● 望ましくない典型その1〜運動不足と肥満
股関節症の在る無しにかかわらず、いろいろなライフスタイルがあるので、
一概に答えることは出来ません。ただし、望ましくない典型例というものは
あります。その一つは極端な運動不足です。運動不足は筋力低下と肥満につ
ながります。出不精になることでついつい食べ過ぎることも肥満の一因です。
一度、筋力低下と肥満が起こるとますます体を動かすことがおっくうになっ
てきます。
われわれは、この悪循環に陥った人を何人も経験しています。さらに肥満
と共に恐いのは運動不足からくる骨密度の低下、いわゆる骨粗鬆症です。
これは人工関節の弛みの原因となるからです。
● 望ましくない典型その2〜運動過剰と不適切なスポーツ
もう一方の悪い例は関節に過剰な運動負荷を日常的に加えることです。歩き
過ぎや過大な荷重は人工関節の磨耗を早めます。ご存知のように人工関節は
生体と異なって再生することはありません。人工物である限りは繰り返しの
圧迫と摩擦による磨耗は避けられません。自動車のタイヤなどの例で考えれ
ば判るように強い圧力とすり合わせ運動が材料の磨耗を早めるのです。この
ことは人工関節置換術を受けた人だけではなく、股関節症の人全般に言える
ことです。生体の関節軟骨の磨耗も同様にして起こるからです。
痛みがないからといってマラソンに挑戦するのは無謀です。スピードの速
い運動も勧めることは出来ません。また関節の可動範囲を超えるような運動
や過激な衝撃は脱臼や弛みの原因にもなります。
そのような理由で我々が股関節症の人に一番適していると考えているのは
水泳や水中運動です。
● 適度な運動と体重のコントロール
「適度な運動と体重のコントロール」と言葉でいうのは簡単ですが、実は
これがたいへん難しいということは誰もが実感するところです。100人の
股関節症の人には100種類の運動プログラムがあると思ってください。
この本のひとつの目的は「自分にあった運動プログラムを見つける手助け
となる」ことです。
● 痛みとの付き合い
股関節症の人たちを最も悩ますものが痛みです。患者さんが一様にいう言
葉は、「この痛みさえなければ少々の不自由は我慢できるのだが」です。
そのとおりだと思います。痛みは日々の生活を辛く苦しいものに変えます。
痛みを「嫌なもの」「なくしてしまいたいもの」と考えるのも無理のないこ
とです。
しかし、一つだけ強調しておきたいことがあります。それは「もし痛みが
なかったら股関節はもっとずっと早くに壊れてしまう」ということです。関
節がこれ以上の負担をやめてほしいというサインが痛みなのです。このサイ
ンには従って下さい。
なかには「少々痛くても我慢して歩けば力もついて痛くなくなる」という
人がいますが、これは間違いです。痛むときにはまず休む。そして痛みのな
い方法で筋力をつけるようにすべきです。
また、痛みは股関節だけでなくいろいろな場所に出ます。なかには股関節
はほとんど痛まずに膝が痛くて我慢できないという人がいます。あるいは腰
が痛い人もいます。股関節の機能不全は全身の関節に波及します。いろいろ
な場面で股関節を無意識にかばうことが一つの原因です。
痛みそのものはスジの疲労からくるものがほとんどで、これには理学療法
がかなり効果的です。このような痛みも放置しておくと慢性的なものになり
ます。早めに理学療法を受けるよう勧めます。いずれにせよ体全体の負担を
少なくするためにも痛みは重要な指標なのです。
自分の体から発せられる声に耳を傾けてください。
● 股関節を守る5つの原則
1 体重を減らす
2 筋力をつける
3 可動域を増やす
4 日常生活を工夫する
杖を使う、和式から洋式への変換等
5 疲れる前に休む
|