MICHAEL BRECKER
"TUMBLEWEED"
血湧き肉躍り、そして、感動する
ここには「ジャズの魂」がぎっしりと詰まっている
"PILGRIMAGE"
MICHAEL BRECKER(ts, EWI) PAT METHENY(g), HERBIE HANCOCK(p:
@, D, G, H), BRAD MEHLDAU(p: A, B, C, E, F) JOHN PATITUCCI(b), JACK DEJOHNETTE(ds)
2006年8月 スタジオ録音 (WA RECORDS : 0602517263512)

ところで、EWI(イーウィと呼ぶらしい)という楽器をご存知だろうか?僕には初めて耳にする言葉だったのでネット検索で調べてみた。"Electric Wind Instrument"の略で"EWI"というそうだ。要は、管楽器のシンセサイザー版ということらしい。アコースティック・ベースとエレキ・ベースの関係と一緒なのだろう。BRECKERはこの楽器を何曲かで吹いている。
さて、このアルバムはM. BRECKERの遺作になるという。僕は普段、カルテット以上の構成を持つアルバムをあまり聴かない。このアルバムは最近発売にもなり、遺作ということも手伝って、ネットでも相当話題のアルバムだ。で、購入してみた。
全ての曲がBRECKERのオリジナル。並々ならぬこのアルバムに賭ける意気込みを感じる。本人はこれが遺作になるとでも思っていたのだろうか?

@"THE MEAN TIME" 少々饒舌気味ではあるがPATITUCCIのベースがグループを牽引していく。
A"FIVE MONTHS FROM MIDNIGHT" 

B"ANAGRAM" 
DEJOHNETTEのドラミングにいつもの繊細さがない。豪胆なドラミングだ。テーマが無機質で色気がないのが残念。しかし、この中でのトリオの演奏は凄いね。MEHLDAU〜PATITUCCI〜DEJOHNETTEというトリオをメモしておこう。エンディングに向けてDEJOHNETTEのドラミングがここぞとばかりに燃え盛る。

C"TUMBLEWEED" 
この演奏は凄いぞ!最初のイントロからドラムスが飛び跳ね、ベースが踊る。ヴォイスともヴォーカルともつかぬ人の声が微妙に香辛料の役割を果たしている。テーマの後に、先ず登場するのはMETHENY。ギター・シンセサイザーを駆使してMETHENY節を奏でる。次に登場するのが主役のBRECKER。力強い演奏だ。とても不治の病に冒された余命何ヶ月の体とは思えない。こういうのを「神がかり」というのだろう。続いて、MEHLDAUのソロ。流石である!
そして、この後、5人によるバトルが始まる。これが更に凄い!たった5人で演奏しているのにもかかわらず、オーケストラのごとき分厚い演奏だ。 この演奏はBRAD MEHLDAUの"QUARTET"(JAZZ批評 406.)にある9曲目"SECRET BEACH"でノリに乗ったMETHENYのソロと共通した「ノリ!」だ。更に、付け加えるなら、PATITUCCIのアコースティック・ベースは驚嘆ものだ!こういう多ビートの曲をアコースティック・ベースでノリまくるとは!
いやあ、この演奏は凄い!こいつは仰け反るね!この1曲のために5つ星を献上しても惜しくはない。
もしもこれがライヴならば、スタンディング・オベーションで拍手鳴り止まず・・・・だったろう。この演奏の中には、決して忘れてはならない「ジャズの魂」が詰まっている。

往々にしてあるのが、この手の一流と呼ばれるプレイヤーを一堂に会して作ったアルバムというのは、得てして、顔見世興行的に終わってしまう例だ。随分前に紹介したGARY BURTONの"LIKE MINDS"(JAZZ批評 21.)なんていうのはその例に漏れない。対して、このアルバムは各プレイヤーの意気込みを感じさせる。(思い余って、平常心を置き去りにしたハイテンションな面も多分にある)
この曲を何回も繰り返し聴いていると、これ以降の曲に対するコメントは必要ないという気分にさえなってきてしまう。


D
"WHEN CAN I KISS YOU AGAIN ? " 
E"CARDINAL RULE" 
F"HALF MOON LANE" 
G"LOOSE THREADS" 
H"PILGRIMAGE" HANCOCKのエレピにBRECKERのEWI。テナーから途中で持ち替えているが、音色はまるで、フルートみたいだ。だから、多分、EWIであろう。何せ、僕はEWIなる電子楽器を初めて聴くので、この楽器の音色がこれであるだろうと想像するしかない。

極論すると、ぼくの中では、このアルバムはCの"TUMBLEWEED"だけのためにある。それ以外の曲は可もなく不可もない・・・そういういう感じだ。それほど、この曲の演奏は凄い。他の曲を圧倒している。血湧き肉躍り、そして、感動する。ここには「ジャズの魂」がぎっしりと詰まっている。
MICHAEL BRECKERへの哀悼を表しつつ、 「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   
(2007.06.21)



独断的JAZZ批評 421.