販売の好機は「夜」に
今は貿易会社の社長であるが、未だ若いセールスマンであった頃、一つのアイデヤが偶然にも彼の頭に浮かんできた。
他のセールスマンは、その日の勤めが終わると、直ぐさま仕事を片付けて、それぞれバーや映画などに出かけるのが常例である。彼だけは家に帰って、それも静かに室に入り込んで、それから「本当の販売を始めた」と彼は書き留めている。
それはどういう意味かと尋ねると、一生のうちで一番良く販売できたのは『夜』であったとの返事だった。
『夜は販売について一番早く名案が浮かんでくるからです』と彼は説明した。
彼はその日の仕事――訪問しようとする人に対して、かなりはっきりした構想が纏(まと)まらないうちは、朝、出勤しなかったと言っていた。彼はお客がどんなことを言い出すだろうか、それに対して何と受け答えしたらいいかとあらかじめ研究しておくように努めた。
『成功しようと焦心するより、セールスマンは誰でも、自分の室の静寂の中にあって最良の販売ができるものである。』と彼は確信をもって話を終えた。