TRIOのJR−60


  JR−60は,1960年代前半にトリオ(現ケンウッド)からキットで販売された通信型のオールバンド・オールモード受信機です。このモデルは時期的には9Rー42Jと一世を風靡した9Rー59の後に誕生し、これら普及型の上位機種にあたります。設計がやや古いので9Rー59Dと比べるとキャビネットが古臭い感じがします。
 基本的な回路構成は高周波1段、中間周波2段のシングル・スーパで,放送周波数帯から短波帯30MHzまでをカバーしています。上位機種たる所以は、50MHz帯用のクリスタル・コンバータを内蔵していることです。そのために受信モードもCW,、AM、SSBの他、FMも対応しています。また、近接波の選択度はIFTだけでは無理で,SSBなどは高価なメカニカルフィルタや多段型のクリスタルフィルタが必要でしたが,時代はまだAM/CWですから,廉価なQマルチプライヤーで済ましていました。もっとも,9Rー59にもQマルチプライヤーがありましたが、BFO兼用でしたのでCW受信時にはQマルチプライヤーは働きませんが、JRー60は両者が独立しており同時に働かせることができます。
 JRー60の価格は、球無し、コンバータ用クリスタル付き、オールキットで、現金正価29,900円でした。スピーカは外付けで、自分で用意する必要がありました。

 今回はフルレストア品としてオークションで入手しました。
 フルレストアの経過等については、前オーナーさんのホームページに詳しく掲載されておりますのそちらをご覧いただきたいと思います。
前オーナーさんのホームページは
美しい信州と自作真空管ラジオJR-60 レストアレストアページに詳細に説明されています。ここではより完成度を高めようと未確認部分のレストアに挑戦してみました。

(写真をクリックすると大きくなります。)





入手したJR−60の状態
@オークションに掲載されていたコメント
 ・
全バンド受信しますが、Eバンドは不明です。
 ・BFO他補助機能も動作していますがQマルチは取説どおりの作用をしません。
 ・バンド切替スイッチが接触不良ぎみです。バンドを切り換えると復旧します。
 ・マーカーX'talが欠品です。
 ・2番目の画像のとおりシャーシはスプレー塗装してあります。ケースは無塗装ですので、汚れ、錆、塗装剥がれがあります。
 ・3番目の写真はシャーシ内部です。電解コンデンサ等は交換しています。
 ・真空管ソケット、中継ラグ以外は全て部品を取り外して再組立してあります。ダイアル糸も張り替えています。
 ・ほぼ回路図に準じて配線してありますが、若干変更してあります。  
A外観
・正面パネルに一部に塗装が剥がれているところがあり、またパネルの上部が歪んでいます。文字盤は大変綺麗です。
・ケースは塗装されておらず純正のままですが、ところどころ汚れ擦り傷などがあります。ツマミなどは全部純正のものです。
B7Mhz用ダイポールで受信したところ
・A〜Dバンドは問題なく受信が確認できました。ただしAバンド(中波)、Cバンド(4.8〜14.5Mhz)のバンド切り換えに接触不良が見られます。
・50Mhzは全く受信できません。
・SSBの復調は大変スムースです。
・Qマルチはチャント働いているのかいないのか良く分かりません。スイッチオンで感度が極端に下がりますが、ボリュームをまわしても発振状態にはならず仕様通りの機能は働いていません。
Cシャーシは金色塗料で全体的に塗装されています。(ところどころ剥がれていますが。)
D信号受信時に受信機に振動を与えると、音が途切れたり、受信感度が変わったりします。
E電源オンのときACの差込の向きによってACラインとシャーシ間でAC100Xの電位が生じます。
F回路を若干変更しているとのことですが何処が変更されているのか分かりませんでした。(調べるのが結構面倒なので途中で止めました。)


再整備の方針

 フルレストア品なのでレストアで指摘されている不具合を中心に対応策があるかどうか考えてみることにしました。(修理は無謀な挑戦かもね!)
検討箇所は次の通り
@信号受信時に受信機に振動を与えると、音が途切れたり、受信感度が変わったりする原因の追究。
Aバンド切り換え時の接触不良の対応策の検討。
B50Mhzを受信できるように。
CQマルチの動作確認。
DACラインとシャーシ間でAC100Xの電位発生原因。

信号受信時に受信機に振動を与えると、音が途切れたり、受信感度が変わったりする原因
@ 音が途切れる原因は音量ボリュームセンターピンのハンダ不良が原因でした。単線の場合ハンダメッキが不十分だったりするとたまに見られる現象です。メーカー製は配線をピンに絡めてハンダ付けします。ハンダ付け不良は防げるのですが、レストアなどで部品を外すときは難儀します。私は以前からハンダメッキした部品をチョンとハンダ付けする方法を取っています。部品の取替え修理が大変楽です。(作っては壊し、壊しは作ったを繰り返した時の名残ですね)   
A受信感度が変わる原因はRF GAINのセンターピンの半田が写真のように垂れてボリュームにわずかに接触しておりました。あるいはケースから取り出すときに押してこのような現象が起こったのかもしれません。余分なハンダを取り除きました。



バンド切り換え時の接触不良の対応
@Aバンド(中波)のバンド切替時に切替スイッチの接触不良が見られました。スイッチをBバンド方向に少し戻すと正常になります。どうもRF増幅(アンテナコイル)の切替スイッチの不具合と見られますが良く分かりません。中波はRF増幅が無くとも問題なく受信できるので、アンテナ入力をMIXコイルに直結しようと考えてました。(実際は変えずに解決)
A当初Aバンド(中波)のみのバンド切替スイッチの不具合と思ってましたが、Cバンド(4.8〜14.5Mhz)の方がもっと深刻なことが分かりました。アンテナを接続するとSSB信号が綺麗に受信できるのですが、極端に信号が弱いのですね。「なにせ40年以上前のものだからこんなものなのかな〜」と思っていましたがそれにしても・・・・・
 色々調べているうちにMIXのグリットに接続されているスイッチの接触不良が原因と分かりました。少し手で押すと感度が見違えるほど上がります。以前接触不良のコイルパックを全部解体し修理した経験がありますが、そこまでの根気が今は失せています。当初はプラスティックのイタバネを作り抑えたのですが、ラジオペンチが差し込める所だったので、で写真の⇒の端子をほんの少し接点側にねじった所、接触不良が解消しました。本当にラッキー!!!
BCバンド(4.8〜14.5Mhz)の接触不良が解消されたら、なんと不思議なことにAバンド(中波)の不具合も解消されてしまいました。またまたラッキー!!!です。
C50Mhzクリコンの項に記載しますが、Eバンドの接触不良は遂に直りません。接点がシャーシ側にあり手が届かないのだ (ノД`)・゜・。

50Mhzを受信不具合の調整
  50Mhzクリコンはフルレストアの対象ではなさそうで、購入時のままのようです。
@Eバンド(50Mhz)に切替してもコンバータノイズも確認されません。テストオシレータで50Mhz信号を入力しても無感状態です。
A43Mhzの水晶がどうも発振していない様子です。1時間ほど電圧が少し高めのテスト用の回路に入れて、水晶発振子に刺激を与えてみたところ、発信するようになりました。\(@^0^@)/やったぁ♪
B今度はテストオシレータの50Mhz信号がかすかに受信できます。トリーマーを調整しても変化はありません。
C局発信号のMIX結合度を調整するためにビニール線をネジって結合度を調整してみましたが、最終的に10Pのセラミックコンデンサーに変更しました。これでも受信信号はまだまだ弱い状態です。
DこのクリコンのMIX管は設計上は6BL8が使用されていますが、真空管の印字が不鮮明で気付かなかったのですが、この基板に使用されている真空管はどうやら6U8のようでした。手持ちの6BL8に代えたところ、信号強度は大分上がりました。でも、まだ充分ではないようです。
Eそもそも6BL8と6U8でそんなにゲインが違うとは思えません。念のため別の6U8を試した所6BL8には及ばなかったものの同等の感度を示しました。基板に差し込んであった6U8のエミ減のようです。今回はいつも行う真空管試験機でのチェックを省いていたので気付くのが遅れてしまいました。
Fその後色々調べた結果、バンドスイッチをEバンドからDバンドに戻そうとすると感度が大幅にアップすることが分かりました。またもやバンドスイッチの接触不良です。なんと言っても40数年前のものですのでやむをえない現象です。
Gコイルパックを取り外し分解修理しても直る保障は無く(むしろ状況が悪くなるかも)、50Mhzはオマケみたいなものと考え、ローカル局が来たときに「チャント受信できるぞ!」って自慢できれば良い程度に改造することにしました。
H50Mhzの信号はクリコンで7Mhzに変換し受信します。そこで、Cバンド(4.8〜14.5Mhz)受信時にクリコンにB電源を供給しクリコン出力をアンテナ端子に接続してやれば50Mhz信号が受信できます。パネルの周波数表示と若干違うけど気にしない。このとき50Mhz以外のアンテナ線は外します。
Iこの切替はスタンバイスイッチ(無くても支障がない)を取り外し、代わりにクリコンへのB電源、クリコン出力のオンオフスイッチを取り付けました。
J結果は上々です。丁度発生していた(5月5日)EスポでSSBとFM信号を受信することができました。\(^ ^)/ バンザーイ

Qマルチの修理

@これまで何台かの9R−59、JRー60のQマルチを見てきましたが、仕様通りに動作する例はほとんどありませんでした。原因は部品の劣化としか言いようがありません。特に1000P、3000Pのマイカコンデンサーが入手困難な状況を考えると修理はかなり難しいように思います。
 マイカにこだわらなければ1000P、3000Pのコンデンサーは入手できますが、同じ容量であっても何故か発振回路はマイカとかチタコンでないと発振しませんね。と!言うわけでQマルチは現状のままにしようと思ったのですが、シャーシに引き込んであるQマルチの配線を取り外さなくとも、Qマルチサブシャーシを引き出せそうなので一応調べてみることにしました。
・3000Pと1000Pのマイカを取り外し容量が適正か調べました。それぞれ2970P、987Pとほぼ正常値で使用上問題がありません。
・配線をチェックするとB電圧が6AQ8グリッドの2番ピンに接続されています。本来は3000Pが接続されるQマルチコイル側に接続です。
・これでは発振はしません。マイカコンデンサーの取り付け時に正しくハンダ付けし直しました。
・早速、Qマルチサブシャーシを本体シャーシに取り付け動作確認です。正常に機能しています。\(^ ^)/ バンザーイ
・但し、Qマルチ用ボリュームにガリがあり、その影響でQマルチの掛かり具合が多少不安定になるときがあります。
・ここでで使用されているボリュームは1回路2接点のS付きボリュームで、代替品の入手は困難です。
・ボリュームをばらして接点復活剤という手もありますが、Qマルチが必須ということでもないので、取りあえずこのままでOKとしました!
A写真2と3番目の15Pのハンダ付けを見比べてみると分かりますが15Pの片側がハンダ付け不良となっていたのでハンダを付け直しました。マーカ発振部はX'taマーカとして7Mhz帯の水晶FT243を差し込んだ所チャント発振しました。

ACラインとシャーシ間でAC100Xの電位発生
 何のことは無い、ACラインとアース間の電位差でした。ハイ、シャックのリグは全てアースに落としております。お騒がせ! il||li▄█▀█●il||li
その他
 
ハンダ付けで気になる箇所があります。性能には直接関係がありませんが見た目を良くするために、後ほど配線やハンダ付けの再チェック時に余分な部分はカットしたいと思っております。
 こんな訳でJR−60全機能が動作するようになりました。
今後の課題としては@コイルパックの接点不良箇所の修理(特に50MhzのEバンド)A正面パネル上部の歪み修復などがありますが、何時になるか気が向いたらと言うことにしたいと思います。
その後
 先の地震で文字盤が割れてしまいました。幸い新品の文字盤が入手でき入れ替えております。

下のイラストをクリックするとそのページを表示します。


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