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『たくましき男たち』(The Tall Men)['55] 『限りなき追跡』(Gun Fury)['53] | |||||
監督 ラオール・ウォルシュ | |||||
ラオール・ウォルシュ監督の'50年代の西部劇を続けて観た。これまでに観ているのは、『ビッグ・トレイル』['30]、『追跡』['47]、『決斗!一対三』['52]だ。監督作品としては他に『南部の反逆者』['57]も観ている。 先に観たのは、『たくましき男たち』だ。1866年モンタナ準州と示され、雪山に吊るされた縛り首男の姿から始まる本作は、何といってもテキサス州プレーリードッグからモンタナ州に向けて北上する五千頭にも及ぶ牛馬のビッグトレイルが圧巻の西部劇だった。まさしくそれをタイトルにした『ビッグ・トレイル』には及ばずとも、馬車の通れない岩場では崖から馬車を吊り下ろし、首まで浸かる川を泳ぎ渡って続く長旅を、延々と映し出す画面に恐れ入った。なかでもスー族五十名の襲撃をかわすために牛馬を暴走させて谷を駆け抜けるスタンピード場面の迫力に観惚れた。それにしても、凄まじい数の牛馬の群れだった。 人物造形はやや類型的でドラマ的盛り上がりを欠くような気もしたが、三日前に観たばかりの『アンネ・フランクと旅する日記』でもアンネ憧れのスターとして登場していたクラーク・ゲイブルが、タイトルに示された格好よく器の大きいモテ男ベン・アリソンを演じて独壇場だった。能ある鷹は爪を隠す的な早撃ち策士のネイサン・スターク(ロバート・ライアン)を引き立て役にした挙句、最後に感服させる映画だった。 スマートでダンディーなネイサンと、口が悪くワイルドで優しいベンとの間で揺らめきつつ、ベンへの想いを断ちがたい勝気な女性ネラ・ターナーをジェーン・ラッセルが肉感的に演じて、なかなか魅力的だったように思う。 そして、ベンと弟クリント(キャメロン・ミッチェル)の兄弟の祖母が、コマンチ族から祖父が買ってきた女性で、二人にはコマンチの血が流れていることをむしろ誇らしげに兄弟が語っていたのが目を惹いた。計算高いネイサンと誇り高く恩義に篤いベンの違いはそこにあるように思える一方で、カッとなりやすく兄に引け目を感じてばかりで酒に逃げていたクリントが傷ついているのもまた、その誇り高さゆえであることが窺えたところがなかなかのものだったように思う。 翌日観た、護衛付き駅馬車の疾走する場面から始まる『限りなき追跡』は、いささか大味ドラマに過ぎる気がしたが、内戦のもたらした荒廃を描いている点が目を惹いた。右腕とする相棒ジェス(レオ・ゴードン)から「昔は金持ち狙いだったのに、今じゃ見境なしだ」と非難されていた強盗団リーダーのフランク・スレイトン(フィル・ケイリー)も、南北戦争以前は、それなりの南部紳士だったことが偲ばれる造形だったように思う。 悪名轟かす己が力への慢心ぶりを顕著にしていた台詞が「凡人は法に従うが、俺は違う。自分で作るんだ」だったりするのを目にすると、昨今の政権の横暴さを想起せずにはいられず、これこそが古今東西、思い上がりの極みを端的に示す言葉なのだなと、韓国映画『シルミド SILMIDO』['03]での「権力を持つ者が自分の意志で発したものが国家命令だ。」を思い出した。 他方、五年に渡る従軍経験で、殺し合う争いに辟易としていたはずのベン・ウォーレン(ロック・ハドソン)が、ようやく奪還した許婚ジェニー(ドナ・リード)の制止に関わらず、スレイトンとの対決に向かうあたりに、前々日に観た『カリートの道』['93]に通じるものを感じ、思えば『カリートの道』は、その結末が正反対ながら、いかにも西部劇テイストの作品だったことに気づいた。 | |||||
by ヤマ '23. 7.29. BSプレミアム録画 '23. 7.30. BSプレミアム録画 | |||||
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