KIYOSHI KITAGAWA
自信に満ち溢れている上に、ベースの音色が滅茶苦茶良い
硬く引き締まった音で、しかも、音に伸びがある
全てはこれに集約される
アコースティック・ベースの音色に酔い痴れる1枚
"ANCESTRY"
KENNY BARRON(p), KIYOSHI KITAGAWA(b), BRIAN BLADE(ds)
2003年11月 スタジオ録音 (ATELIER SAWANO AS 042) 


ベーシスト・北川潔の参加しているアルバムを、かつて、2枚ほど所有していた。かつてと書いたのは既に処分してしまったからだ。この2枚とも小曽根真のピアノ・トリオ盤である。1997年録音の"TRIO"と1998年録音の"DEAR OSCAR"がそれである。この時の北川のベースに強い印象は残っていない。そもそも、小曽根のピアノにデビュー当時の煌くような輝きが無かった。この2枚も、結局、このJAZZ批評には掲載されないまま処分ということに相成ってしまった。もう一度聴きたいという何かが感じられないアルバムはある程度の期間を置いて買取処分に出している。多分、二度とCDトレイに載せることも無いだろうと思った。戸棚の肥やしにしていても仕方が無いので・・・。目安は3星以下。

このアルバムを購入するに至ったのはサイド・メンだ。円熟のピアニスト・KENNY BARRONと新進気鋭のドラマー・BRIAN BLADEが参加しているとなればイヤでも食指が伸びるというものだ。ところが、ふたを開けてみると、リーダーの北川潔のベースの出来がすこぶる良いのだ。
アコースティック・ベース・ファン必聴の1枚と言えるだろう。
最近、ベースをリーダーとするアルバムが散見されるが、どれも出来が良い。JAZZ批評 179.のBREND HEITZLERとJAZZ批評 210.のJESPER BODILSENも是非、聴いていただきたいアルバムだ。

@"ANCESTRY" 
A"EQUINOX" JOHN COLTRANEの書いたブルース。ファンキーな曲想の中でシンバルを刻む4ビートにスナップの利いたピアノが踊る。ベースは太く逞しく良い音を奏でる。ベースの音色としては申し分ない録音だ。ピチカートの音の生々しさが聴き取れる。
B"TIME TO GO" ベースとシンバルがアップ・テンポの4ビートを刻んだ後、少し遠慮がちにピアノが絡む。その後、3者の一体となった演奏にシフトしていく。BLADEの卓抜なセンスと切れ味が快い。このドラマー、2年半前のJAZZ批評 62.では将来の期待感を予感させたが、見事、素晴らしいドラマーに成長した。長めのドラム・ソロの後、テーマに戻る。

C"I WISH I COULD" メランコリックなバラード。
D"TADD'S DELIGHT" TADD DAMERONの書いた名曲。BLADEのブラッシュ・ワークに載せてベースがテーマを弾く。テーマに続くソロも良く歌っているし、生々しいピチカートの音色と相俟ってご機嫌な演奏を堪能できる。中盤から割り込んでくるBARRONのピアノがキラキラ輝いている感じ。
E"MAHJONG" 「マージャン」だと。この曲とHがWAYNE SHORTERのオリジナル。テーマの後のアドリブでは快い4ビートが唸る。ジャズはこうありたい!BLADEのドラミングにも要注目!

F"TELL ME WHY" 北川のオリジナル・バラード。これは雰囲気のある良い曲だ。こういう曲を弾かせたらBARRONのピアノの右に出るものは居ない。北川のベースも良いねえ。痺れるね。ビートは強く、良い音で良く歌う。これは最高だ!!!
G"HOT HOUSE" これもTADD DAMERONの書いた曲。ここでも、ベースが力強く、ビート感溢れるソロをとる。ブラッシュとのインタープレイは聴きものだ。この曲はピアノ・レス。
H"PINOCCHIO" 「ピノキオ」だそうだ。
I"YOU'VE CHANGED" いきなりのベースの出だしの音色が魅惑的。唸るね!痺れるね!これも絶品だ。

@、
B、C、Fの4曲が北川のオリジナル。コンポーザーとしての能力も高いが、それ以前に、ベーシストとしての力量をいかんなく発揮した。ベテラン・ピアニスト、KENNY BARRONを従えて、なかなか堂々としたものだ。自信に満ち溢れている上に、ベースの音色が滅茶苦茶良い。硬く引き締まった音で、しかも、音に伸びがある。全てはこれに集約される。アコースティック・ベースの音色に酔い痴れる1枚。「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2004.10.09)



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独断的JAZZ批評 225.