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『ハモンハモン』(Jamón, jamón)['92] 『髪結いの亭主』(Le Mari De La Coiffeuse)['90] | |||||
監督 ビガス・ルナ 監督 パトリス・ルコント | |||||
これがペネロペ・クルスのデビュー作『ハモンハモン』か。なるほど、闘牛士志願のラウル・ゴンザレス(ハビエル・バルデム)が、牛を模した自転車で練習に励むトレパン姿の膨らんだ股間を大写しにするオープニングからして、呆気に取られる怪作だ。確か『赤いアモーレ』['04]の談義をしていて教えられた作品だと思ったが、参照テクストとして編集した談義を確認しても出て来なくて意表を突かれた。 そんなはずはないと当時の掲示板の過去ログを当たってみたら、編集採録した談義の後、人魚さんからの「ペネロペは『ハモンハモン』の印象がいまだに強く、ハリウッドよりスペインで撮って欲しいなと今も思ったり・・」との書き込みに対して、TAOさんが「『ハモンハモン』のペネロペから『赤いアモーレ』は直線で結べます」と返していて、人魚さんから「『ハモンハモン』のH・バルデムは、是非お話ししたいタイプですね。ヤマさん、「ハモン」、いつか見て下さい。」と言われ、それ以来、僕の宿題映画となって、機会を得ぬまま十八年が経過したということだった。 『ボルベール<帰郷>』['06]の映画日誌でも、「『ラブシーンの掟』を読んで」でも言及していた宿題映画をようやく片付けることができたのだが、観始めると、トップクレジットに現れたのが『あんなに愛しあったのに』のステファニア・サンドレッリで、次が『髪結いの亭主』のアンナ・ガリエナ。ともに「我が“女優銘撰”」に挙げていたものだから、大喜びした。それぞれ御年四十路半ばと四十路前という熟女ぶりで、体当たりの熱演に感心した。 タイトルの『ハモンハモン』はハムのことのようだったが、劇中での使われ方からすると、日本語に直したら「むちむち」という感じのように思った。次作の『おっぱいとお月さま』ほどではないけれども、フェチ映画の系列に相応しいタイトルだという気がする。 それにしても、さすが情熱の国スペインだ。若かろうが、熟年に至ろうが、男も女も後先考えたりしないで心と体の行き当たりばったりを謳歌していて圧巻だ。確かに金持ち坊やのホセ・ルイス(ジョルディ・モリャ)の愚図愚図ぶりには愛想が尽きるにしても、妊娠させたことをバネに結婚へと漕ぎつけようとしていたのに、ホセの母コンチータ(ステファニア・サンドレッリ)の計略によるラウルの押しの強さに、ホセにはない魅力を感じて心変わりしていくシルヴィア(ペネロペ・クルス)はまだしも、ラウルをシルヴィアにけしかけながら、その野性味あふれる若さに溺れ込み、シルヴィアに会うのは止めるよう懇願してバイクや車まで宛がおうとするコンチータの惑溺ぶりや、娘を妊娠させたホセから、もう一度だけとせがまれて、さしたる葛藤もなく応じるカルメン(アンナ・ガリエナ)にしても、昔付き合っていたカルメンの娘シルヴィアから叔父さんと呼ばれていたマヌエル(フアン・ディエゴ)が、自分の息子がシルヴィアとの結婚を望んでいることを知りながら、彼女の弱り目に付け込むようにして口づける有様には、この人たちの頭のなかには、理性というものは存在しないと恐れ入った。 入り乱れた六人の男女の関係のなか、ラストショットで抱き合っている組み合わせが、シルヴィアとマヌエル、コンチータとラウル、カルメンと死せるホセというのは、いったい何なのだと呆気に取られた。六人は、愛に迷える子羊でもあるかのように、羊の群れが傍らを通り過ぎていくエンディングショットになっていた。 翌日観たのが、十八年来の宿題映画をようやく片付けたら、アンナ・ガリエナが出演していたので、やおら観たくなり、三十年ぶりに再見した『髪結いの亭主』だったが、なにやらえらく懐かしい気分になった。エロスの表現として卓抜したものであることを改めて感じた。やはり本作のアンナは実に好い。 懐かしく読み返してみた三十年前に綴った日誌にも記しているが、フェティシズムを描いて陰りがなく、むしろ健康的ですらあるというのは、さすがフランスというか、ラテン系だとつくづく思った。そして、実に洒落ているところが、いかにも“おフランス”だ。イタリア、スペインとなると、もっと濃厚になってくるような気がする。また、作り手が「どう観てくれる?」といった感じで、観る側に預けてきているような作品というのは、うまく響いてくると何とも愉しいものだと改めて思った。しばらく時を置いて再見すると一段と妙味が増すようにも感じる。 すると、高校の二学年後輩が「パトリス・ルコントと言えば、この『髪結いの亭主』と『仕立て屋の恋』ですかね。30年以上経っても色褪せない作品です。かけがえのない濃密な時間と引き換えにそれに匹敵するもの、つまり命を差し出し人生を昇華させる、ため息の出るような映画だと思います。」と寄せてくれた。僕が観ているルコント作品は、『仕立て屋の恋』『タンゴ』『イヴォンヌの香り』『リディキュール』『ハーフ・ア・チャンス』『橋の上の娘』『サン・ピエールの生命』なのだが、やはり『髪結いの亭主』が一頭地抜きん出ている気がする。次に来るのは、『サン・ピエールの生命』['99]かなと思ったら、それも再見してみたくなった。 また、合評会を主宰する高校時分の映画部長から「『髪結いの亭主』は将来取り上げたいね、フェチ映画は他に何がある?」と問われたので、「まぁ、一杯あると思うけど、ブニュエルの『小間使の日記』は代表的やね。あと『おっぱいとお月さま』の拙日誌で言及しちゅうクローネンバーグの『クラッシュ』とかケン・ラッセルの『ボンデージ』らぁでもえいろうし、僕が未見のまま気になっちゅうブニュエルの『アルチバルト・デラクルスの犯罪的人生』、キューブリックの『ロリータ』を採用してくれると嬉しい(あは)。 ベルトルッチやらタランティーノの映画やったら、どっかには必ず出て来ちょったようにも思うで。ポランスキーの映画にも、フェリーニの映画にも、なんぼでもありそうな気が(笑)。」などと返したところ、ブニュエル作品は両作とも持っていないとのことだった。ブニュエルは苦手だとも添えられていたのを読んで、そう言えば、かつて僕は「好みの監督は?」と訊かれたら、「ブニュエル、ブレッソン、ベルイマンの3Bかなぁ」と返すことにしていたのを思い出し、ちょっと可笑しくなった。 映画部長が「フェチは男性監督の永遠のテーマなんやね。」とも言っていたことに大いに賛同するとともに、脚フェチも尻フェチも巨乳フェチもいいけれど、『髪結いの亭主』のような香りフェチというのは変わり種の映画だと思った。そして、チラシだけは持っている『絹の叫び』['96]も気になっているフェチ映画だと誘いをかけてみた。2000年以降の作品だと、まだまだ他にもたくさんあるけれど、合評会の対象作は前世紀の映画ということになっている。 *『ハモンハモン』 推薦テクスト:「やっぱり映画がえいがねぇ!」より https://www.facebook.com/groups/826339410798977/posts/5987418541357679/ *『髪結いの亭主』 推薦テクスト:「やっぱり映画がえいがねぇ!」より https://www.facebook.com/groups/826339410798977/posts/2316242948475275/ 推薦テクスト:「シネマの孤独」より https://cinemanokodoku.com/2018/11/21/kamiyui/ | |||||
by ヤマ '23.10.13. DVD観賞 '23.10.14. WOWOWプラス録画 | |||||
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