独断的JAZZ批評 662.

MAGNUS HJORTH / PETTER ELDH / KAZUMI IKENAGA
知的で繊細、色彩感覚豊かな池長のドラミングを尊重すると
こういうスタイルにならざるを得なかったのかも知れない
"PLASTIC MOON"
MAGNUS HJORTH(p), PETTER ELDH(b), 池長 一美(ds)
2010年6月 スタジオ録音 (CLOUD)


MAGNUS HJORTHには沢山の顔がある。僕が知っているだけでも4つの顔がある。
ひとつがドラマーにSNORRE KIRKを擁したレギュラー・トリオ(JAZZ批評 537. & 555.)。二つ目がドラムスにANTON EGERを擁したテナー・カルテット"PEOPLE ARE MACHINES"(JAZZ批評 562. & 585.)で、テナーはMARIUS NESETだ。三つ目がドラムスに池長一美を迎えたこのトリオ(JAZZ批評 609.)だ。いずれもベースにはPETTER ELDHが参加している。そう、MAGNUSとPETTERは切っても切れない仲なのだ。4つ目がJASPER HOIBY(b)のトリオで、MAGNUSはPHRONESIS(JAZZ批評 541.)にも参加していたことがあるのだ。僕が購入したアルバムだけでも以上の6枚がある。その全てに僕は星5つを献上している。
池長一美を加えたトリオでは2009年6月の日本ツアー盤"SOMEDAY. LIVE IN JAPAN"(JAZZ批評 609.)が今年の2月にリリースされた。このアルバムは「血湧き肉躍る」白熱のライヴ盤であった。その後、今年の5月には2度目の来日をし、4箇所のライヴ・ツアーを実施している。僕は新宿「ピットイン」のライヴを聴きに行った。その1ヵ月後の6月にコペンハーゲンでスタジオ録音されたのがこのアルバムである。従って、池長を擁したアルバムとしてはこれが2枚目に当たる。


@"PLAY THE GAME" 
A"PURE CONCEPT" 
B"LACRIMA LAKE" 
僕はこの曲を聴きながらMADS VINDING(b)の"SIX HANDS THREE MINDS ONE HEART"(JAZZ批評 322.)を思い出していた。CARSTEN DAHLが書いた"SALME VED VEJS ENDE"に雰囲気がとてもよく似ている。美しいテーマにプラスされた静かな躍動感がいい。
C"SHINY STOCKINGS" 
僕が一番聴きたかった大好きな曲。テナー奏者のFRANK FOSTERの作曲だ。ビッグバンドのチューンとしても有名だが、僕の中では"HEAVY SOUNDS"(JAZZ批評 357.)にあるFOSTERとR. DAVISとE. JONESによるピアノレス・トリオの演奏が一押しだ。これをどう料理してくれるのか凄く興味があった。結果は、何と5/4という変拍子だった。ウーン、残念!こういう聞き古されたスタンダードでも真っ向勝負をして欲しかったし、それが平然と出来て、なおかつ、更なる感動を与えてくれるグループのはずだったのだが・・・。とはいえ、PETTER ELDHはR. DAVISのベース・ワークに真っ向勝負を挑める数少ないベーシストの一人だという確信は今も変わっていない。
D"BULLPEN" 
E"HOT CORNER" 
F"LEIA" 
G"I REMEMBER YOU" 
このスタンダード・ナンバーも変拍子。7/4拍子だという。聞き古されたスタンダードだけに一味違ったアプローチをしたかったのかも知れない。でも、リスナーは本当にそういうことを望んでいるのだろうか?これはプロが陥る罠かもしれない。リスナーは普通に感動できる演奏を望んでいると思うのだが・・・。何も奇を衒う必要はなかった。
H"JOGEN - PLASTIC MOON"
 

スタンダード・ナンバーのCとGが二つとも変拍子を採用したということで、肩透かしを食らった感じだ。こういう曲こそ真っ向勝負をして欲しかった。変拍子をやりたければオリジナルでやれば良いと思うのだけど、そうは行かないのはプロの性か?
この2曲以外はMAGNUSのオリジナルが6曲。いずれもリリカルで内省的な演奏ばかりだ。もう1曲が池長のオリジナル。知的で繊細、色彩感覚豊かな池長のドラミングを尊重するとこういうスタイルにならざるを得なかったのかも知れない。結果として、先に紹介した"SOMEDAY. LIVE IN JAPAN"とは180度違う演奏ばかりだ。ホットからクールへ、グルーヴからリリカルへの転換である。ある一面で今までにないMAGNUSとPETTERの素顔を覘くことが出来たとも言える。
確かに、いくつもの顔を持つMAGNUSとPETTERにとって、この池長を擁したトリオは"ONE OF THEM"なのだろう。レギュラー・トリオや"PEOPLE ARE MACHINES"を持つ彼らにとって、差別化の意味も含めて、こういうアプローチが必要だったのかもしれない。   (2010.11.16)

試聴サイト : http://www.hmv.co.jp/product/detail/3901989



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