MAKOTO OZONE
やったね!
このアルバムはOZONEの金字塔ともいえるアルバムであるのと同時に、世界屈指のジャズ・ピアニストの証である
"FALLING IN LOVE, AGAIN"
小曽根 真(p)
2007年4月 スタジオ録音 (VERVE : UCCJ-2061)

久しぶりに行ったHMVの試聴機の前で僕は暫し固まってしまった・・・。
気に掛けていたアルバムだったので、早速、ヘッドホンを被ったみた。その瞬間に背筋がゾクゾクとしてきた。「ウ〜ン、これはいいなあ!」と思った。最近の試聴機は時間制限があるらしく、暫くすると電源が落ちてしまった。この間、夢中で流れ出るピアノの音に浸っていた。再度、電源を入れなおして聴いてみた。掛け値なしに素晴らしいと思った。「ついにやったか!」とも思った。
OZONEのアルバムは何枚か持ってもいたし、BLUE NOTE TOKYOのライヴにも何回か行ったが、これという感動を味わうことがなかった。むしろ、デビュー当時の"SPRING IS HERE"が一番よかったのではないかと思っていたほどだ。("SPRING IS HERE"を長らく探していたのであるが、最近、再発になったようでこのアルバムと一緒にゲットした)
ピアノ・ソロのアルバムというのは誤魔化しが利かない。プレイヤーの実力が如実に表れしまう。ましてや1枚のCD全てをソロで通すというのは相当の実力がなければ出来ない、いわば、離れ業なのだと思う。かつてソロピアノで名を馳せたプレイヤーというのは、BILL EVANSにしろKEITH JARRETTにしろCHICK COREAにしろ、BRAD MEHLDAUにしろ、いずれも超一流の代名詞でもある。
このアルバムはそういう領域にあるアルバムであり、それらを凌駕するほどのアルバムでもあると思った。
そして、この感動を多くのリスナーと分かち合いたいと思った。

@"(JUST LIKE) STARTING OVER" 極めつけはこの曲。この1曲のために大枚3000円を払ってもその価値は十分あると思った。素晴らしいと言われるアルバムの中にも、この1曲が凄いというのがよくある。例えば、最近ではMICHAEL BRECKERの"TUMBLEWEED"(JAZZ批評 421.)やMETHENY/MEHLDAUの"QUARTET"(JAZZ批評 406.)における"SECRET BEACH"、本田竹広の"MY PIANO MY LIFE 05"(JAZZ批評 389.)の"故郷〜父の歌[宮古高校高歌]"などがそういうチューンだ。
この曲はJOHN LENNONの曲だが、静かなイントロから始まり躍動する切れのある演奏にシフトしていく。最初に聴いた時に多重録音かなと思った。何回も繰り返し聴いていても、やはり多重録音かなと思ってしまう。しかし、どこにもそれらしきことは書いていない。とすると、やはり、これは一人で演奏しているということになる。だとすれば、そのくらい凄いテクニックだということがお分かりいただけると思う。特に、左手のプレイが凄い!この左手なしにこの感動はなかったはずだ。しかし、これが多重録音か否かということはあまり重要ではない。要は、流れ出てくる音楽が感動をもたらしてくれるかどうかということこそ重要である。
この演奏も「血沸き肉踊る」演奏なのだ。ジャズの醍醐味がギューっと凝縮して詰まっている。

A"IMPROVISATION #1" 
B"WHAT MIGHT HAVE BEEN" 
MIKE STERNの作の哀愁を帯びたバラード。
C"MARTHA, MY DEAR" 
これはLENNON & MAcCARTNEYの作。
D"IMPROVISATION #6" 
E"IMPROVISATION #3" 
F"STORY" 
AI(僕は知らなかったが、日本人歌手らしい)の曲。とてもいい曲で、この演奏がまた凄い!切れまくっているね。
G"TURN OUT THE STARS" 
BILL EVANSの作。
H"IMPROVISATION #4" 
I"ENHARMONIE" 
2005年にデュオ・アルバムを一緒に作った塩谷の書いた曲。
J"LAURA'S DREAM" 
K"IMPROVISATION #5" 
L"SHE" 

やったね!
このアルバムはOZONEの金字塔ともいえるアルバムであるのと同時に、世界屈指のジャズ・ピアニストの証である。僕はこのアルバムに最大限の賛辞を惜しまない。こういうアルバムが同じ日本人のプレイヤーから出たことがうれしい。ありがとう!
全13曲。そのうち"IMPROVISATION"と名のつく曲が5曲。心象風景を綴った作品と言えるだろう。僕はそのほかの7曲に着目する。スタンダードからニューゼネレーションまでジャンルを問わず果敢に挑戦している。そして、その仕上がりが皆、満足できる。
しかし、リスナーはあくまでも貪欲なのだ。更に、ひとつ注文をつけるとすると、今度は凄いデュオ・アルバムを作って欲しいと思うのだ。僕はOZONEにはKENNY BARRONの参加したSTAN GETZ "PEOPLE TIME"(JAZZ批評 231.)やGEORGE ROBERT"PEACE"(JAZZ批評 147.)のようなデュオ・アルバムを期待してやまない。
と、貪欲な欲望を披瀝しつつも、OZONEの更なる飛躍を願いながら、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。ちょっと気が早いが「manaの選ぶ今年のベスト3」に入ることは間違いないだろう。   (2007.09.15)



独断的JAZZ批評 436.