KENNY BARRON
KENNY BARRONの面目躍如!
"MINOR BLUES"
KENNY BARRON(p), GEORGE MRAZ(b), BEN RILEY(ds)
2009年5月 スタジオ録音 (VENUS RECORDS : VHCD-1032)


KENNY BARRONといえば、今や、ジャズ界を代表する黒人ピアニストだと思うが、意外や、リーダーとなったピアノ・トリオでの傑作が最近見当たらない。
リーダーではないが北川潔のトリオ・アルバムではサイドメンとして活躍している。2003年録音の"ANCESTRY"(JAZZ批評 225.)や2005年の"PRAYER"(JAZZ批評 312.)が代表例でドラムスにBRIAN BRADEを迎えたトリオだ。いずれも5つ星アルバムとして紹介している。
実は、KENNY BARRONといえばデュオ・アルバムというイメージが僕には強い。1991年録音のSTAN GETZとの"PEOPLE TIME"(JAZZ批評 231.)や2002年録音のGEORGE ROBERTとの"PEACE"(JAZZ批評 147.)が記憶に深く刻まれている。
そういう意味において、このアルバムは久しぶりにリーダー・BARRONのピアノ・トリオを堪能できるアルバムである。

@"MINOR BLUES"
 こういうタイトルには同名タイトルが多い。DON FRIEDMANの最高傑作と僕が信ずる"LATER CIRCLE"(JAZZ批評 550.)の中にもFRIEDMAN作の同名タイトル曲が入っているが、このBARRONのブルースも秀逸だ。31年の歳月を経ていながら、いずれもベーシストがMRAZというのが面白い。何と息の長いベーシストなんだろう!
A"BEAUTIFUL LOVE" ピアノのイントロが良い。これを聴けば、次に始まる演奏の質の高さが窺い知れる。ブラッシュがサクサクとリズムを刻み、ベースの4ビートが唸り、ピアノが踊る。これを「最高!」と言わずに何と言おう。BARRONの面目躍如。
B"EMILY" ミディアム・テンポのワルツを気持ちよく刻んでいく。音に切れがあって粒立ちのはっきりしたBARRONのピアノは最高だ。 
C"FOR HEAVEN'S SAKE" この曲も1996年録音のCHARLIE HADENとのデュオ・アルバム、"NIGHT & THE CITY"(JAZZ批評 16.)の中でも演奏されている名曲。ここでもMRAZの良く歌うベース・ソロが聴ける。 
D"HOW DEEP IS THE OCEAN" どの曲も真っ向勝負で通しているけど、これは結構凄いことだ。、こういう聞き古されたチューンというのは人とは違うことをしたくなるもので矢鱈アレンジに凝ったりするものだが、ストレートなプレイにこのトリオの凄さがある。 
E"TOO LATE NOW" 
F"DON'T EXPLAIN" 僕の中ではこの曲といえば、WYNTON KELLYの"PIANO"(JAZZ批評 11.)が思い浮かぶが、似ても似つかぬボサノバ調にびっくりした。BARRONらしい軽妙洒脱な演奏に脱帽。 
G"HUSH-A-BYE" ミディアム・ファーストの4ビートを刻む。軽妙に踊るBARRONのピアノ、BEN RILEYのドラミング、MRAZのウォーキング、どれをとってもバランスが良くて一体感に溢れている。しかも、録音がとても素晴らしい。 
H"I'VE NEVER BEEN IN LOVE BEFORE" RILEYのシンバリングに乗って指でも鳴らせば、これも最高! 
I"MY IDEAL" 聞き古されたスタンダードも奇を衒わずに真面目に歌っている。 


難しいことは一切考えないで、流れ出てくる音楽に気持ちよく身を任せよう。リスナーの心を捉えて離さない巧みなプレイに感激。兎に角、3者のバランス、技量、歌心、どれをとっても満点だ。
このCDはHI QUALITY CDとあるが、録音バランスの良さと相俟って素晴らしい音色を提供してくれている。トータル演奏時間73分を決して長いとは思わせない。むしろ、凄く得した気分だ。ヴィーナス・レコードはいい仕事をしたなあと思いつつ、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2009.08.22)



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独断的JAZZ批評 576.