ABE RABADE
一皮剥けるためには音数を抑えることも必要だろう
"ZIGURAT"
ABE RABADE(p), PABLO MARTIN CAMINERO(b), BRUNO PEDROSO(ds)
2009年12月 スタジオ録音 (KARONTE : KAR 7818)

ABE RABADEは初めて聴く。ディスコグラフィーを調べてみたら、記憶に残っているジャケットが何枚かある。ワンコと向き合っているジャケットとか顔半分の大写しジャケットとか・・・。このKARONTEレーベルからも既に5枚目のリリースだという。
このRABADEは1977年生まれというから、未だ33歳と若い。スペインのサンチアゴで生まれ、18歳の1995年にバークリー音楽院でピアノと作曲を学ぶためにアメリカに渡っている。そして、2000年に故郷のスペインに戻り、現在もそこで活動しているらしい。
このアルバムを聴き始めて思ったのであるが、3曲目の演奏なんて、今は亡きフランスのピアニスト・GEORGES ARVANITASを彷彿とさせる迫力満点の演奏である。奇しくも、ジャケットの横顔まで"IN CONCERT"(JAZZ批評 86.)のARVANITASのようだ。
このアルバム、Fと隠しトラックのG以外は全てRABADEのオリジナル。

@"ZIGURAT" 美しいピアノの音色で始まる。内省的で静かなテーマから徐々に昂揚感が増して来る。3者の力量も拮抗しておりバランスも良い。ドラムスのシンバリングが気持ちよく録れている。
A"SINESTESIA" 
ブラシの16ビートに乗ってベースが歌っている。ここではベースが主役。「間」を持った良い演奏だ。スティックに持ち替えるとシンバルを打つ音色が印象に残る。
B"XIKET" 
ハード・ドライヴのテーマ。アドリブに入るとアグレッシブなアップ・テンポの4ビートを刻んでいく。1969年当時のGEORGES ARVANITASのようでもあり、McCOY TYNER的でもある。
C"PRANA" 
この曲当たりから矢鱈長尺になってきて、いずれも10分を超える演奏となる。
D"7 CONTRA 5" 
何やら賑やかな演奏ではある。TYNERのような音の洪水に溺れんばかりだ。これが12分間続くので心して掛からねばならない。
E"TRANSITO N. 2 (DEEP CYCLE)" 
よく動く指だ。テクニックがあるのは事実だが、少し「間」が欲しい。少々聴き疲れする。何しろこの曲も7分間、ピアノが弾きっぱなしなのだから。その後、ベースのフリーなソロとドラム・ソロを挟んで終わる。
F"CHANSON N. 6" 
一転して、暗めで哀しげなサウンド。まるで、ヨーロピアン・ド演歌だ。この落差は大きいね。
G"OVER THE RAINBOW"
 隠しトラック。Fが終わって1分後に始まる。別にどうという事のない演奏なので、隠しトラックにしてまで勿体ぶることはなかった。・・・というか、はじめからなくても良かった。

このアルバムはスタジオ録音にもかかわらず全7曲で69分という演奏時間はかなり長い。最短で6分11秒、最長で12分3秒ある。まるでライヴ録音並みだ。曲の最後の方は聴くほうもダレテきてしまう。音符過剰なのもそれを増幅させている。
このアルバムは、何といっても1曲目のタイトル曲"ZIGURAT"で決まり。後は硬軟取り揃えているが、どれも長尺で音符過剰な演奏なので聴き疲れすることを覚悟しなければならないだろう。
テクニシャンのピアニストが陥る罠としては「弾き過ぎ」ということがよくあるが、このRABADEもその一人。一皮剥けるためには音数を抑えることも必要だろう。   (2010.12.23)

試聴サイト : http://diskunion.net/jazz/ct/detail/JZ101022-01




独断的JAZZ批評 669.