BILL EVANS
漂うのは「そこはかとない」とか「何気ない」美しさなのだ
"ALONE"
BILL EVANS(p)
1968年9,10月 スタジオ録音 (VERVE UCCU-9095) 


このアルバムは若い頃に何回も聴いていると思うのだが印象に残っていない。若い頃はいつも「EVANSなんて!」と思っていたから、さもありなん。
ところで、i TUNES MUSIC STOREが8月初旬に開設された。数日後、早速、僕も試してみた。そして、最初にダウン・ロードしたのがこのアルバムだった。日本の円で購入できるアルバムは今のところ僅かで、EVANSでも10枚程度だったと思う。1曲、150円。6曲で900円の買い物だった。1曲単位で買えるところがミソかな。欲しい曲だけ購入できるのは有難い。
それでありながら、何故、このCDも購入したかというと、やはり、「モノ」で取って置きたいという中年にありがちな物質欲みたいなものかもしれない。それとお気に入りの「頬擦り盤」であっても「モノ」がなければ頬擦り出来ないわけであるし・・・。このCDは今、流行の「名盤特価」の7曲入りで定価1500円を10%引きの1350円で購入した。ジャケットとかケースとかが付いていることを考えるとiTMSとトントンだろうか?ただ、新譜だとCDの方がずっと割高になるだろう。

iTMSには購入できるアルバムの数量がまだまだ少ないし、ジャズ・アルバムは本当に寂しい限り。しかし、いつかこの品揃えが増えてくると既存流通の脅威になることは間違いないだろう。
i PODにはダイレクトにダウン・ロードが出来るようだ。
僕の携帯デジタル・オーディオはソニー製なので、一度、CD-Rに焼いてからATRAC3で変換して転送という2重手間が生じるのが面倒ではある。そういう面倒臭さがあっても、1曲単位で、しかも、1曲=150円で買えるというはメリットだろう。アメリカでは99セントというから、まだまだ安くなるだろう。
日本のレコード業界も本当にいいモノづくりをしていかないと、そのうちiTMSに席巻されてしまうのではないかと少し心配になる。結局は「いい音楽をリーズナブルな価格で提供すること」、これに尽きると思う。

このアルバムは、世間で名盤の誉れ高い"AT THE MONTREUX JAZZ FESTIVAL"(JAZZ批評 188.)の3ヶ月〜4ヵ月後に録音されたソロ・アルバムだ。尤も、この"AT THE MONTREUX・・・・"を僕はひとつも名盤として評価はしていないが・・・。

プロデューサー:「MONTREUXではGOMEZもDeJOHNETTEもドタバタとうるさかったし、たまには一人で弾いていみる?」
BILL EVANS:「そうだね、それも悪くないね」

なんて会話がプロデューサーとの間であったかどうかは知らないが、全編に「そこはかとない美しさが漂うアルバム」である。選曲も美しいスタンダード・ナンバーを中心にしっとりした瑞々しさに溢れている。SCOTT LAFAROの幻影からも解き放たれて、「EVANSの真髄」を見せ付けたアルバムだと思う。
こういうアルバムにあっては、曲ごとの解説は必要ないね。言葉が陳腐になるだけ!
曲目は以下の通り。

@"HERE'S THAT RAINY DAY" 
A"A TIME FOR LOVE" 
B"MIDNIGHT MOOD" 
至福の時間。
C"ON A CLEAR DAY" 
D"NEVER LET ME GO" 
E"ALL THE THINGS YOU ARE / MIDNIGHT MOOD" 
F"A TIME FOR LOVE (ALTERNATE TAKE)
" 

奇を衒うことなく、一切の邪念もなく、正面からピアノと向き合ったEVANSの大傑作だと思う。漂うのは「そこはかとない」とか「何気ない」美しさなのだ。この良さを分かるにはそれ相当の人生の経験が必要かもしれない。かく言う僕もこの年になって、やっとEVANSの凄さが認識できるようになってきた。
BRAD MEHLDAU "ELEGIAC CYCLE"(JAZZ批評 278.)に続いて僕の葬送のテーマが増えた。恐れ多くも「manaの厳選"PIANO & α"」に追加させてもらった。   (2005.10.01)



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独断的JAZZ批評 298.