失敗の玉手箱
私の知人のセールス・マネージャーは、部下に向かって、好んで反対の言葉を使っている人がいる。どうも人間というものは、片意地なもので、真っすぐな真実を語るよりも、反対に詰まらない、馬鹿々々しいものという方がかえってよく分かってくれるものらしいと言っている。そうかもしれない。
ここに『失敗の玉手箱』と題する古典的な彼の講義から少しご紹介しよう。
まず、書き出しに
『吾輩が諸君に願うところは、諸君がすべて失敗するために仕事することである。吾輩の忠告に従うならば諸君は望み通りになるであろう。まず手始めに、人間の万事万端、すべてのものを批評するがよい。日の照る下に在る、ありとあらゆるものに関し、賞賛の言葉を発してはならない。』
『耳にする悪いニュース、商売の失敗、物価の下落、不景気、そのようなことどもなら、どんな些細なことでも見逃してはならない。善いニュースが入ってきたなら、これを直ちに忘れてしまう。しかし、悪いニュースは決して忘れてはならない。』
『最後に、働いてはならない。馬鹿だけが一所懸命に働き、利口な人は、働かなくとも、どうにか漕ぎ抜けるものだ。誰でもお客に会うのは一日のうち一時間で充分である。そしてこの一時間を三十分に切り詰めることができる人があれば、これこそ吾輩の心情をくむものといえよう。』