独断的JAZZ批評 577.

JOHN HICKS
手のおもむくままにピアノを弾いたという感じで淡々としている
"I REMEMBER YOU"
JOHN HICKS(p),
2006年 ライヴ録音 (HIGHNOTE RECORDS : HCD 7191)


JOHN HICKSが亡くなったのは3年前の2006年で、未だ64歳という若さだった。このアルバムは死の直前に録音されたライヴ音源らしいが正確な日時は不明だ。
僕のレビューの中では、19997年録音のトリオ・アルバム、"SOMETHING TO LIVE FOR"(JAZZ批評 109.)があるだけだが、そのアルバムの印象というとあまり芳しいものではない。前掲のKENNY BARRONほどのエンタテイナーでもないし、どちらかというと地味な存在だ。そのHICKSが残したソロ・アルバムだ。

@"REFLECTIONS"
 1曲目を飾るT. MONKの書いた切ないバラード。「へえー!MONKもこんなバラード書いていたのだ」と思うほど。そういえば、"'ROUND ABOUT MIDNIGHT"もMONKの曲だった。
A"I REMEMBER YOU" 気負いの全くない演奏で、非常にナチュラル。むしろ、淡々と弾いている感じはあるが、休みなく鍵盤を叩いているという感じ。アルバム中、一番長い11分。
B"A NIGHTINGALE SANG IN BERKELEY SQUARE"
 僕の大好きな楽曲の一つ。このNIGHTINGALEというのはイギリスなどヨーロッパでは良く目にすることの出来る鳥で「小夜啼鳥(サヨナキドリ)」と呼ばれており、西洋のウグイスとも言われている。ここではしっとりとしたソロを展開している。ピアノ・トリオではAKIKO GRACEの"GRACEFUL VISION"(JAZZ批評 493.)の中で、更に、JOHN FREMGENの"PIECES OF STRING"(JAZZ批評 349.)の中ではSHELLY BERGがピアノを好演している。機会があれば聴いてみてほしい。なお、NAT KING COLEの素晴らしい歌声もYouTubeに載っているので参考まで。
C"ALL OF YOU"
 Bから連続して演奏されているが、わずか2分足らず。

D"SOLAR" 
このアルバムの中では一番「熱い」演奏。もう少し演奏に「間」があると良いと思うのだが、兎に角、弾きっぱなし。これがスタイルといえばスタイルなのだろうけど・・・。
E"I WANT TO TALK ABOUT YOU" 
バラードのスタンダード・ナンバー。
F"EVERYTIME WE SAY GOODBYE" 
連続して入る。こういうスローなスタンダードを情感たっぷりに歌った演奏の方に味がある。何の衒いもないベテラン・ピアニストの心情が吐露されている。
G"UPPER MANHATTAN MEDICAL GROUP" 
先のトリオ・アルバム"SOMETHING TO LIVE FOR"でも演奏されていた曲でタイトルは"UMMG"と省略されていたB. STRAYHORNの曲。
H"NUTTY"
 このHICKSにしては珍しく煌びやかな演奏。でも決して流麗とは言い難く、ゴツゴツした泥臭い演奏だ。

選曲はT. MONKの曲が@とHの2曲、かと思えば、C. POTERの曲がCとFの2曲という具合。ほかにも、M. DAVISやB. STRAYHORNの曲も散りばめて変化に富んでいる。ピアノ・ソロということもあって、比較的バラード調の演奏が多い。
ライブといってもかなり私的な録音だったのだろうか?演奏途中に拍手などもまばらで控えめな感じだ。逆にいうと、聴衆の反応がいまいちで盛り上がりに欠ける。これではノリノリの演奏は期待し辛い。それゆえか、HICKSの演奏は非常にナチュラルで気負いといったものを感じさせない。手のおもむくままにピアノを弾いたという感じで淡々としている。   (2009.08.29)

試聴サイト : http://www.emusic.com/album/John-Hicks-I-REMEMBER-YOU-MP3-Download/11543623.html