鶴巻温泉 大エノキ


樹は生きている


    幼子の手で摘み取れるほど

小さかった苗が

千歳(ちとせ)幾霜幾春(いくしもいくはる) 時空超えて

公園に立っている

大エノキよ その胸高囲(しゅうい)10メートル

現代の子どもが指差しながらこう言った

「あそこに登ったことあるよ

 バトミントンの羽根 取りに行ったの」

 

     
                                   我らが父祖もそのまた父祖も

子どもの時代に

御魂宿る木だと教えられただろう

車往来見下ろしながら

大エノキよ その樹高(じゅこう)30メートル

象が尻つきあわせて立っているような根元

その鼻からませ幹を成し

耳、炸裂 葉っぱの花火飛び散る



人の生命 この樹の生面線上の

一点に過ぎぬ

我らが運命の向こう側 見えるとき

こぼれゆくこの瞬間が

大エノキよ 刻んでおくれ「いとおしい」と

幹のくぼみ 苔を根として鎮守のよう

やつでの葉っぱを宿している

四方八方に神の知恵を授かった樹

樹は生きている

     人の心を年輪につむぎ

      墓標のように立ち尽くす