アンクルKの他愛もない話

人形劇・影絵劇の台本 BGMを操作しながらナレーター気分になってお楽しみ下さい。

アイデア・セールスマン

彼はその販売部に新米として入社した。その上彼はその土地にも新米であった。そして又、考えてみれば、この業界にも新米であったのだった。だが、そんなことには頓着しなかった。二ヶ月も経たないうちに、彼は販売の点で幕の内格に昇進していた。おまけに、一年と経たないうちに、彼は他の同僚達などはみな間抜け者だとみくびるようになった。

bb『あの新米の奴がやっているやり方を見習ってこい。そして全セールスマンが幾分でもそれにあやかるようにやれ。』という指令がセールスマネージャーの手から飛び出した。

そこで、私は三日間、この若い魔法使いと一緒に過ごして、彼の販売振りを研究して、どうしてこの若者にあんな素晴らしい仕事が出来るのかを見つけ出そうと努めた。三日もかからないうちに、いや三時間もたたないうちに見つかった。

彼がやってくる時には、いつも、

『ハリーさん、ひとつ私にうまいアイデヤがあるんですが…というのは、うちの会社の商品を二倍も早く回転させるという打って付けのアイデヤなんですが、勿論お聞きになりたいでしょう。』という風だった。

『勿論だね。』

セールスマンというものは、アイデヤなら何でもござれ、販売のアイデヤでも、広告のアイデヤでも、陳列のアイデヤでも、またその他ありとあらゆるアイデヤを所有する者であるべきである。

商人が買うのはセールスマンが持ち込む商品そのものではない。だが、その商品を販売するアイデヤなのである。

私はこのセールスマンが使っているこの手のセールスマンシップ、すなわち、アイデヤを販売するというやり方よりも、より以上効果的なセールスマンシップが世にあることを知らない。多くのセールスマンは、私が、アイデヤの効能書をこのように繰り返し述べたてるのを傾聴していたが、程経て後に言うには、

『素晴らしい。実に素敵です。ですが何処へ行ってそのアイデヤを仕入れて来たらよいだろうか。』

それは何の苦もない容易なことである。というのは、精神的欠陥のない人なら誰でも、このアイデヤを発育させることが出来る。それを成し遂げる唯一のことは、毎晩、数分ずつ思考をこらし、夢想し、空想をいとど逞しくすることだけなのである。

私の知っている優秀なセールスマンに、どうしてそんな優秀なセールスマンになったかと尋ねた時に、落ち着き払った彼の打ち明け話によると、

『そうなるには、私は毎晩、半時間ほどは、お客のことや、お客の問題について考えるのです。私の生涯の中で、沈思瞑想に費やすこの半時間よりも大きな収入を払ってくれるものはありません。』

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