美術館冬の定期上映会“MoMA ニューヨーク近代美術館映画コレクション”

Dプログラム
『ビッグ・トレイル』['30]
 (The End Of The Big Trail)
監督 ラオール・ウォルシュ
『暗黒の恐怖』['50]
 (Panic in The Streets)
監督 エリア・カザン

 両作とも初めて観た作品だが、半世紀以上も前の映画ながら、すっかり驚かされた。

 エピデミックに関する注目が高まったのは、世界規模での交通や物流が緊密になった比較的最近のことだと思っていたから、ラース・フォン・トリア監督の『エピデミック』['87]あたりが嚆矢であり、その後、ヴォルフガング・ペーターゼーン監督の『アウトブレイク』['95]やダニー・ボイル監督の『28日後…』['02]、日本映画の『感染列島』['08]などと続いてきているように何となく思っていた。

 ところが、『暗黒の恐怖』を観ると、戦後5年の時点で、パンデミック対策として感染者の発見から48時間が勝負だとか、10時間もあれば、アフリカまで到達してしまうといった“今どきとまるで変わらぬ台詞”があって、大いに驚かされた。

 他方でそれと同時に、奮闘する衛生局のリード医師(リチャード・ウィドマーク)の妻ナンシー(バーバラ・ベル・ゲデス)の良妻ぶりやウォレン警部(ポール・ダグラス)の人物造形とリード医師との関係の描き方などに、いかにも50年代的なダンディズムを感じ、そこに宿っている古き良き時代のハリウッドらしさが心地よかった。

 だが、それ以上に驚いたのが先に観た『ビッグ・トレイル』で、何ともスケール感のある撮影の大きさに圧倒された。僕は未見ながらも、壮大さで知られた『イントレランス』['16]ほどではないのかもしれないが、それにしても凄い。大ロングで俯瞰している“ビッグ・トレイル”の光景にしても、馬車の落下にしても、また、川の強い流れのなかで馬車隊が押し流されたり、横断したりしている画面やら、今では到底再現不能な撮影だったように思えて仕方がなかった。

 ジョン・ウェインの初主演作品としても有名な映画らしいのだが、僕が最も瞠目したのは、マイケル・チミノ監督の天国の門』['81]の鑑賞日誌に、…大牧場主協会の雇った武装集団と…東欧移民団による戦闘場面さえ、無駄にくるくる廻らせているのを観て流石に呆れたと綴っていた戦闘場面とほぼ同じ戦闘場面が、ネイティヴ・アメリカンの先住民と白人開拓者たちの間で繰り広げられていたことだ。

 シャイアン族(と言っていたと思う)の襲撃に備えて、ちょうどアフリカのサバンナで群れを成して生きている草食動物が襲われたときに子どもらを内側に囲い込んで円陣を組むのと同じように、家畜の馬などを内側に囲い込むようにして馬車による円陣を敷いていた。そして、その円陣の周囲を裸馬に跨ってくるくる廻るシャイアン族を馬車の陰から狙い撃っていた姿とほぼ同じ戦闘スタイルが、『天国の門』で再現されていたような気がする。だから、「マイケル・チミノは『天国の門』に、これを持ってきていたのか!」と思わずにいられなかった。

 また、ジョン・ウェインの演じたコールマンに、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』['90]でケヴィン・コスナーの演じたジョン・ダンバーのような色づけを与え、先住民問題に対するリベラルなスタンスを明確にしていたことも印象深かった。『ダンス・ウィズ・ウルブス』が公開されたとき、特にこの先住民に対するスタンスの取りようが従来の西部劇にはなかったものとして強く打ち出されていた覚えがあるだけに、1930年にして既にこういう作品があったのかと衝撃的だった。

 そして、西部劇に付き物の気の強いヒロイン像に沿ったルース(マルゲリーテ・チャーチル)の存在やコールマンとジーク(タリー・マーシャル)の関係など、『暗黒の恐怖』でも感じたような“古き良き時代のハリウッドらしさ”が厳然と確立されているように感じ、そのことがとても印象深かった。

 それにしても、タイトルロールで“The End Of The Big Trail”と映し出されていたように思うのに、資料では原題が“The Big Trail”になっているのは、なぜなのだろう。





参照テクスト:「高知県立美術館HP」より
http://www.kochi-bunkazaidan.or.jp/~museum/contents/hall
/hall_event/hall_events2014/14MOMA/hall_event14moma.html

by ヤマ

'15. 3.22. 美術館ホール



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