アンクルKの他愛もない話

人形劇・影絵劇の台本 BGMを操作しながらナレーター気分になってお楽しみ下さい。

五百ぺんに一匹の魚

『販売の極意を、私がどこで授かったかご存じですか。』と、セント・ルイス出身の今では引退している、ある製造家が私に話しかけた。

『いいえ、どうぞそれをお聞かせ下さいませんか。』

『それがちょうど、ここの所なんですよ。』

異様に感じた私は『ここですって?』と聞き返した。

『ええ、ちょうどここですよ。』と言ったのは、オザークス湖の上にボートを浮かべていたときであった。販売の極意を習得したところが、この湖の上だというのです。私が驚いたのも無理はないでしょう。

『販売の極意を伝授されたにしては、場所がらが少し変ではありませんかね。』と私は言った。

『なるほど、確かに変わった場所柄といえましょう。その変わっている不思議な話をいたしましょう。それはこうなんですよ。私は今迄にやったことのない、バスを釣りにここにやって来た時、ちょうど、この湖が落成したのでした。私は一人の船頭を雇って釣りに出かけたのです。その船頭は素晴らしいバス釣りの名人でした。私ときては、からきし釣りにかけては不得手でしてね。』

この船頭は、しょっちゅう釣り糸を投げ込んでは手繰り込み、また投げ込んでは手繰っておりました。まるで魚が引っかかって来るのを死ぬまでも待とうという風に見うけられました。私の方は、またこれとはてんで反対でした。投げ込んでも引っかかって来ないと、どこかへ場所替えをしてみたくなりました。

ある日のこと私はこんなことを尋ねました。

『船頭さん、一体一匹釣り上げるのに、何べんくらい糸を抛り込むもんかね』と。

船頭は至極真顔になったその馬面をこっちに向けて、ものぐさそうな話しっぷりで

『ほんとうに形のいい奴のことなんでしょうね、そうじゃないのかね。』

『まあ、かなりの奴だよ。』

『そうさね、ざっと五百ぺんくらい抛り込んででみないと、形のいいのがかからないね。まずそれくらいの勘定になるかしら……』と。

その言葉で、私は販売上に偉大な教訓を学んだわけです。今でもこれを金科玉条としています。ただ一匹の魚を釣るにさえ、五百ぺんは試さなくてはならないということになると……。

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