『夢売るふたり』をめぐる往復書簡編集採録
映画通信」:(ケイケイさん)
ヤマ(管理人)


  ◎送信日時: 2012年9月16日 1:38 から

ヤマ(管理人)
 ケイケイさん、こんにちは。
 ディア・ドクターの談義の編集再録をしたのは、昨秋でしたっけ? あの時仕事で大変だったんで、書き残しがいっぱいあってね、ヤマさんとお話して、やっと消化出来た作品です。と返していただいていたことに気をよくして、久しぶりのメール談議をと(笑)。
 mixi日記にも書いたように僕は、女はわからん、女はコワいってな、実に身も蓋もない感想しか湧いてこなかったんで、ケイケイさんの解読してくれる里子(松たか子)像にとっても期待していたんですが、ほとんど同じ疑問ばかりで、なんのことはない里子はわからんで一致した気分です(笑)。

(ケイケイさん)
 ご期待に添えず申し訳ないです(笑)。複雑な人ですよね。前半と後半は、人格が一変してますから。でも私は、ずっと夫を男性として愛していた人だと思います。

ヤマ(管理人)
 ここんとこが、ホンマにようわからんかったんですよね。それで、ピンとこなかったんだろうな。

(ケイケイさん)
 私は、けっこう純粋に夫を愛していたと思いますね。ほら、ひとみ(江原由夏)に「いいわね、ひとみちゃんは自分の目標があって。」と言う場面。貫也(阿部サダヲ)に夢を託してきた自分を、ここで振り返っているんだと思いました。

ヤマ(管理人)
 うん。この場面のせいで、よけいに夫との間で失ったもののほうを印象づけてるように感じて、僕的には、実に“わからん女”でした、里子は(笑)。

(ケイケイさん)
 主導権を握っているのは妻なのに、その事にも気づいてなかったんじゃないかなぁ。

ヤマ(管理人)
 そんなことないと思いますよ。貫也は、けっこう言いなりだったんじゃないのかな、浮気バレ以前から。

(ケイケイさん)
 そうでしたっけ? 言いなりというより、そう仕向けてたんじゃないですかね? マジシャンズ・セレクトならず、ワイフセレクト(笑)。

ヤマ(管理人)
 主導権ってことに関しては、亭主にも二通りあろうかとは思いますが、割とこだわりの少ない亭主の場合、ま、そう言うんなら、と奥さんの言うことに敢えて異議を唱えない亭主って、けっこういるような気がしますよ。異議を唱えると面倒だってね(笑)。別に恐妻家ということじゃなくても、そこんとこに男の沽券などというものを殊更に感じたりはしない亭主は少なからずいる気がします。でもって、阿部サダヲですから、尚のこと(笑)。

(ケイケイさん)
 全くその通りでございます(笑)。最近の若い旦那さんたちは、若い頃からそれができますからね。
 二人で居酒屋を任せられる前に、だいぶお金貯まっていたでしょう? スカイツリーの近所云々は夫が言い出したけど、あのとき妻がダメだと言えば、ダダはこねなかったと思います。

ヤマ(管理人)
 同感。

(ケイケイさん)
 夫の夢を叶えるというのは言いわけで、実は夫の夢と自分の夢が同化していて、もっと言えば夫が自分の夢になっていたのに、その事に詐欺を続けて、やっと気がついたんじゃないですかね?

ヤマ(管理人)
 里子のほうは、おそらくそのとおりだと思います。

(ケイケイさん)
 こういう人(夫や子供に夢を託す女性)は多いですよ。

ヤマ(管理人)
 ええ。確かに、そっちのほうが多いのかもしれません(苦笑)。

(ケイケイさん)
 これはすごーくわかりますよ。私も夫の出世が夢だったもん。出世というか、せっかく整体師の資格を取ったのだから、それを活かす仕事をして欲しいと思っていました。

ヤマ(管理人)
 へ~、そうなんだ! 若くして結婚したら、余計そうなりがちなのかもしれませんね。


-------玲子とのこと-------

ヤマ(管理人)
 僕は、のっけから、玲子(鈴木砂羽)が貫也に封筒ごと金を渡したことにも、貫也がろくに中身も点検せずに手紙の存在に気づかず里子に渡したことにも、あれ?って感じだったんだけど、そんなの序の口でしたね(笑)。

(ケイケイさん)
 あれは貫也が嬉しさのあまり、きちんと確かめなかったかと思いました。そういう部分は、今まで里子がカバーしていたんじゃないなか?

ヤマ(管理人)
 確かに、貫也は、そういう感じではありましたね。それにしたって、あまりにも御粗末という気はするけど、まぁそういう奴なんだから、仕方ないよね(笑)。

(ケイケイさん)
 うんうん、そういう奴なんです(笑)。その抜けているところも魅力だと、阿部サダヲが演じると感じるんですよ。あれは詐欺できるわ(笑)。

ヤマ(管理人)
 だけど、あの八面六臂のモテキ状態がちっとも楽しそうに見えないとこがミソでしたよねー。

(ケイケイさん)
 玲子のほうは、すごく気持ちがわかりましたよ。

ヤマ(管理人)
 ほぅ! 玲子の件は、まさかのときのために弟に託して金を用意してあるなんて、魂萌え!の隆之(寺尾聡)ばりの実の見せ方じゃないですか。

(ケイケイさん)
 いや~あれとは違うかと。年齢も違うし、第一玲子は現役バリバリに働いていますから、お金を用意する必要はないと思います。

ヤマ(管理人)
 生き残っている弟(香川照之)が渡すから手切れ金めいてきても、構えてあったのは付き合っていた当の兄(香川照之)なんだから、しかも決して端金じゃないんだから、玲子の対処の仕方に驚きました。だけど、女性からすれば、どうこうしたところで金で済まされたってことになるのかなぁ??

(ケイケイさん)
 玲子は多分、家庭を壊すことは望んでなかったと思います。だから今の関係は、先が長いと思っていたのに、急の事故でしょう? なのに相手はお金を用意してあったなんて、いつでも別れられる用意みたいじゃないですか?

ヤマ(管理人)
 そうなるのか! これにはハッとしましたよ。ふーむ。

(ケイケイさん)
 ありがとうございます。マンションもそれなりのグレードだったし、彼女はお金が必要な人じゃないでしょう? 望んでもいないものを誠意の形だと突きつけられて、傷ついたと思います。

ヤマ(管理人)
 なるほどね。そんなことよりも何とか周到に遣り繰りして泊旅行の算段をしてくれるとかの気遣いのほうが嬉しい“誠意”なんでしょうね。

(ケイケイさん)
 うん絶対。多分土日は家庭だったろうから、夜しか知らないはずなんです。夜明けでない、陽の高いうちのデートはしたかったと思います。

ヤマ(管理人)
 夜明けの街での渡部(岸谷五朗)は、これに苦労してましたよね(笑)。
 ん? あの作品は、ご覧になってないんだっけ?

(ケイケイさん)
 観てないです。キャスティングもそそられなかったし。今度来る中山美穂の作品も、誰が見るねん?と思っています(笑)。

ヤマ(管理人)
 向井ファンは、行くんじゃないですか? で、彼のファンは、むしろミポリン世代に多そうだから、彼女に自分を託して「夢見る」とか(笑)。

(ケイケイさん)
 なるほどね~。私は息子ほどの年の子に萌える事はないのでね(笑)。

ヤマ(管理人)
 僕も娘ほどの年の子は、むしろ苦手(あは)。疲れる(苦笑)。

(ケイケイさん)
 女性は若いほどいいって言う男性は、結局肉体的な面しか見えてないんと違うかなぁー。本当に男女の微妙な感覚を楽しめるのは、やっぱり同世代+αくらいの年齢だと思います。

ヤマ(管理人)
 同感、同感。加藤茶はエラいですよ、ほんと(笑)。

(ケイケイさん)
 偉いかなぁ~?(笑)。今ころしんどいと思っているかも?

ヤマ(管理人)
 だとしても、自業自得やし(笑)。

(ケイケイさん)
 まぁ男性にしたら、お金の他に浮かばなかったんでしょうね。この辺も男女の難しさを感じます。

ヤマ(管理人)
 うん。これは、察するのが難しいと思いますよ。傷つけるとは決して思ってないから、けっこう無理して構えていたんだろうし、弟に託してあったなんていう本気度が、有り得ないくらいに凄いと思いました。これをリアルとみるか、リアルでないとみるかは各人各様だろうけど。

(ケイケイさん)
 あの手紙、もしかしたら玲子も読んでなかったかも? 読んでたら、あれごとは渡さなかったはずではないかな? 今ふと思いました。思い出の品だしね。

ヤマ(管理人)
 なるほど。それは確かにそうかもしれません。

(ケイケイさん)
 双子という設定は上手かったですね、何となく普通の兄弟より縁が深い感じしませんか?

ヤマ(管理人)
 確かに。けど、まさか『戦慄の絆』みたいな話じゃないですよね(笑)。

(ケイケイさん)
 違いますね(笑)。あれは不思議で面白かったですね。

ヤマ(管理人)
 今なら、たぶん日誌を綴ってるでしょうね。
 ケイケイさんの映画日記では貫也が満面の笑みで里子の元に帰るシーンが良かった。と書いてある段に、とっても感心。ご主人が失業なさった時の経験が効いてるなぁと年季を覚えました(笑)。

(ケイケイさん)
 あんた、さっきまで別れるて言うてたやんか・・・と、あきれるやら笑うやら。うちに限らず、男性ってあんまり深く考えないでモノ言いますけど、典型ですね(笑)。

ヤマ(管理人)
 いや、そういうことより、甲斐性へのこだわりのことなんですが(笑)。

(ケイケイさん)
 どうも男性って、自分の値打ちを甲斐性で決める感じ、ありませんか? うちだけではないとは思っていましたが、貫也を観て、確信しました(笑)。

ヤマ(管理人)
 あれがリアルなのか、西川美和の男性観なのか、一概には…(笑)。

(ケイケイさん)
 あの夫婦、結構オーソドックスな夫婦でしたよ。悪事を共有して絆が深まるのではなく、亀裂が入るのも含めて。

ヤマ(管理人)
 “共有”必ずしもってとこが鋭い!(笑)

(ケイケイさん)
 ありがとうございます(笑)。そういう点では、善き事をすれば、利点だけですかねぇ。

ヤマ(管理人)
 それはともかく、甲斐性に囚われない男も無論たくさんいますしね。少なくとも最近の若い男には減ってきているということで、間違いない気がする。ま、それもそれなんですけどねー。

(ケイケイさん)
 私はもう子供にお金が要らないので、毎日元気に仕事行って帰ってくれるだけで十分なんですが、夫はそうもいかないようで。里子も私と同じだったと思います。

ヤマ(管理人)
 え? 里子が“毎日元気に仕事行って帰ってくれるだけで十分”だったんですか?

(ケイケイさん)
 もちろん次の店を出す野心は持っていたでしょうが、そうは焦ってなかったと思います。夫が料理人として真面目に仕事していれば、当分は満足だったんじゃないかな?


-------女性の複雑な真情-------

ヤマ(管理人)
 ひとみに対する里子の嫉妬への御指摘には、意表を突かれつつも大いに感心。僕は、むしろ奢った疚しさのように里子を解していたんだけど、ケイケイさん説のほうが深い気がします。

(ケイケイさん)
 ありがとうございます。里子の言葉を額面通り受け取るには、表情にくもりや怒りがあったんですね。寂しさではなく。一緒に会話に加わらないし、これは嫉妬だなと(笑)。

ヤマ(管理人)
 相変わらず鋭いですね(ふふ)。

(ケイケイさん)
 ありがとうございます。ただ以前の彼女なら、嫉妬しても、こういう表現はしなかったと思います。

ヤマ(管理人)
 ほう、なぜですか?

(ケイケイさん)
 女って、知らず知らずに自分と誰かの容姿を比較してしまうことがあるんですよ。悪意のあるときもあります。もちろん私も含めて。でもその悪意って、恥ずかしい事だともわかっているんです。

ヤマ(管理人)
 見られるってことに敏感ですもんね、多くの女性は。見せたがることにおいても、隠したがることにおいても、とにかく、見られる、知られるってことに非常にデリケートだと思います。なんか、とってもめんどくさいくらいにね(笑)。

(ケイケイさん)
 年がいくと、あんまりそこに拘りがなくなってくるので、お洒落していて楽しいですよ。ちょっと若すぎるか? いやいや、誰も私の事見てないから大丈夫、とかね(笑)。
 ひとみのように人柄の良い人を、そういう欠点で貶すのは、夫の言うとおり卑しいことでしょう?

ヤマ(管理人)
 ひとみの特段の人柄の良さって、直接的な描写として端的に現れていたのは、どの場面なのでしょう? 僕は、彼女だけが取り立てて人柄がいいとは思わず、四人とも、いい女だし、健気に生きている感じを持ったんですけど。

(ケイケイさん)
 端的には演じていた江原由夏自身の存在感ですね。健気さや純粋さ、スポーツ選手としてのひたむきさなど、彼女の演技力で感じました。もちろんそれには、監督の演出力が長けていたのもありますが。

ヤマ(管理人)
 ということは、具体的なエピソードは何もなかったわけですよね。

(ケイケイさん)
 そうですね。ヤマさんに問われて、初めて気づきました。

ヤマ(管理人)
 でしょ。だから僕は、きちんと表情や演技・演出を注視するケイケイさんのような人じゃなくても、概ね多くの人が、ひとみのことをそんなふうに評しているのが、不思議で仕方がありません。まるで、金髪ボインの女性がモンローのように微笑んでいると、それだけで頭が足りない女に違いないと評しがちなのと同様に、器量もスタイルもよくない女性が微笑みを見せると、それだけで人柄がいいとか賢そうだとか評しがちだと思われませんか?(笑) 特に、女性のほうが、どちらをもそのように評しがちな気がしてるんですけど。

(ケイケイさん)
 さすがヤマさん、女性に対する目線は優しく鋭い(笑)。

ヤマ(管理人)
 いやいや、恐縮(あは)。

(ケイケイさん)
 それって僻み根性が入ってるかもですね。自分より器量が下の人には優しい目線で、上の人には意地悪く。

ヤマ(管理人)
 それもね、きっと女性が見られることに敏感だからだと思いますよ。

(ケイケイさん)
 若い頃は確かに自意識過剰気味ですからね。年齢が行くと、却って解放される。誰も私の事なんか見てへんわと思うから(笑)。私も今悩んでるんですよ、服装を変えていく年齢なんで。でも年相応の格好をすると、すごく気分が老けるんです。もう沈みまくり(笑)。なので来年はもう着れないかも知れないからと言い訳して、まだ若作りしています(笑)。

ヤマ(管理人)
 最高の人生をあなたとでは受容しようとしているメアリーのほうが抗っているアダムよりも受容できていなかったんですが、若作りと意識している若作りというのは、まさに受容していればこそのものだと思いますよ。気分が老け込まないよう配慮してやる必要が生じていることこそが老いなんだから、そのことをきちんと受け入れて若作りをするのは、むしろ必要なことだと思います。

(ケイケイさん)
 確かに。若作りと言いながら、アンチエイジングには懐疑的なんです。年相応の皺やシミは、別にいいかなと。人工的に手を加えるのではなく、内面からの若さが大事だと思うんですけどね。

ヤマ(管理人)
 まさしく。

(ケイケイさん)
 女性のシワも人生の年輪と受け止めてもらえれば嬉しいですが。

ヤマ(管理人)
 女性が思ってるほどには、気にしてない気がするんですけど。

(ケイケイさん)
 同性が思ってくれません(笑)。自分も気にしているから、他人も気になるんですね。

ヤマ(管理人)
 これ、真理ですよね。映画の感想なんかにしても、作品を評しているようで、実は自分を表してることになるのは、全部そういうことですもん(笑)。

(ケイケイさん)
 僻み根性の話も、きっとそうなんやわ、自分の事棚に上げて。反省します(笑)。
 やはり人を欠点で貶すのは卑しいことだから詐欺を始める以前の里子なら、ああはしなかったと思います。詐欺を始めてからは、やっぱり気持ちが荒んでしまっているんだと思います。これは本性とは別だと思うなぁ。

ヤマ(管理人)
 そうあってほしいものですよね。


-------市澤夫妻のセックスレス-------

ヤマ(管理人)
 疑問ではなく、違和感だとお書きの夫婦間のセックスの件は、ま、自慰に耽ることが夫婦間ではしていないことの確証だとは言えないながらも、演出的には通常そういうことを示している場面ですよね。

(ケイケイさん)
 うんうん。

ヤマ(管理人)
 僕も、あれは里子のほうが拒んでいるんだと解してました。でも「仕事」のために遠慮しているんではなく、拒否。つまり、玲子との一件を許してないのだろうと。

(ケイケイさん)
 私も里子が拒んでいると思います。

ヤマ(管理人)
 あら? じゃあここんとこでは「里子も私と同じ」ではないんですね。私が里子なら、一番愛されているのはやっぱり自分だと確認して確信したいって映画日記に書いてますもんね。

(ケイケイさん)
 そうですね。
 でも里子が拒んでいたのは、玲子とのことへのわだかまりじゃない気がするなぁ。詐欺を止めるまでっていう気がする。

ヤマ(管理人)
 基本的に、里子は貫也をトータルには愛していればこそ、ってことですよね。そこんとこが鍵なんだけど、そのへんが僕にはうまく伝わってこなかった(とほ)。

(ケイケイさん)
 玲子との事のあと、お風呂に入ったのは、里子が命じたんですよね。あの気持ちはすごくわかる(笑)。だからあれと一緒で、他の女と交わった夫とは、セックスしたくないと思ったのかと。

ヤマ(管理人)
 それと上に引用した「私が里子なら、一番愛されているのはやっぱり自分だと確認して確信したい」っていうこととは、矛盾しないんですか?

(ケイケイさん)
 私はお風呂に入って禊が終われば、OKですよ(笑)。

ヤマ(管理人)
 わぉ!(笑) それって、女性としては少数派なんじゃないの? 禊さえ済ませれば、同日同夜でもOKなの? ホントかなぁ(笑)。

(ケイケイさん)
 いやいや、まさか同日は無理ですが(笑)。

ヤマ(管理人)
 同日同夜でなければOKなら、大したもんですよ。ま、そういう方ほど、本気で怒らせると途轍もなくおっかないとしたもんだけど。ん? もしかして、里子って、そういうタイプなんでしょうか?(笑)

(ケイケイさん)
 この場合は、夫婦合意の上の「浮気」ですよね? なのに拒否したのなら、里子は相当きつい人ですよ。

ヤマ(管理人)
 でも、発端は違うじゃないですか。だから、僕は、それを許してないんだと思ったし、貫也も里子にそんなふうな恨み言のセリフを吐いていたと思いますよ。

(ケイケイさん)
 その台詞は記憶にないです。

ヤマ(管理人)
 予告編でも流れてたじゃないですか(笑)。 お前の足りんは金やなくて、腹いせの足りんたい」「女ン人んことも、その女の股ぐらに顔を突っ込みよる俺んこともっていう台詞。痛いところを突かれて、思わずコップを振りかざす里子の姿が哀れでした。

(ケイケイさん)
 これ!さっきうちの掲示板ではらみさんが、ヤマさんと同じことをお書きだったんですよ。

ヤマ(管理人)
 へぇ、そうですか。さきほど拝見してきましたよ。

(ケイケイさん)
 私は「腹いせ」を、今まで糟糠の妻でいたことの不満の爆発と捉えたんですね。玲子との件は、念頭になかったんですよ。これでヤマさん説も今まで以上に納得です。

ヤマ(管理人)
 今まで夫の夢に尽くすために辛抱させられてきたことへの“腹いせ”なら、貫也も「女の股ぐらに顔を突っ込みよる俺んことも」とは言わないと思います。少なくとも貫也は、里子から許されてないと思ってる気がしますね。

(ケイケイさん)
 うんうん。でも、許してなくて、騙した女と寝てこいと言うなら、確かに怖い女ですよね(笑)。

ヤマ(管理人)
 でしょ。コワいし、わからん女ですよ。

(ケイケイさん)
 昔有名なAV男優のインタビューを読んだとき、「仕事では疲れるセックス、家では疲れを取るセックス」をしていると語っていたんですよ。

ヤマ(管理人)
 ほぅ。

(ケイケイさん)
 まぁ家でも肉体的には疲れるんでしょうけど(笑)、やっぱり愛する人とセックスするほうが、心身ともに充足するのは男女一緒でしょう?

ヤマ(管理人)
 そりゃそうですよね。

(ケイケイさん)
 セックスのプロでも、嫌だからこそそうなんだ、と記憶に残っています。だから貫也も、里子とセックスしたいときもあったと思います。

ヤマ(管理人)
 したい理由が、愛のみならず不安解消というか安堵を求めての場合もあるのは、やはり男女一緒だろうと思いますよ。セックスで得られる安心感ってバカにならないですからね。

(ケイケイさん)
 夫婦生活が長くなると、快楽だけじゃなくて、コミュニケーションツールにもなりますし(笑)。

ヤマ(管理人)
 でも、里子の場合は“男女としては終わったよ、後は、起死回生のパートナーのみ”ってのが基本的スタンスなのかなと。

(ケイケイさん)
 いやいや、愛してますよ、嫉妬してるし(笑)。

ヤマ(管理人)
 嫉妬の理由を愛ゆえとみればそうでしょうし、疎外を味わわされたプライドの傷つきゆえとみれば、嫉妬が愛の証とは言えなくなるんですけどね。

(ケイケイさん)
 うんうん、それはそうですね。
 それと、うたた寝する里子を、貫也がベッドまで連れていって、二人で服を着たまま抱き合って眠るシーン、あれは男女の愛を感じましたよ。セックスもなく服も来てて、ただ眠っているだけなのに。

ヤマ(管理人)
 お~、これは説得力ありですな、成程(感心)。確かにそうでした。でも、待てよ、それは貫也の側からのものなんじゃないんですか?

(ケイケイさん)
 里子もしっかり抱きついていました。ああいうポーズって、パートナーがいる人は、覚えがあるはずなんですよ。円満でないときは、絶対しない格好ですね。

ヤマ(管理人)
 確かに、それはそうだなぁ。

(ケイケイさん)
 でしょう?

ヤマ(管理人)
 いやね、でも、だからこそ、里子の人物像が不明確になって「女はわからん、女はコワい」ってなことになっちゃうんですけど(笑)。

(ケイケイさん)
 裸で抱き合っても愛があるとは限りませんが、服を着て幸せな顔して抱き合っている男女には、愛があると私は思います。

ヤマ(管理人)
 またまた、鋭いじゃありませんか!(感心) 魂胆とか思惑抜きの受容って、むしろその形なのかもしれませんね。

(ケイケイさん)
 私はこのシーンがすごく好きなんですよ。ヤマさんは、好きなシーンあります?


-------印象深いシーンから-------

ヤマ(管理人)
 あんまりピンと来ない作品だったし、むしろ小賢しさが気に障ったんで好きなシーンはないんですけど、インパクトがあったのは、mixi日記にも書いた蛇口を足で払うシーン(笑)。

(ケイケイさん)
 あはは(笑)。

ヤマ(管理人)
 あ、でも映画日記にお書きの好きだったのは鈴木砂羽と安藤玉恵。特に鈴木砂羽の艶やかさと対比する本音のやさぐれっぷり、そして気風の良さと男前の包容力など、短時間の出演ながら、その女っぷりに魅せられました。にも大いに共感したので、玲子のシーンは概ねどれも好きかな。彼女が演じてなければ、僕の玲子への違和感は耐え難かったはずです(笑)。

(ケイケイさん)
 ありがとうございます。鈴木砂羽、いいですよねー。普通のおばさんもきちんとこなすし、艶やかな役はお色気満開だし、それでいて何を演じても格も感じるしね。中年の彼女の主演作、観たいなぁ。
 事の後、片膝立てて玲子がベランダの椅子で煙草ふかしているシーンがとりわけ良かったです。普通は蓮っ葉に見えるはずが、貫也と寝て、やっと気持ちが解放されたんだなぁと感じたんですよ。あれは普通の女優が演じればそうは思わない。

ヤマ(管理人)
 仕方なさを受容することって、けっこう難しいんですよね。その哀しさと何とかケリをつけた風情っていうのが滲み出てたように思います。ああいうときに女性を突き放せる男は、夫としては正しくても男としてはどうなんでしょうね(笑)。その後の迂闊さは貫也の落ち度だけど、それまでの展開は、やむなきことだろうと思いますよ。

(ケイケイさん)
 夫としてもどうかなぁ? 私は突き放して欲しくないなぁ。子供も多分突き放せません。展開には説得力ありましたよね。

ヤマ(管理人)
 でも、そういうふうにやむなさを理解してくれる妻って、めちゃ少ないと思うんですけど。

(ケイケイさん)
 そうですかね? 夫がこういう偶発的じゃない浮気でも、許す人はいますよ。まぁ少数派でしょうけど。

ヤマ(管理人)
 浮気なら、オスやねんから、しゃあないか。許したるけど、その分、お灸はすえとこってな感じなんですかね(笑)。もっとも貫也の場合は、まさに、里子にバレて詰められたときに、熱くなる湯船から出られなかったのと同じく“逃げられない”もんだと思いますなぁ。

(ケイケイさん)
 逃げられない!(笑)。あれが玲子じゃく、ひとみだったらどうですか? 里子みたいやわ、私(笑)。

ヤマ(管理人)
 突き放せないってことでは何ら変わりないんじゃないですかね。頼られると弱いのは、男の常だと思うもの。

(ケイケイさん)
 それが男性心理ってもんなんですねぇ。

ヤマ(管理人)
 甲斐性にこだわるとこにも通じるんと違いますかねぇ(笑)。

(ケイケイさん)
 でも多分、うちの夫は逃げて帰るわ(笑)。玲子でもね。面倒くさい事が大嫌いなんですよ。

ヤマ(管理人)
 そう思わせてるだけでは?(笑)

(ケイケイさん)
 いえ、私の感想って、多分これが前提だから鷹揚なんでしょうね。

ヤマ(管理人)
 なるほど。それはあるでしょうね~。

(ケイケイさん)
 キャスティングは本当に大事ですね。こういう行間を読ます作品ではとても。この作品は、それはドンピシャだったと思います。

ヤマ(管理人)
 役者は、みんな良かったですね。とりわけ、松たか子だけど。

(ケイケイさん)
 同感です。

ヤマ(管理人)
 あと紀代(安藤玉恵)が手をついて別れてくださいときちんと言う場面に宿っていた毅然がよかったですね。そうそう貫也との自転車の二人乗りの場面も好きかな。

(ケイケイさん)
 私は紀代が親に電話する場面が好きだなぁ。

ヤマ(管理人)
 その場面があるから、手をついて別れてくださいと頼む場面が哀願にならず、毅然とした感じに映るんでしょうね。

(ケイケイさん)
 あぁそうですね。うんうん。

ヤマ(管理人)
 この娘は、ちょっと男に弱くてだらしないけど、自分のことがきちんと分かってるし、心も枯れていない良い娘なんだってのがあったから、そう見えたんだろうなって思いますもん。

(ケイケイさん)
 里子にしても、怖いじゃなくて、一見複雑なだけですよ。

ヤマ(管理人)
 いや、コワいです(笑)。先にも書いた例の蛇口を足で押しやって熱い湯で責め立てる風情なんぞ、絶品だったじゃないですか!(笑)

(ケイケイさん)
 あぁそうかー。男性は怖いんですね。私は当たり前や、もっとやれと思っていましたから(笑)。男女では視線が違って当たり前ですもんね。

ヤマ(管理人)
 そりゃまぁね(笑)。

(ケイケイさん)
 西川美和は、意地悪で性格悪そうだけど、確かに才人だと思います(笑)。

ヤマ(管理人)
 その才気が、いろいろ余計なこともさせちゃうんですよね、きっと(笑)。

(ケイケイさん)
 そうそう。毒牙にかかって、こうやって実生活ばらしてるしね(笑)。

ヤマ(管理人)
 それで言えば、西川美和だけじゃなくて、僕らは大半の映画でそうしてる気がするんですけど?(笑)
 で、ケイケイさんは貫也の浮気を許し愛していると観、よく分からないながらも僕は“男女としては終わったよ、後は、起死回生のパートナーのみ”という臨み方をしているのかもしれないと観ていた里子だったわけなんですが、僕の受け止めたそういうパートナーって“姉御”“女将さん”の世界でなくても可能なの? というのが、僕的疑問でした。まぁ、夫婦と言いながら、父母としての役割のみでやってる夫婦もあるわけだから、それはそれなのかもしれないですけどね(笑)。

(ケイケイさん)
 この夫婦は、妻が夫を立てているように見えて、実はイニシアチブは常に妻という夫婦だったと、冒頭のシーンから感じてました。世間的にいう「賢い妻」ですよ。

ヤマ(管理人)
 それについては、そのとおり。全く異論なし、です。貫也自身が零し、負い目を感じているくらいに出来過ぎの女房だったと思います。これをリアルとみるか、リアルでないとみるかは各人各様だろうけど(笑)。

(ケイケイさん)
 そうなんですよ。出来すぎてて息苦しいですよね。詐欺しだしてから、それが顕著になっていると思います。ラーメン屋は、辞めても生活出来るけど、早くお金貯めるには小金も大切にしてたんですよね。普通の夫は昼夜働かれたらやりきれないだろうけど、あの夫はその点は、ぼお~としてましたね(笑)。
 そういう出来過ぎ妻が、玲子の件で夫に「貸し」が出来て、夫を立てる事をしなくなっただけじゃないですか? 里子は本質的には、何も変わらなかったと思います。

ヤマ(管理人)
 なるほど。最初のほうに「前半と後半は、人格が一変してますから」と書いてあったのは、そういうことだったんですね。

(ケイケイさん)
 ありがとうございます。


-------「生理シート貼り付けのシーン」の意味するところ-------

ヤマ(管理人)
 あとmixi日記のコメント欄に書いたことですが、トイレから出て、そのまま生理用の下着を履く場面ってなんのために設けられていたんだと思いますか?

(ケイケイさん)
 今月も妊娠していませんでした、かな? まぁ最近はセックスしていないから、今月ということはないかな? とにかく、子供とは縁遠いという意味かな?

ヤマ(管理人)
 里子の自慰場面って本作のなかでも強く印象づけられていた気がしますが、あの場面に映っていたパソコン画面の示していたものや開いてあった本がことごとく子宮癌や卵巣癌に関してのものだったのが、なんか意味深でね、僕は、彼女がオリモノを気にしていることを示している気がしていました。もっと言えば、癌で先は長くないことを彼女が知ってて、それで、夫の夢に対してあのような非常手段に出てまでも早急に叶えさせようとしているかのように演出しているのだと思ったんですよね。
 でも、その始末を映画のなかでは付けてないでしょ、例によって。ゆれるでの最後のバス乗車の意味するところであれ、『ディア・ドクター』での最後の伊野とかづ子の病院での再会であれ、思わせぶりに観客に投げ出してますよね。

(ケイケイさん)
 私はあの場面は、カッときて包丁取り出したシーンに繋ぐためのものかと思いました。ずっと一心同体で仕事やってて子供産む暇がなかった、それなのに、滝子(木村多江)の子供と親と擬似家族よろしくやっている夫が憎くなるというわけです。

ヤマ(管理人)
 下着に対する解釈は違ってても、この場面については、僕もそのように解してますよ。女は許すけど、子供は許さんってコエェ~って、またしてもコワさに繋がりはしましたが(笑)。

(ケイケイさん)
 癌の件は違うと私は思うなぁ。最初は私もそう思ったんですが、第二段階の詐欺では、妹として子宮癌になって、お金が要るっていうプロットを持ってきてたでしょう?

ヤマ(管理人)
 そうなんですよ。

(ケイケイさん)
 そのための仕込みなんじゃないですか? もちろんヤマさんの説もアリだと思いますが。

ヤマ(管理人)
 ひとみにあの話で金を出さそうとしたときに、あれれ?なんだよ、そういうことなん?って、何かハズシを掛けられた気がしてヤな感じを受けたんですよね。

(ケイケイさん)
 私も、癌じゃなかったの?と半信半疑でしたね。

ヤマ(管理人)
 登場人物を通じて人間というものを描こうとしてるんじゃなくて登場人物を使って観る側を翻弄しようとしてるのかいなって。

(ケイケイさん)
 あぁそうですね。それが絶賛出来ない理由の気がする。

ヤマ(管理人)
 疑問点の一致に続き、こちらでも一致しましたな(喜)。
 で、それなら、あのわざわざ生理用であることを見せつけたうえで里子に下着を履かせるシーンを設えてた意味は何なの?って思ったわけです。

(ケイケイさん)
 セックスレスは自慰で表現出来ていますから、これはやっぱり子供じゃないですか?

ヤマ(管理人)
 貫也とはセックスレスで、それでも妊娠を懸念しなきゃいけない事情が里子にあったというわけですか?

(ケイケイさん)
 ううん、単に子供がいないというか、そういうものです。

ヤマ(管理人)
 それなら、敢えてあのような下着のクローズアップ場面の必然性はないでしょ。むしろ、TVの児童虐待報道を見て交わす会話のほうが示してると思います。

(ケイケイさん)
 それなら「子供が出来ない」という解釈になりませんか? 私は「子供を作っていない」と解釈していますから。

ヤマ(管理人)
 出来ないなのか、作らないなのかは、そのどっちであっても不明で、単純に「いない」ことしか示せてなかったと思いますよ。

(ケイケイさん)
 正にそれを狙っていたと思いました。

ヤマ(管理人)
 もしかすると、バイト先のラーメン屋のオヤジがあそこまで追ってきたのは、それなりに既成事実があってのことだっていうことなのかな? だとしたら、それって、作劇として絶対やりすぎでしょ? 里子って何者よってことになってきませんか?

(ケイケイさん)
 それはないと思いますね。

ヤマ(管理人)
 でしょ。だから、下着は妊娠問題とは別のはず。子供問題は、TV。されば、下着は癌問題でなければ意味不明ってのが吾輩の説となるわけです(笑)。

(ケイケイさん)
 なるほど、充分に了解出来る想起です(笑)。

ヤマ(管理人)
 ありがと。

(ケイケイさん)
 やっぱりあれは店長の岡惚れでしょう。でもラスト近くでは不穏な感じがありましたから、あのまま刑事が来なければ、男女の仲になってたかもですね。

ヤマ(管理人)
 いやぁ、それはないでしょ。女の人って、そんなに簡単?(笑)

(ケイケイさん)
 簡単かなぁ? 夫を刺そうと思っていたのに果たせなかった。それはそれで頭が冷えたでしょうが、捨て鉢な気持ちは抱いたままでしょ? 夫の自分への愛も現在懐疑的なわけですよ。そこへ自分を憎からず思う男が来た。魔が差すって、そういう事じゃないですかね? 男性にとっては、女の隙。

ヤマ(管理人)
 なるほど、なるほど。こいつは、ご指摘のとおりなんでしょうな。相手よりも、タイミングってことですね。思えば『魂萌え!』の敏子が亡夫の蕎麦打ち仲間の男に口説かれてホテルで一夜を過ごしたのも、そういうことでしたもんねー。

(ケイケイさん)
 そうそう、あれも同じ理由でしたね。あっちは林隆三だったんで、素直に納得出来る作りでしたけど(笑)。

ヤマ(管理人)
 ケイケイさんにも覚えがあるんですか? なかなか鋭い指摘でしたが。

(ケイケイさん)
 ないない(笑)。

ヤマ(管理人)
 隙の生じる余裕なく、ぴっちぴっちやったんでしょうか? 満足か憤慨か忙殺かはともかく(笑)。

(ケイケイさん)
 でも『魂萌え!』みたいに、老いらくにはあるかも? 出来ればラーメン屋の店長より、林隆三がいいわ(笑)。

ヤマ(管理人)
 お~、敏子59歳、まだまだ十年近く先のことや!(笑)。てか、旦那さん死なせちゃっていいのでしょうか?(笑)
 まぁそれはともかく、あの生理用下着は、子供のほうではなく体調不良のオリモノのほうでないと場面として出す理由がないと僕は思いましたし、それならば、ひとみへの仕掛けの仕込みに使おうが使うまいが、里子の抱えている癌への疑念を示しているのだろうと解するほかない気がしました。

(ケイケイさん)
 それは私は想起していませんでしたが、ヤマさんとお話してて、アリな説だと思います。

ヤマ(管理人)
 でしょ。なのに、作り手のほうから梯子を外してくるわけですよ(憤)。だから、小癪な奴めってことになる(笑)。

(ケイケイさん)
 あはは、ヤマさん怒ってるー(笑)。

ヤマ(管理人)
 ええ(笑)。才能の使い方を間違ってるってね(親心)。

(ケイケイさん)
 私も今までの作品と比べて、雑だなとは感じています。

ヤマ(管理人)
 でなけりゃ、単に女性の生活の一部分としての生々しさをリアルに感じさせるためだけにあの自慰場面や生理用下着履きの場面を設えたことになるから、それじゃあ余りに品がない気がします。

(ケイケイさん)
 品がないには大賛成。エログロだって格調が必要ですよ。

ヤマ(管理人)
 花と蛇2人が人を愛することのどうしようもなさのように?(笑)

(ケイケイさん)
 『花と蛇2』はやっつけ仕事丸出しやったですやん(笑)。だから違うけど、『人が人を愛することのどうしようもなさ』はそうですね。半端じゃない過激さでしたが、登場人物の心がひしひし届きましたから。

ヤマ(管理人)
 ええ。品格はともかく、気迫は伝わってきましたよね。『花と蛇2』には、僕は大いに失望したんですが、ケイケイさんは宍戸錠にほだされて、けっこう買ってた記憶がありますよ。

(ケイケイさん)
 良かったじゃないですかー、エースのジョーも加齢には勝てずを、哀愁を持って演じてましたよ(笑)。そこだけの映画でしたが。

ヤマ(管理人)
 そうかも(笑)。でもそこだけのわりに、往復書簡は楽しく盛り上がりましたよねー。

(ケイケイさん)
 ヤマさんとの往復書簡は、いつも楽しいですよ(^-^)。

ヤマ(管理人)
 ありがとうございます。それは僕も全く同じです。


-------本作に窺えた西川美和監督への懸念-------

ヤマ(管理人)
 やはり、自慰場面は夫婦間のセックスレス(愛情の有無は別にして)を示し、生理用下着の接写は、癌への懸念を示しているのでなければ、映画じゃないですよ。でも、そこんとこに収束を与えずに投げ出してるんですよね。思わせぶりに、賢しらぶって。というのが、僕の目に映った今作の核心部分ということになります(たは)。

(ケイケイさん)
 そういう意味では、女性の生理的な部分に対するこの描き方は、私も好きじゃないです。

ヤマ(管理人)
 これについては、ケイケイさんとこの掲示板の書き込みでの「生理シート貼り付けのシーン」の意味するところの受取りに感嘆しました! 貫也が寄り付かなくなっている様子を自慰シーン以上に示していたっていうとこに目を剥きました。驚きの新説でしたが、あれ、人がいなかったら全然ああいう風にやりますよ。 まさにうちに旦那が寄り付かなかった頃の私のようです。(だはは) 誰もいないんだから何もトイレで貼り付ける必要ないんですよね。 あのトイレじゃなくてトイレ出てから・・のあの感じ、グッときました。と書き込んでおいでのリアリティには、脱帽せざるを得ません(笑)。

(ケイケイさん)
 この辺は、女性は自分の実体験と重ねるのでね、色々なんでしょう。

ヤマ(管理人)
 男にはできないですもんね、この件に関しては(笑)。にしても“うちに旦那が寄り付かなかった頃の私”とくると、有無を言わせないものがありますよねー。そーか、って納得するしかありません(苦笑)。監督もリアリティ狙ってたらしいし。でも、男の観客には下着のリアリティって通じにくい気がしますけどね(笑)。

(ケイケイさん)
 私もセックスレスや妊娠していない説だけじゃなくて、この新たな説に感嘆しました。

ヤマ(管理人)
 僕の癌不安説も、数には入れといてくださいよ(笑)。

(ケイケイさん)
 いや、本当に奥深いっちゃ奥深い作品ですよ。ただ、その奧深さに心が宿っていない感じがするのが、残念です。

ヤマ(管理人)
 業物として技巧に走った感じだよね。

(ケイケイさん)
 作り手としては、考えろって事ですかね? その部分に好き嫌いが出そうですね。

ヤマ(管理人)
 考えさせられるのはいいんですよ。むしろ歓迎。でも、翻弄した挙句に投げ出したり、梯子はずすのはひどいじゃないかってことです(笑)。

(ケイケイさん)
 それが「芸風」にならない事を祈ります(笑)。

ヤマ(管理人)
 そのためにも、本作を持ち上げちゃあいけない気がするんですよねぇ。
 どうとでも言えるわけですよ。作り手の側は、材料をまき散らしているだけで、収拾のほうを投げ出して思わせぶりにしてるもんだから。里子が癌不安に見舞われていたからこそ、ひとみへの作戦も思いついたとも言えますしね。あのスカイツリーの望める場所での新しい店構えがほぼでき上がりつつあったときに、里子が腹だか腰だか分からない下半身の痛みに蹲る場面があって、やっぱ癌?って思わせながらも、なんだ滝子んちの鉄階段で足を滑らせたときの打ち身か、なんてハズシを掛けるような見せ方をわざわざするわけでしょ。

(ケイケイさん)
 これは打ち身だと思いましたけどね。でも自慰、生理、腰の露出と、エロではない生々しい場面が多かったですね。女は一人だと、恥じらいがないと言いたかったんですかねぇ。確かにそうですけど、私は目の当たりにしたくないわ。これで共感する女性は少ないだろうし、男性も夢を壊されますね。

ヤマ(管理人)
 作り手の演出意図が、描出のほうから外れ出てしまっている感じがしたんです。そうして、トータルに里子を眺め渡すと、結局「女はわからん、女はコワい」ってなことにしかなりようがなくて、何かピンと来ないなぁってなったんですよ(たは)。

(ケイケイさん)
 うんうん。怖いと言うより、げんなりしますね。

ヤマ(管理人)
 僕は今回、投げ出されているのは、里子の癌問題だと思ったんだけど、最後に早朝から元気にフォークリフトを運転している姿を映し出す投げ出し方は正直、あまり上手くないと思いましたよ。

(ケイケイさん)
 癌の件に、監督もヤマさんの想起はないからでしょうね。

ヤマ(管理人)
 そうかもしれませんね。もしくは、上述したように、演出の狙いが物語ることよりも観客を翻弄するほうに傾いていたのかも。
 平気で運転しているから癌じゃないとも言えないんだけど、先の自慰場面が演出的にはセックスレスを示すのと同様に、こういう映し出し方をすれば、演出的には癌じゃなかったっていうことを示すことになるような気がしますよね。そりゃ、リアルでは癌であったって働けるうちは働くしかないから、癌でありながらフォークリフトを運転するってのは別におかしくもなんともないってな論法も有り得はするんですけどね。
 また、自慰に耽った後の指をティッシュで拭う場面でそのティッシュでそのまま鼻をかむなんてことすると思いますか? 西川美和の演出意図は、何なんだろって思いませんでしたか? 

(ケイケイさん)
 これは映画を見る前に何かで読んでしまったんですが、女性が自慰をする時のリアリティを狙ったんですって(笑)。

ヤマ(管理人)
 え? そのティッシュでそのまま鼻かむのが西川美和のやり方だってことなんですか?(笑)

(ケイケイさん)
 そうしてるかどうかは知りませんが(笑)、狙いはリアリティ。

ヤマ(管理人)
 指をティッシュで拭う演出をリアリティを狙って施すのは大いに解るけど、そのティッシュでそのまま鼻をかむってとこに僕はびっくりしちゃったんだけど(笑)。

(ケイケイさん)
 まぁこれを女性のリアルと表現するのは、私的に品がなくて、私は嫌いです。リアルかどうかも怪しいしね。

ヤマ(管理人)
 指をティッシュで拭うのは、きっとリアルだろうと思うんだけど、鼻かみのほうは、別のティッシュにするのが普通だろうって思いますよね(笑)。実際には、そのティッシュで鼻をかむ女性も全くのゼロではないのかもしれないけど、リアリティってそういうことじゃありませんよね。

(ケイケイさん)
 うんうん、激しく同意です。

ヤマ(管理人)
 ケイケイさんが映画日記で憤慨しておいでた、滝子の子供が貫也を刺すプロットは、僕も作為が過ぎている感じで気に入りませんでした。観客としては確かに意表を突かれるけど、明らかに邪道ですよね。現実にはあり得ることではあっても、そこに観る側の意表を突く以上の表現意図が宿ってなければ、タチの悪い小賢しさでしかなくなる気がするんだけどなぁ。

(ケイケイさん)
 全く同感です。これは里子と別々のラストにするために、あの子使ったのか思って、少々げんなりしました。

ヤマ(管理人)
 ですよね~。

(ケイケイさん)
 親友と観たのですが、もう怒っちゃってねー(笑)。滝子にも、呑気に何笑ってんの、自分の子供が人刺したのに。子供の異変がわかれへんかったら、母親失格やわ!って、偉い怒りようで(笑)。私もそれには同感です。
 ところで、詐欺罪は親告罪ですから、誰も申し立てないと成立しないし、あれは傷害罪で刑務所に入ってるんですよね?

ヤマ(管理人)
 ええ。僕もそう解しています。でもって、作品的には、僕は遂に幼子まで巻き込んじゃった自分たちの行状を貫也がもう終わりにしたくて、刑務所のほうに逃げ込んだんだと思っています。ただ、親告罪ってことに関しては、傷害事件の取り調べをしていけば、自ずと事情は判明してくる部分があるんで、探偵を雇った咲月(田中麗奈)がその事情聴取のなかで求められて訴えた可能性もありますし、探偵が雇い主を明かさなかったとしても、貫也の取調べの俎上に上がった被害者のなかの誰かが事情聴取のなかで警察から求められて訴えた可能性はあると思いますよ。

(ケイケイさん)
 私もそう思います。それを盲ませさせるのが、鶴瓶の刺青ですよね。あの刺青と刑事と顔見知りというので、子供に刺されたなんて恥ずかしくて言えないだろうと、先手を打ってるんでしょうね。

ヤマ(管理人)
 探偵が子供に刺されたと証言するかしないかってなことに僕の関心は向かわなかったから、探偵の刺青にそんな先手打ちの意味は感じなかったんですが、そういう手の込んだことを考えそうな気はしますね、確かに(笑)。
 今回、癌問題にしても、自慰行為の後のティッシュにしても、札束燃やしにしても、印象深い演出場面の多くがあざとさとタチの悪い小賢しさになってる気がして、まさに師たる是枝裕和の悪しき側面の継承が目立った感じがしてるんですよね。

(ケイケイさん)
 これも全く同感。是枝よりはましですけどね。賢いのではなく、小賢しいはぴったりかも。策士、策に溺れる感もあります。

ヤマ(管理人)
 そうなんですよ、だからピンと来なかったって書いたのですが、同時に、ピンと来た人たちは、どういうふうにピンと来たんだろうってのが知りたかったんですよ。すなわち里子という女性が、どういう人物像として立ち現れてきていたんだろうってことが知りたかった(あは)。

(ケイケイさん)
 TAOさん上手に書かれてましたよ。私とは違いますが(笑)。



推薦テクスト:「Healing & Holistic 映画生活」より
http://uerei.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-6d14.html
推薦テクスト:「TAOさんmixi」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1871490090&owner_id=3700229
推薦テクスト: 「なんきんさんmixi」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1870622926&owner_id=4991935
by ヤマ(編集採録)

'12. 9.10. TOHOシネマズ2



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