YARON HERMAN
墓場の中まで持って行きたいアルバム
"VARIATIONS"
YARON HERMAN(p)
2005年10月 スタジオ録音 (LABOLIE RECORDS : VACM-1379)


先日、2010年のベスト・アルバム(JAZZ批評 667.)の1枚にYARON HERMAN "FOLLOW THE WHITE RABBIT"(JAZZ批評 665.)を選んだ。"FOLLOW THE WHITE RABBIT"ではメンバーの3人がいずれも20歳代という若さでありながら、卓越したテクニックと3者の絶妙なアンサンブルを聴くことが出来た。そして、次世代を担うグループであることを僕は確信した。
そのアルバムを遡ること5年前に録音されたのが、YARON HERMAN、その人のソロ・アルバムである。後先になってしまったが、トリオ盤を聴いてすぐにゲットしたアルバムである。結論から先に言えば、これまた素晴らしいアルバムである。願わくば、先のトリオ・アルバムとセットでお聴きいただければ、よりHERMANの凄さがお分かりいただけると思う。
YARON HERMANは1981年にイスラエルのテルアビブで生まれている。19歳のときにアメリカのバークリー音楽院で学ぶべくボストンに渡ったが、失意の中わずか2ヶ月後にはパリ経由でテルアビブに戻ることとなった。ところが、人生面白いもので、帰途のパリで行ったジャムセッションのその翌日にはオファーが殺到し、その日以降パリを離れることはなかったという。バークリー音楽院には求めるものがなかったが、パリのジャムセッションに求めるものが転がっていた・・・ということなのだろう。

@"SUMMERTIME" 
この曲は後に続く「バリエーション 3」までのモチーフになっている。
A"BLOSSOM [VAR.1]" 
"SUMMERTIME"をモチーフに、それを発展させ3拍子で演奏している。心に沁みる演奏だ。
B"FACING HIM [VAR.2]" 
KEITH JARRETTの"FACING YOU"(JAZZ批評 79.)を意識しているのは間違いない。タイトルも"YOU"ならぬ"HIM"である。あたかもKEITHのようでもある。
C"JERUSALEM OF GOLD [VAR.3]" 
「黄金のエルサレム」 1967年のイスラエル独立記念日に歌われた曲だという。哀しみを含んだ曲だ。

D"LIBERA ME" 
この演奏はとても印象的。このアルバムの中で一番のお気に入り。何回も繰り返し聴きたくなる。特に左手で奏でる重低音が心を揺らす。徐々に増す昂揚感が素晴らしい。ここでの4つのバリエーションはいずれも宗教的な意味合いを持っているとのこと。
E"FUGUE [VAR.1]" 
ちょっと抽象的な匂いのする演奏。
F"ELI ELI [VAR.2]" 
転じて、美しくも哀しみを湛えたテーマ。何故、かくも美しいのか!
G"PIE JESU [VAR.3]" 
左手で打ち鳴らす重低音が躍動感をいっそう煽る。

H"OSE SHALOM" 
メルヘンチックな美しさ。子供の笑い声が聞えてくるような・・・。平和を願うユダヤの伝承歌だという。
I"DROPS [VAR.1]" 
点描的なアプローチが実に面白い。高音部を多用した愛らしい曲。
J"LE TEMPS DU CONTEUR [VAR.2]" 
床を足で踏む音だろうか?効果的だ。

K"FRAGILE" 
言わずと知れたSTINGの書いた名曲。KENNY BARRONの"THE MOMENT"(JAZZ批評 26.)で有名になった。多分、多重録音なのだろう。ピアノを打楽器代わりに叩いている。右手1本のシングルトーンが歌っている!
L"HOMMAGE A FRANCIS PAUDRAS" 


このアルバムではYARON HERMANのピアニストとしての才気や技量というものが良く分かる。何十年に一人の逸材といって良いでしょう。録音の時が24歳。これからどんな風に成長していくのか本当に楽しみ。早くもBRAD MEHLDAUの後継者と呼ぶ声もあるようだけど、未だ早い。もう少し成長振りを見て行きたい。
BRAD MEHLDAUの"ELEGIAC CYCLE"(JAZZ批評 278.)、BILL EVANSの"ALONE"(JAZZ批評 298.)と一緒に葬送の時に流し、ついでに
墓場の中まで持って行きたいアルバムということで、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。
余談であるが、この暗いジャケットは日本盤。暗いだけで何だか分からないが、ピアノのペダルの部分を撮った写真である。もうちょっとジャケットにも色気や配慮が欲しいところだ。プロデュースする側の人には「ジャケットも音楽の一部」と認識してもらいたい。フランスからの輸入盤はデザインが全く違うので気をつける必要がある。
ところで、このアルバムの通常価格は何と1000円!たった1000円で味わえる至福。   (2010.12.25)

試聴サイト : http://www.youtube.com/watch?v=1JplcVoK5us



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独断的JAZZ批評 670.