YARON HERMAN
未知のワンダーランドへの誘い
"FOLLOW THE WHITE RABBIT"
YARON HERMAN(p), CHRIS TORDINI(b), TOMMY CRANE(ds)
2010年6月 スタジオ録音 (ACT : VACG-1013)


YARON HERMANを初めて聴いた。今までに何回もチャンスがあったが、何故か食指が動かなかった。今回は下記の試聴サイトで聴いて、これは良いなと思った。それとジャケットの印象がすこぶる良かった。別に、日本の十二支に合わせたわけではないだろうけど、タイミングとしては良かった。タイトルも"FOLLOW THE WHITE RABBIT"だ。新しい年を迎えるに当たって、そのウサギさんにあやかりたいものだ。
YARON HERMANは既に日本への来日公演も終えているし、ソロ・アルバムもリリースしている。2週間にわたってこのアルバムを聴き込んできたのであるが、率直に言って、これは凄いグループだと思った。HERMANの凄さは当然として、グループの一体感や緊密感が素晴らしい。これはトリオに限らず、二人以上のグループには必須の条件だ。トリオというのは3者から生まれる躍動感や緊密感が大事だと思っている。誰一人欠けても駄目なのだ。YARON 29歳、CHRIS 25歳、TOMMY 27歳。全員が20歳代という若さながら、抜群の躍動感と緊密感で聴くものを魅了するに違いない。

@"FOLLOW THE WHITE RABBIT" 
導入部が実に素晴らしい。未知のワンダーランドに誘うが如し。これを聴いただけでこのアルバムの素晴らしさが予感できる。この曲はスタジオで即興的に演奏されたものだという。
A"SATURN RETURNS" 
BRAD MEHLDAU TRIOを彷彿とさせる音作り。3者の奏でるアンサンブルが素晴らしい。そういえばMEHLDAUのソロ・アルバムの中に"THE BARD RETURNS"(JAZZ批評 278.)という曲があったっけ。
B"TRYLON" 
C"HEART SHAPED BOX" 
この曲のサウンド作りもMEHLDAUに通ずるものがある。シンプルな曲だが、3者のバランスがとてもよくて凄く心地よい。そう、難しいことしなくても、シンプルな演奏であっても大きな感動を与えることが出来るのだ。
D"EIN GEDI" 
何と美しいのか!この美しさに言葉は要らない。
E"THE MOUNTAIN IN G MINOR" 
エフェクターこそ使用していないが、かつてのe.s.t.を思い出させる。
F"CADENZA" 
素晴らしい音色、素晴らしいピアノ・ソロ。テンション高目の後半部は若かりし頃のCHICK COREAをも彷彿とさせる。
G"AIRLINES" 
ライナー・ノーツによれば、TOMMYとYARONは旧知の仲。そのTOMMYを通じて知り合ったのがベースのCHRIS。CHRISはベース・ソロで太くて力強いベース・ワークを披露している。ハードに叩きまくるTOMMY CRANEも気持ちの良い叩きっぷりだ。
H"ALADINS PSYCHEDELIC LAMP" 
イスラエル出身のYARONに因んだ選曲だろうか?
I"BABY MINE" 
この曲はディズニーの「ダンボ」の主題曲だという。あまりの美しさに心を奪われる。
J"WHITE RABBIT ROBOT" 
@と同様に、即興的に演奏されたというトラック。
K"CLUSTERPHOBIC" 
後半部に挿入されているベースとドラムスのアップテンポの4ビートが躍動している。
L"WONDERLAND" 
M"NO SURPRISES" 
最後を締めるRADIOHEADの美しい佳曲。いやあ、参った!

適度なリリシズムとパワフルなダイナミズムを併せ持つYARON HERMAN TRIO。美しさと緊密感、躍動感が横溢していて聴くものの心を奪うだろう。ベースもドラムスも主張すべきときは主張し、なおかつ、3者のバランスが良い。これは楽しみな、というよりは、凄いグループが現れたものだ。僕の中では手にするのがちょっと遅きに失したという想いがある。YARON HERMAN、要チェックである。
間違いなく、次世代を担っていく期待の若手グループだ。本年のベスト・アルバムのひとつとして推挙したいと思うが、その前に、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。
余談だが、僕はこのジャケット・デザインがすこぶる気に入っている。   (2010.12.01)

試聴サイト : http://www.videoartsmusic.com/ap/?mod=m02&act=a02&iid=1338



独断的JAZZ批評 665.