『星屑の町』
監督 杉山泰一

 若い時分は、邦画よりも洋画を専ら愛好し、庶民の情感を謳い上げた歌謡でも、演歌はどうも辛気臭くて、シャンソンやカントリー&ウエスタンのほうを愛聴していたのに、歌謡グループ「山田修とハローナイツ」のリーダー修(小宮孝泰)がイントロ中に約束事のように語る前口上を聞いていると玉置宏などをすぐ思い出してしまうくらいに、どっぷり昭和の後半を生きてきているからか、この歳になると、昭和のムード歌謡が懐かしく、本作にその名も出てくる「内山田洋とクールファイブ」のみならず、亡父の好きだった鶴岡雅義と東京ロマンチカや園まり、青江三奈の名前などを思い出した。こういう映画は、この歳になると、ある意味、否応ない作品でもあるように思う。観た場所がまた、昭和の生き残りのような劇場だったものだから、映画がその空間に実に似合っていて、まるで誂えたようだった。

 歌手になろうと上京しながら夢破れて田舎に戻っている久間部愛を演じた、のん以上に、NHKの朝ドラでも達者なところを見せていた戸田恵子の歌がうまくて、キティ岩城のキャラクターに嵌っていたように思うけれども、垢抜けなさを漂わせた華と活力を感じさせて、のんもなかなかの嵌り役だった。また、愛の母親である浩美が、からおけスナックのママをやっていて、昭和のムード歌謡そのものの世界を偲ばせ、演じた相築あきこがいい感じだった。

 また、暮れに三度目のゆれる['06]を観賞したところだったので、兄が東京の大学に出て行き、弟の英二(菅原大吉)が田舎の家を継いだ山田兄弟に、同作の親世代の早川兄弟のことを想起した。そう言えば、弁護士になっていた早川の兄の名前も、本作と同じ修(蟹江敬三)だった。そして、稔・猛の早川兄弟の幼い時分の渓谷での団らんを留めていたフィルムは、僕が東京から高知に戻ってきた“昭和”五十五年の秋だったように思う。まさに遠くになりにけり、だ。


by ヤマ

'21. 1. 3. あたご劇場



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