独断的JAZZ批評 661.

TRIO'
"IT'S ONLY A PAPER MOON"は、アブストラクトなアプローチから種明かし的なテーマ演奏までの流れが自然で息が合っている
"TRIO' LIVE"
福田 重男(p), 森 泰人(b), 市原 康(ds)
2010年5月 ライヴ録音 (I-PRODUCE : IPTR 1001)


"TRIO' "は日本語読みするときは「トリオッ」と読むらしい。その「トリオッ」による第5作目のアルバムだという。そして、これが初めてのライブ盤。最初のアルバムが2004年1月の録音だから、かれこれ7年間の活動実績のあるグループだ。リーダー格はプロデューサーでもあるドラムの市原なのだろうか?
このアルバムでは3つのライブ会場で録音された演奏が全部で9曲入っているが、おまけ(?)として、トラック10には終演後と思われるプレイヤーとオーディエンスの会話が収録されている。

@"ALL OF YOU" 前橋 福田のピアノで始まる。一転、インテンポになってベースとドラムスが合流するが、ベースの増幅が大きくて目立ち過ぎ。決して録音バラスが良いとは言えない。テンション高目といえば聞えは良いが、録音を含めて少々荒っぽい感じがする。
A"JOANNE JULIA" 前橋 
B"HERE'S THAT RAINY DAY" 六本木 森のベースが良く歌っているし良い音色で録れていると思うのだけど、ピアノの音色が痩せている。もう少しふくよかな音色なら良かった。
C"DEDICATED TO YOU" 六本木 リリカルなイントロとは裏腹に突然、森のベースが定型パターンを刻みだし、テンション高目の演奏へとシフトする。
D"IT'S ONLY A PAPER MOON" 
六本木 このアルバムではこの曲が一番良いと思う。抽象画的なアプローチに始まるが、長い年月コンビを組んできた3者の気持ちが「阿吽の呼吸」でひとつに収斂していくそのさまが良い。スリリングに躍動していき、最後の最後に聴きなれたテーマが出てくるあたりは心憎い。
E"LE TEMPS RETROUVE" 
六本木 ピアノに比べてベースが出過ぎという感じを否めない。
F"RACHEL'S LAMENT" 
前橋 ピアニスト・福田の書いた曲。リリカルな福田のピアノと森のアルコ奏法でスタートする。徐々に多ビートの演奏にシフトしていき昂揚感を増していく。
G"RELAXIN' AT CAMARILLO" 
前橋 福田のハイテンションのピアノプレイが堪能できる。惜しむらくはもう少し前面に出ていれば良かった。この曲はTOMMY FLANAGANの代表作"OVERSEAS"(JAZZ批評 37.)に挿入されている曲としても有名だが、もうひとつ挙げると、同じトミフラの"ECLYPSO"(JAZZ批評 90.)でも演奏されている。どちらも素晴らしい演奏なので参考まで。個人的には後者のGEORGE MRAZがベースを弾いている演奏のほうが好きだ。
H"LOVE IS HERE TO STAY"
 代官山 雰囲気がガラリと変わってリラックスしたジャズ・ハウスの雰囲気が充満している。客が置いた録音機で録ったということだが、なかなか自然に録れていてジャズ・ハウスの雰囲気を上手に伝えている。オーディエンスは明らかに酔ってるね。途中にメンバー紹介のMCが入る。「私たちはおじいさんになるまでやります」・・・だって。
I「メンバー紹介とトーク」 代官山 途中で早送りになったりしても2分半続く。ほんの置き土産だそうだ。

曲名の後に録音したライヴ・ハウスのある地名を記しておいた。3つのライヴ・ハウスでの録音ということで録音状態がまちまちである。総じて言うと、前橋はテンション高目で少々荒っぽい感じ。六本木は落ち着いている。録音も一番良いのではないだろうか。代官山はオーディエンスの酔いも回ってリラックスした雰囲気・・・というところだろうか。
このグループらしさが最も出たトラックは"IT'S ONLY A PAPER MOON"で、アブストラクトなアプローチから種明かし的なテーマ演奏までの流れが自然で息が合っている。   (2010.11.14)