『マイ・フェア・レディ』(My Fair Lady)['64]
監督 ジョージ・キューカー

 百花繚乱とも言うべき壮麗な花々で彩られた幕開けによる本作こそは、このところせっせと片付けてきた宿題映画であるオードリーの未見映画のなかでも真打のような名高い作品で、引き続き積年の宿題の片づけが僕の映画観賞の主軸になりそうな2021年の観賞第一作にとても相応しい気がした。きちんと全部を通して観たことはないはずなのだが、幾つもの場面に既視感があり、出てくる歌のほとんどに聴き覚えがあって、もしかすると遠い日の既見作ではないかとさえ思ったくらいだ。だが、まさか三時間近くもある映画だとは思っていなくて、いささか驚いた。

 花は売っても身は売らず、一流の花屋の店員になれることを夢見る貧しい花売り娘のイライザ(オードリー・ヘップバーン)という造形は、先ごろ観たティファニーで朝食を['61]での可憐でしたたかな娼婦ホリーと対になっているようなキャラクターだと感じたが、芯の強さは相通じている気がした。

 下卑た英語しか話せなかったイライザが苦労の末に綺麗な母音の発音を果たせるようになって、溢れる喜びに歌う ♪I Could Have Danced All Night♪の場面でのオードリーの表情が素晴らしく、また、圧巻のいで立ちで現れたアスコット競馬場で「ケツに火を付けろ!」と叫んでしまうインパクトに大いに感心した。しかし、ヘンリー・ヒギンズ教授(レックス・ハリソン)に仕えているピアス夫人が奇しくも的を射ていた“生身の人間を使った人形遊び”で悦に入っているヒギンスの鼻持ちならない人物像が気に障って、何とも味の悪い作品だった。もっとも、おそらくそれが原作者であるバーナード・ショーの持ち味なのだろう。

 これでようやくローマの休日['53]、麗しのサブリナ['54]、パリの恋人['57]、昼下りの情事['57]、ティファニーで朝食を['61]、シャレード['63]、オールウェイズ['89]と計8作品を観たことになるが、映画としては『ローマの休日』か『昼下りの情事』だろうけれども、僕が最も気に入ったオードリーとなると『ティファニーで朝食を』のモリーだったような気がする。オードリーを愛してやまず、フィギュアまで入手してしまう熱の入れようの先輩映友は、『ティファニーで朝食を』が余り気に入っていないようなのだが、どの作品においてもオードリーの魅力の神髄が表情とその変化にあることには、おそらく同意してくれるに違いないと思った。そういうオードリーだから、トリビュート動画がアップされていたりするのだろう。

by ヤマ

'20. 1. 1. BSプレミアム録画



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