仕方で能動的になることができるかぎりのことですが」というものでした。厳密には、能動-受動と指示-非指示は別の概念であると思いますが、この場合、言葉をそのまま置き換えて使ってもあまり問題ないでしょう。

ではまた書きます。


関連文献