セールスマンシップに二つの型
小売界の第一人者として全米中に知れ渡り、特にニューヨークやボストンで羽振りをきかせた人がいる。私は彼の話をしてみたいのである。
彼は若いころ、小売店のセールスマンには二つの型があるものだと覚った。
一つは見ず知らずの人のように他人行儀に扱うことで、今一つは、親戚付き合いとか、親しい人扱いする遣り方である。
普通の店では、一見の客が店に入ってくると、店にあるありったけの品をさらけ出して売ろうとする。けれども、その品が果たして先方に役立つかどうかは、殊更に考えていないのである。
しかし、店員の父親とか母親、親しい友人が来ると、その態度はがらりと一変して、品物の優秀な点を説明する。そればかりでなく、悪い点までも説明してやる。また、何とかして品物の価値をわからせようと努力することを厭わない。
親戚や親しい人に対する彼らの方法を見ていると、それがどんなに効果があるものかを会得した。
それで、彼はこの種のやり方を用いて、お客に親身になって、自分のことのように関心を持ち、本当のことを話して、どなたでも選り好みをせずに真心を尽くす精神を全店員に訓練した。その効果は実に歴然たるものだった。
けれども、可笑しなことに、多くのセールスマンが、この土台の上に根城を構えて努力しようとしないのには合点がいかない。